イルミ見に行きたい
※ネームレス今日は講義も三限終わりでアルバイトもない。勝己が午後から休みだと言うものだから、そのまま彼の家へ遊びに来た。
ベストジーニストのサイドキックとして活躍する勝己だが、プロヒーローとしてデビューして早々、家を出て一人暮らしを始めた。彼を知らない人は意外と思う程、丁寧に片付けられて落ち着く室内に私は入り浸っているのだ。
今日もそうだ。突然休みになったけど飯食うか、という連絡に、ここ数ヶ月勝己が忙しくてまともに会えてないこともあって、尻尾を振る犬のように軽い足取りで彼の家を訪ねた。
勝己の作るご飯は、そりゃあもう、誇張無しにほっぺたが落ちそうになる程美味しい。高級料理の味ではなく、爆豪家の味なのだが。その家庭の味感が気持ちをほっとさせ、安心感をも感じさせるのだ。
老後、体力的にヒーローが出来ない年齢になったらお店出したら? なんて問うたことがある。
「俺ァ死ぬまでヒーローやンだよ」
それ、本気で言ってんの?
すぐに売り言葉を買ってしまう気質がある勝己だが、この事に関しては本気なのかどうかわからなくて怖い。
ヤだよ、ヨボヨボで戦場に立つ勝己なんて。
「その惚けた面ヤメロ」
そう言って厚みのある手で私のこめかみをぐりぐりとしてきた。側頭筋が凝っていた私には、痛みの次に気持ち良さが勝った為ほぼノーダメージである。
そのままヘッドマッサージを強請ったのだが、最初は面倒臭がっていても最終的にやってくれたので嬉しかった。なんやかんや言いつつもやってくれるのだから強請るのをやめられない。
本場のマッサージ並みに気持ちが良かったし、疲れも取れた。本当に何でも出来るね。
「ね、今度もやって?」
「やって欲しけりゃおまえも俺に奉仕しろ」
「えー、勝己の体、筋肉ばかりだから私のか弱い手じゃ負けます〜」
「ハッ、言ってろ」
案の定、手の指が攣って叫んだ私を勝己は鼻で笑った。
暫く経っても全然指の腓返りが治らず、痛いと泣き喚いていたら勝己も観念したのか、私の指を掴むとそのまま背屈させた。
するとなんとあっさり治ってしまうのだから、もう驚きが止まらなかった。才能しかないじゃん。
それはさておき、勝己作の美味しい夕飯を食べ終えた私たちは洗い物をしている。
「おまえは握力がゴミだ」認定をされている私は、洗い物をしている勝己から手渡される小さな皿類を大人しく拭いていた。大きな物は、水切りラックへ勝己が置いていく。
大皿を持て無い訳ではないのだが。ここでお皿を割ったりなどしたら、きっと地面に埋まりたくなるので一生懸命自分に与えられた仕事を全うする事にしている。
ほら、ラックいっぱいになっちゃうよ? もっと拭くよ?
少しアピールをしてみても、勝己は器用故に上手く重ねていってしまうので、これでも拭いとけとシルバー類しかついに渡さなくなってきた。
リビングにあるつけっぱなしにしていたテレビから、イルミネーションの特集の音声が聞こえてくる。
「そういえば勝己。クリスマスは仕事なの?」
「午後から出勤」
「え! イブは?」
「休み」
「え! 下っ端なのに押し付けられなかったの!?」
「下っ端じゃねェ!」
勝己はカッカしながらずいっとオタマを差し出してきた。
いや、年齢的には一番下じゃん?
