可愛いって言って

 年長さんになった頃、唐突に両親の転勤が決まった。引っ越した先は静岡某所。幼稚園も編入する訳であって、人見知り気味であった私は新しい環境に中々馴染めないでいた。
 少し前に発現した個性も、感情が昂ると髪の毛がふわふわ浮くという地味な個性であり話のきっかけにもならず。
 転入からこの一週間の間、何人か話しかけてはくれたが、上手く受け答えが出来なかった為か直ぐに興味を失われるのを繰り返していた。
 そんな環境が変わったのは全員参加の鬼ごっこでのこと。発育が遅めであった私は同年代の中でもだいぶ体が小さく、中々鈍臭かったのだ。
「あ、いたー!」
「え!?」
 鬼になった子にすぐさま狙われる羽目になったのは言うまでもない。姿を見られたら最後、必死に逃げても追いつかれて鬼を交代させられる。鬼になって皆を追いかけても、全くもって追いつかない。
 涙をいっぱいに溜め、泣きそうなのを耐えながら駆けていたら案の定、足がもつれて思いっきり転けたのだ。
「いたい……」
 ぽろっと大きな雫が一つ零れ落ちる。地面を握って顔を上げれば、追いかけていた子の背中は遥か遠くにあった。ツーンと鼻が痛くなる。泣いちゃいそう。
 むりだよ、こんなの。小さいながらに絶望感を感じていた、そんな時だった。
「いつまでねてんだよ?」
 そんな声と共に、視界に靴が入り込んだ。目の前に立ち塞がったらしい人物はそのまましゃがみ込む。視線を上げれば、不思議そうな顔をした男の子と目が合った。
 ぱちりと合った視線。赤い目、きれい。ぽろぽろと涙を流しながらも私は呑気にそんな事を考えていた。
「ころんだから、ないてんの?」
「ころんだし、ずっとおにだから……」
 目の前の男の子はふーん、と呟く。次にはニンマリと何やら思いついたような表情をすると、立ち上がり手を差し伸べてきた。
「どんくせーやつ! かわってやるよ」
 ぐいっと手を握られ強制的に立たせられた。皮が剥がれ、血が滲む両方の膝小僧が曝け出される。男の子は私の膝を見つめて少し目を見開いたかと思えば、顎を少し上げ、自身を指差した。
「じゃ、おれがおにな」
「……いいの?」
 起こしてくれたこと、代わってくれたことが言葉に出来ない程に嬉しくて、勝手に私の髪の毛は浮き始める。膝は相変わらず痛いけれど、嬉しさのが勝っている。泣き笑いだ。
 長めで目に被さっていた前髪もふわふわ浮き出し、視界は良好。得意げな男の子の顔が鮮明に見えた。
「かみのけ、ういてっけど」
「……うれしかったから」
「ふーん? ま、おまえははやくせんせーのとこにでもいけよ」
「うん、ありがとう」
 「おれがぜんいんつかまえてやる!」と言って男の子は駆けていく。全員は捕まえられないよ、と思いつつも、何だかドキドキとする胸を抑えていたら、血相を変えた先生が来て直ぐに手当てをされたのだった。
 そう、この男の子こそが私の初恋、爆豪勝己君である。今思えば、私がずっと鬼だったから暇で代わりたかったのかも知れない。それでも、大切にしたい思い出の一つなのだ。
 このファーストコンタクト以降、私は勝己君が大人数でいない時は積極的に話しかけに行くようになった。
 勝己君は何でも出来るし、爆破の個性はウチのクラスの中で一番ヒーローっぽいしで人気者だった。それにも関わらず、私が話しかけに行った時には「ほんとうにおまえどんくせー」とか、「おまえ、おれがいなきゃダメだな」とか言いつつも構ってくれて益々好きになった。
 人見知りも緩和して他にも友達は出来たが、私の中での一番は勝己君だったのだ。
 出久君にだけは当たりは強いが、私を含めその他の人にはまだそうでもない。そんな状況が変化したのはある日の事だ。
 随分明るい性格へと戻った娘に母は歓喜したのか、引っ越す前以来伸び放題であった髪の毛を切ってくれた。
「まえがみ、アイドルのこといっしょにして」
「長くなくて良いのね?」
「うん。もうみんなとおはなしできるし、こわくないもん」
 うんと可愛くして欲しい。キラキラの姿でテレビに映る、話題のアイドルを指差して私は母にお願いした。とっても可愛い髪型、とっても可愛い衣装で踊る彼女達を真似したら、勝己君は可愛いって思ってくれるかな?
「大丈夫。ナマエは何しても可愛いんだから。その子はきっとナマエにメロメロになるわよ」
「メロメロ? すきってこと?」
「まぁそうね〜」
「うれしい! すきなのいっしょだ!」
 はしゃいでいる私と、おませさんなんだからと言いながらもにこやかに微笑む母。綺麗に整えられた髪の毛は、アイドルと同じ様に前髪は少し眉下で、後ろ髪はツインテールだ。
「あれ、ナマエちゃん、かみのけきったの?」
「ありがとう、いずくくん! かわいいでしょ?」
「えっ! うん! もちろん! かかか、かわいい……」
 尻すぼみに小さくなる言葉。顔を真っ赤にして褒めてくれる出久君に私も喜ぶ。他の子達にも好評だったので私の気分は上々だ。早く、勝己君に見せたいな、可愛いって言ってくれるかな? 早く来ないかな。
 チラチラと扉を確認していれば、勢いよく開いた。勝己君の登園である。
 私の心臓はバクバクと鳴り始める。
「かっちゃんおはよー」
「かっちゃんおはよー、ね、ナマエちゃんのことみてあげて! かわいーのよ!」
「おはよー! ナマエちゃんアイドルみたいなんだよー」
「はよー、は? ナマエがかわいい、って……」
 中へと歩いてきた勝己君と視線が合った。猫みたいな目が、更にぐっと大きくなる。
 何故だか微動だにしない勝己君に、私は服を握り締めながら勇気を振り絞って声掛けた。
「かつきくん、どうかな? おかあさんにかわいくしてもらったんだけど……」
「……は? ナマエ、おまえ……」
 勝己君はわなわなと唇を震わせると、一気に私の方へ近づいて来た。両手で私の頬を挟み込むと、ぎゅっと押した。私の顔は瞬きする間にタコチューと化したのだ。
 どうしてこうなったのか困惑して、私は勝己君の顔を見上げたまま瞬きを繰り返す。勝己君は眉毛を寄せて口をへの字にして、何だか仇を見るような目で私を見ていた。
「……この、ブス!」
「ぶふ?」
「かわいくねーってことだよ!」
 「わかったらそれ、もうやめろ!」と叫んで、勝己君は頬を掴んでいた手を離した。ブスって、かわいくないってことなんだ。勝己君は可愛いって思ってくれなかったんだ。
 ――悲しい。
 クラスの空気は最悪だ。先生の勝己君への怒りの声に、バツの悪そうな表情の勝己君。私の周りでおろおろとするクラスメイト達。
 涙を溢さないように唇を噛み締めて耐える自分。楽しそうに浮いていた髪の毛は鳴りを潜めていた。
 これが私のトラウマ事件である。その日は一日気分がどんよりとしていたし、勝己君に話しかける事も無かった。
 迎えに来た母を見たら頑張って流さないでいた涙も勝手に溢れ出るし、頭の高くで二つに結って、朝は楽しそうにふわふわと浮いていた髪の毛は見る影もなく。涙まみれで抱きついて来た娘に母は察したらしい。強く抱き締めてくれた。
「ナマエちゃんは私達のとっても大切な、とっても可愛い娘よ」
「でも、かつきくんにブスっていわれた」
「勝己君は照れ屋さんなのよ。誰から見ても可愛いくなれば、勝己君も素直になれるかもね」
「そうかな?」
「そうよ、絶対」
 母の目は闘志に燃えていた。今思えば少し怒っていたのかも知れない。勝己君の家とはご近所で、母は光己さんと挨拶した後直ぐに仲良しになったみたいだが。親馬鹿の気質があるので琴線に触れたらしい。
 それから可愛くなるブートキャンプが始まった。
 目標は女の子が憧れるアイドルのあの子。肌は真っ白で体は華奢で、お顔もとっても可愛くて小さくて、いつも笑みを絶やさなくて穏やかな、そんな子だ。
 まずは塗るのを嫌がっていた日焼け止めを塗る事にした。肌に密着する様な感覚が嫌で、夏なんかは真っ黒焦げになって駆け回っていた私だったが、その年からは母の日傘の中に入るようにした。
 食べ物の好き嫌いも激しかったが、何でも食べれるように矯正した。パーソナルジムのインストラクターである父が、体には栄養と運動と睡眠が大事だとか何とか言うものだから。両親と色々と話し合いをして、その時期からバレエスクールへ通う事となった。