シフト制らしいとはいえ、年がら年中働いているように見えるヒーローという職種についている勝己が、クリスマス当日やイブに休めるとはとても思えなかったのだ。
何が起きてそうなったのか何度も問う。最初はうんともすんとも口を割らなかった勝己だったが、最後には諦めたのか決まりの悪そうな表情で口を開いた。
「ジーパンが、」
「ジーニストが?」
勝己のねじれにねじれ切った言葉を意訳するとこうだ。
「ここ数ヶ月まともにパートナーと会えてないんだろう? クリスマスくらい休んで会ったらどうだ? 愛想を尽かされるぞ」
とのこと。つまりはジーニストの配慮だった。流石はベストジーニスト。数回会ったことある程度だがこんな配慮をして頂くなんて。
確かにこの数ヶ月。まともに勝己と会えてないのは事実。勝己が多忙過ぎたのは勿論、私の予定と合わなかったのが原因だ。以前までは頻度が少なくても週一回は顔を合わせていたのに。
忙しくなると連絡してくれた勝己に、無理に会う約束など負担になるようなことは出来やしなかった。
十月なんて、バイトに行く途中、街中でヒーローをしている勝己を見かけて「あ! ダイナマイトだ!」と野次馬に混じってはしゃいだだけだった。
ぎょっとした顔で目線が合ったし、その夜電話がそれはもう鬼のようにかかってきていた。バイト終わりに出たら出たで「おめェ〜は何であんな危ねェとこに居とんじゃ!」って怒られたのだった。
勝己が言うには雑魚敵らしいが、私だと瞬殺されるだろうからもう近づくなと口酸っぱく注意されたのを覚えている。
連絡は欠かさず取っていても、寂しいものは寂しかった。
だからこそ、クリスマスに勝己に会えるのはとても嬉しい。
「イルミネーション見に行きたいな」
テレビの音声からは、六本木や恵比寿等のイルミネーション特集が聞こえてくる。
「イルミィ〜? あんな電飾の集まり、何がいいんだよ」
洗い物を終え、手を拭いていた勝己は心底嫌そうな顔をしている。
「わかってないな〜。寒い中、好きな人と一緒にキラキラした綺麗なものを見るっていうシチュエーションがいいんだよ?」
「ならこの部屋の暖房消せばいーだろが」
暖房を消せばまぁ寒くはなる。寒い中というのは達成出来るだろう。
好きな人――勝己がそばに居る。そして見せつけるように出された勝己の掌は、小爆破を繰り出している。キラキラというよりもギラギラだが。
確かに私が言ったシチュエーションと当てはまっているけども。
「情緒が無いよ!」
「あんなしょーもねぇ電飾と、俺の爆破。どっちが勝ちか明らかだろ」
「勝とうとしないで!」
何でも勝とうとするのは、いつもは可愛いねと呑気に思っていることなのだが、今だけは違う。行きたい憧れが強いので、譲る訳にはいかないのだ。
暫くの間、イルミネーションを見に行きたい私と俺(の爆破)でいいだろと言う勝己の小競り合いは続いたのだが、結果として折れたのは私だった。
「そんなに勝己が行きたくないなら、諦めるよ」
気持ちはだいぶしょげている。声のトーンが否が応でも下がってしまっていた。でも無理強いはしたくない。
「……別に行きたくねーとは、言ってねェ」
「……本当に言ってる?」
「おまえに俺が嘘ついたことあるかよ」
「無いね! 本当に良いの?」
「完膚なきまでに叩きのめして証明してやる」
電飾への対抗心が凄い。奥歯を食いしばって言うものだから、面白くて笑ってしまった。
感謝の気持ちを込めて抱き付きにいくと、そのまま顔を上に向けられる。そこには獲物を狩るかのような目をした勝己がいて、あ、キスされると思い目を閉じた。
勝己の少し薄くて意外にも柔らかい唇が押し付けられた。ニトログリセリンの杏仁豆腐のような香りがふわりと強く香る。
触れた唇が一瞬離れると、角度を変えてちゅっ、ちゅっ、と啄むように唇に吸い付いてきた。思わず勝己の洋服を強く握ってしまう。
「……んん、」
勝己の舌が唇を舐めてきて、私も口を開いて舌を出した。勝己の舌に舌先を合わせると、少し触れたり、絡ませてみたり、吸ってみたりを繰り返す。気持ちいい。
軽く目を開けて見れば、勝己は私のことを熱がこもった目で見つめていた。
少し離れると、また唇をふさがれる。またそっと目を閉じた。
口を遠慮がちに開けば、勝己の舌が口内へ侵入してきた。私の腰に添えてある勝己の左手が、つーっとなぞるものだから体がぴくりと反応してしまう。
後頭部にある勝己の右手が、私の髪の毛を遊びながら耳の後ろを触ってきた。首筋がぞくぞくする。
優しい触れ方にきゅっと胸に愛おしさが込み上げてきた。
口内に捩じ込まれた舌は私の歯列をなぞると、舌の付け根を撫で、そのまま絡みつかれ吸われた。
溢れ出しそうな唾液の水音と二人の息遣いが、控えめに聞こえるテレビの音と共にキッチンへと響く。
「……ん、は、」
「……」
名残惜しげに最後ちゅ、とリップ音を立てて唇を吸われ、勝己の唇は離れていく。閉じていた目を開けば、唇がてらてらと、どちらのなのかわからない唾液に濡れた勝己が私をじっと見つめていた。
お腹の奥がじんじんする。無意識に私は膝を擦り合わせていた。
「……ね、勝己。イルミネーションのこと、決めたいんだけど」
「その話は後だ」