 バレエの基本が身についた頃――小学校入学した時期には姿勢はしゃんと伸び、小さめだった体も、良質な運動と睡眠のおかげか同年代の子と同じ大きさまで成長していた。
 幼稚園時代は勝己君とは毎日顔を合わせていた訳だが、日課のように「ナマエはブスなんだからそれやめろ」と言われていた。その度に「じゃあもっとかわいくなるようがんばるね」と微笑むのだが、勝己君は毎回ぐっと空気を飲み込むと、踵を返してどこかへ行こうとしてしまう。
 それも毎回追いかけるのだが、男の子の中でも足が速い勝己君に私が追いつける訳もなく。暫くすれば勝己君は立ち止まり、私が追いつくのを待つと「追いかけてくんな!」と私の頬を掴んで伸ばすのだ。
 初めは振り返って腕が伸びて来た瞬間、爆破されるのかと少し驚いて身構えたが、頬をびよーんと伸ばされるだけであった。今は甘んじてそれを受け入れている。
「だって、もうちょっとかつきくんとおはなししたい」
「……そーかよ」
 満更でもない顔で「じゃ、そこ」と示されたベンチに二人で座り、何気ない話を続けるのがルーティーンだった。
 二人だけのこの空間では勝己君は素直に私の話を聞いてくれるし、自身の話もしてくれる。まさに毎日の至福の時であった。
 勝己君はヒーローを目指しているらしい。ヒーローの事はあんまり興味無い私であったが、勝己君が目指すのならば理解を深めようと、ヒーローについて詳しいらしい出久君に尋ねようとした時がある。
 出久君は未だ個性が発現しておらず、無個性だなんだと、勝己君を筆頭に色々と言われているらしい。ヒーローにそもそも興味が無い為個性にも拘りが無く、自分の個性も大した事ない、無個性みたいなもんだからと私はあまり偏見がなかった。ご近所さんな事もあってよく話しかけていたのだ。
「いずくくん、オールマイトについてくわしい?」
「え、ナマエちゃん、オールマイトにきょうみあったの!?」
 一つ頷くと、出久君はパアァと表情を明るくして意気揚々と話そうとしてくれた。
「おい!!」
 遠くにいた勝己君が大きな声をあげたかと思えば、猛烈な勢いで近づいて来て、私の右手をぐいと引っ張った。そのまま勝己君は何処かへ行こうとする。
 出久君と話すようになった始めの頃はよく勝己君が乱入して来たが、最近はあまり無かったのに。
 引っ張られながらも慌てている出久君に小さく手を振ると、遠慮がちに返してくれた。
 連れて来られたのは勝己君と二人で話すあのベンチ。勝己君はどすんと座ると、掴んでいる私の右手を引いてお前も座れと示す。素直に隣へ座れば、勝己君は私の手を離した。
「……おれにきけばいいだろ。なんでよりにもよって、デクに」
「オールマイトのこと、おしえてくれるの?」
「おしえたるわ。だからデクにはきくな」
「うん、わかった。じゃあかつきくんがオールマイトどうすきなのか、おしえて?」
 口角を緩めて話すのを待っている私を勝己君は瞥見すると、ぽつりぽつりと話し出す。オールマイトのここが凄いとか、オールマイトのあの時がカッコ良いとか、そんな話を相槌を打ちながら聞いていた。
「……つーか、なんでいきなりオールマイトのこときょうみでたんだ?」
「え、えーと……」
 勝己君がヒーロー目指してるし、オールマイトの事好きって聞いたから。好きな人の事もっと知りたかったから、だなんて、本人に言うのはちょっぴり恥ずかしかった。
 顔を熱くして、目線を彷徨わせながら言葉を探す。そんな私が口を開くよりも先に、痺れを切らしたらしい勝己君がまた問うてきた。
「ヒーローめざすんか?」
「いや、ぜんぜん!」
「だろーな。おまえヒーローになれそうにねーもん」
「だから、ナマエはヒーローになったおれに、おとなしくまもられておけばいーんだよ」と、そっぽ向いてぶっきらぼうに言った勝己君に、私の心はまた鷲掴みにされたのだ。
 小学校に上がってからは、勝己君と会う事がめっきり減った。クラスが別々になり、物理的に距離が空いたからだ。
 学校終わりには私はバレエの習い事へ行く必要があるし、勝己君も光己さんが言うには「ゆーえーに行く」とのことで、体作りを始めたらしい。
 話す機会が少なくなると、やっぱり寂しい訳で。勝己君が居るクラスの前を通る時、窓越しに勝己君を毎回見つめている。勝己君は視線に過敏なのか直ぐに気付いてしまうので、私が見ていると分かると廊下へ出て来て文句を言うのだ。
「おいブス! なんの用だよ」
「おはよう勝己くん。用は特にないけれど、元気?」
「はぁー? 元気だわ!」
 中身の無い話にも意外と付き合ってくれる。小学校へ上がってから、名前呼びじゃなくブス呼びになったのはだいぶ悲しかったが、もっと可愛くならなきゃと自分磨きに益々精進した。
 美容が好きな母にスキンケアとヘアケアを教えて貰い、使っても良いと言うので母のケア用品を使って始めてみたのだ。自分ではあまり分からないが、友達が「ナマエちゃん何かまた可愛くなったね」と褒めてくれるので、嬉しくて続けている。
 勝己君の私へのブス呼びは、勝己君の家に遊びに行くと名前呼びへと戻るから、もしかしたら気まぐれなのかも知れない。
 そんな毎日を過ごしていた。
 小学校も六年生になった。中学年の頃から男の子に告白されるようになり、学年が経つに連れてそれは回数を増やしていた。好きになって貰えるのは私が可愛くなった証明みたいで嬉しいが、私は勝己君が好きなのである。
 告白する勇気は相当なものが必要だ。罪悪感が込み上げながらも断りを告げ、感謝を述べる。それを繰り返していればある時話が耳に入ったのか、勝己君との話題にそれが上がった。
「おいお前、なんかモテてるらしいじゃねぇか」
「え? モテてるかはよく分からないけれど……」
「告白よくされてんだろ!」
「何回かはされているかも」
「それがモテてるって言うんだわ!」
 目をつりあげて怒鳴った勝己君は、片手で持っていたお煎餅を力のままに割った。そのまま口の中に入れ始める。中々器用である。
 そう、今は勝己君の部屋でお勉強会中なのである。小学校へ上がってからは、可愛いだけじゃなく、成績も良くしようと自分なりに努力をしていた。だが中学年に上がった頃、唐突に勝己君に「勉強会やるぞ」と言われ、学校の内容よりも更にレベルが上の勉強を、習い事が無い放課後に勝己君とするようになったのだ。
 勝己君は偏差値が日本一高い雄英高校を目指しているのだから、早い頃から勉強を始めて損は無いだろう。一方私は学校の成績が良ければ良いかなと言うレベルなのだが、まぁ勉強が出来るに越した事はないので喜んでやっている。
 いつもは穏やかな時間が流れているのだが、何だか今日は勝己君の虫の居所が悪いらしい。
「しかも、お前。好きな人が居るとか何とか言ってるらしいな」
「え……うん」
「誰だよ」
 勝己君は映画に出てくるようなヤンキーみたいな顔をしている。反抗期が来たのか、最近勝己君はどんどん柄が悪くなっているようだが、私の前ではそうでもないので気にしていなかった。だが今の顔は誰が見ても柄が悪い。
 優しい所があると知っているからこそ、私は勝己君の事が好きだけども、もう少し穏やかな表情を心がけた方が良いとは思うのは事実だ。
 未だに学校ではブスと呼ばれているので、まだ自分の可愛さが足りていないのだと自覚している。そんな私が貴方が好きな人です、なんて勝己君に言える訳もなくて。視線を教科書に落とし、テーブルの下で手をもじもじとしながら、どう誤魔化そうか考えていた。耳がとても熱かった。
「……言えねーんかよ」
「……うん」
 勝己君は黙った。ちらりと勝己君の顔を見れば、彼はヤンキーみたいな表情を無くし、眉を寄せて口をへの字にして私を見ていた。
 静かな時間が流れ始めてどの位経っただろうか。最初に言葉を発したのは勝己君の方だった。
「つか、ババアに聞いたけど、お前折寺来ねーんかよ」
「え、うん。地区別れちゃったしね」
「別に行こうと思えば行けんだろうが」
 勝己君や出久君の家は折寺中学校の地区だが、私の家がある場所はぎりぎり入っていなかった。勝己君が言う通り、地区が違うからと言って折寺中学校へ入学出来ないって事は無いのだが。
 勝己君に可愛いって言ってもらえるよう、自分磨きに勤しもうと新しい環境にしてみようかなとか考えてみたのだ。まぁ特に意味は無かったと言っても過言では無い。
 それを伝えると勝己君はまた難しげな表情になる。
「……好きな奴がそっち行くんかよ」
「え!? 違うよ!」
「そうとしか思えねー」
「違うって! だって、私の好きな人は、」
 勝己君だもん。思わず出てしまった言葉。可愛いって言って貰ってから伝えようと思っていたのに。
 口を思いきり両手で押さえて後ろへと身を引こうとした。そんな私よりも先に勝己君は身を乗り出し、口を押さえようとした私の腕を掴んでそのまま前へと引き寄せる。私はテーブルへ前のめりになった。
 勝己君が腕を掴むから、私の赤くなっているだろう顔を隠せるものが何も無い。
「ナマエ、俺の事が好きなんか」
「えっと、えっと……」
「はっきり言えや」
「勝己君の事がずっと好きです……」
 尻すぼみになる言葉。恥ずかしすぎて思わず目を瞑ってしまい、口をきゅっと結んだ。勝己君は何にも言わない。あぁ、だから――
「勝己君に可愛いって言って貰えるまで、告白したくなかったのに……」
「ハァ!?」
 勝己君は掴んでいた腕を離すと、テーブルを跨いで私の横へと移動した。困惑して見上げる私の頬を、勝己君はしゃがみ込んでからぐいっと摘み上げる。
 勝己君の表情は怒っているみたいだが、目は狼狽えているかのように視線を泳がしていた。そして決意を決めたかのように私と視線を交わせる。
「ナマエは元からクソ程可愛いわ!」
「え!? でも勝己君私の事ブスだって」
「ガキの頃の言葉だろうが!」
「え、でも、今も言われてるし」
「ッ、ハァー……後に引けなくなってたんだよ、分かれや!」
「分かんないよ!?」
 逆ギレにも程がある。言ってくれなきゃ分かんないよ。話しているうちに段々と目をつり上げていた勝己君は、一つため息を吐いて表情を和らげる。私の頬を掴んでいた手を離した。
 そしてそのまま私をぎゅっと抱き締めたのだ。
 突然の事に私の心臓は破裂してしまいそうに脈を打ち始める。
 ――何で、どうして、まさか。
 私とくっ付いている勝己君の心臓も、幻聴じゃなければドキドキと鳴っている気がする。
「ねぇ、勝己君、私の事、好き?」
「……好きだわ、ガキん頃からずっと」
 絞り出したようなその言葉に私の顔は緩んだ。いつも以上に髪の毛はふわふわと浮いている気がする。気持ち制御出来ないよこんな状況。勝己君の背中に手を回して強く抱き締めれば、私が痛くならないように少しだけ強めて抱き締め返してくれた。
 ――あぁ、好きだなぁ。
 勝己君、私の事好きだったんだ。全然気づかなかったなぁ。両想いなの、嬉しいな。心も何だかふわふわした。
「モブ共がナマエのこと可愛いって言う度に爆破させてやりたくなるから、これ以上可愛くなるな」
「勝己君にだけ可愛いって言って貰えれば、私は嬉しいよ」
「……可愛いなんて言い殺してやるから、一生俺のそばにいろや」
「……うん!」
 まさかこれが段階すっ飛ばしてプロポーズだったなんて。雄英高校普通科の卒業式を終えた時、ヒーロー科の卒業式を終えて抜け出して来たらしい勝己君が来て「とりあえず籍入れに行くぞ」何て言うものだから。
 雄英高校の一つの伝説として語り継がれる事になったのは言うまでもない。

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