勝己の腕は私を離してくれない。左手なんて下に降りてきて執念にお尻を撫でてくるものだから、その度に体が反応してしまう。
これは話出来そうにないな。私はすぐさま対話することを諦めた。
「……キッチンはやだ」
「ベッド行くか」
気を良くしたらしい勝己は、即座に私を米俵のように抱えて移動し始める。
ねえ、ちょっと。いつもお姫様抱っこにしてって言ってんのにね。
*
クリスマスイブ当日。昼頃に勝己と地下鉄のホームで落ち合うことになっている。
あの後もやはり難色を示していた勝己であったが、粘りに粘って「秒で見て、秒で帰る」という条件の元、イルミネーションを見に行くことに決まった。
キラキラした場所へ行くには、気合を入れなくては。普段も可愛くあろうとはしているが、ほぼすっぴんに適当な普段着で会うことが多くなってきている。
初心に返ってデートの準備をするのだ。一限に起きるような時間――つまりは朝だ――に起床し、きちんと朝食を食べて支度を始めた。
歯磨きをし洗顔をして、スキンケア。ストレッチをして、時間が余ってるからと無駄に部屋の掃除をして。
念入りにメイクを始める。丁寧にベースを作り、気合を入れてポイントメイクを施す。
普段は適当に描いている眉毛も一本一本描いたし、マットアイシャドウで陰影を作った上に散りばめたラメが儚さを演出していてとっても可愛い。
丹念に粘膜を埋めたアイライン、束を作ったまつ毛、ご飯を食べたらなくなってしまうけれど、可愛く仕上がったリップメイク。最後にメイクキープミストをかける。
全て最高の出来だ。
ドライヤーで寝癖を取り、勝己が以前プレゼントでくれた、学生の私には中々手が出せない値段のコテで緩く巻いて。ハーフアップにしてベロアのリボンを付ける。
前日にコーディネートした洋服を着た。コンセプトは綺麗めコーデ。デートだから気合いを入れて脚も出していきたい所存。
新しく入手したミニ丈のゆるいニットワンピースにロングブーツを合わせた。小ぶりのピアスをつけて、ネックレスも忘れずに。新調したロング丈のスタンドカラーコートに、小さめのバッグを持つ。
勝己にこれならまだいいと言われている香水を薄めに振り、これまた勝己とお揃いの、クリーム色のマフラーを巻いて家を出た。
私の家は勝己の家と目的地の間にある。だから勝己は途中下車してホームで私と合流する予定だ。
勝己が乗って来る電車が着く十五分前にはホームへ着いてしまい、ベンチで暇を潰している。五分経つと勝己から乗ったとの連絡が来た。
『了解! 何号車?』
『五号車』
『乗り込もうか?』
『いやいい。車内結構混んでっから一回出る』
『はーい』
五号車の前に移動して待っていれば、勝己が乗っているだろう電車が到着した。端に避け、降りてくる人々の中から探すが中々見つからない。
「おい、こっちだ」
「わ、勝己! おはよ!」
後ろから右手をぐいと引っ張られた。振り向けば、ハイネックのショートダウンに細身のデニム、ごつめのスニーカーを履きキャップを深く被った勝己が居た。
クリーム色のマフラーを手に持ち、付けていたワイヤレスイヤフォンをしまっている。荷物は持っていなそうだから手ぶらなのだろう。
電車は行ってしまった。
「気合い入れてンな」
「だってクリスマスイブだよ?」
「普段とそー変わらんだろ。てか荷物寄越せ、持つ」
「ありがとう」
小さいバッグだから重くないのだが、お言葉に甘えて渡した。勝己が華奢なバッグを持っているのは異様な光景で面白いし、ギャップでだいぶ可愛い。
暑いのか勝己はダウンのファスナーを開ける。中に着てたのはニットだった。お揃いである。
顔を隠す面積が減ったからか、ポケットからマスクを取り出すとつけ始めていた。
「次の電車で行く?」
「おー」
数分も経てば電車は来た。車内に二人で乗り込む。確かに休日かつクリスマスイブだからか人が多い。席は埋まっている為、通路へ入って二人で並んで立った。
「クリスマスマーケットまで付き合ってくれてありがとうね」
「おまえがこれは別に一人で行くからいいよ、だなんて言いやがっから」
「だってウィンドウショッピングみたいなもんだもん。一人でも行けるし」
「誘えや」
「寂しんぼじゃん」
「ア? 誰がだよ」
勝己が。手のひらを上に向けて勝己を示せば、ふざけんなやとその手を握られた。そのまま少し上げられ、じっと手を見られる。
「また爪変えたんか」
「そう! クリスマスネイル。可愛いでしょ」
「長すぎんだろ。プルタブとかどうすんだよこれ」
「今回長さ出しして貰ったからね〜。缶コーヒーとかは勝己に開けて貰う」
「ふざけンな」
また対抗心が燃えてきてしまったらしい。勝己はスカルプネイルについてスマホを取り出して調べ始めた。この前マグネットネイルをマスターしたのに、本当どこを目指しているんだろう?
電車が止まり、扉が開く。乗り換えられる線が多い駅だからか人が沢山乗り込んできた。押されてよろめいた体を、すぐさま勝己が腰に腕を伸ばして支えてくれる。
ごめんね、ネイルのこと学んでたのに。
「勝己ありがとね」
「離れんな」
「うん」
スマホをしまうと勝己は吊り革を持った。もう片方の手は私を支えたままだ。人が増えるにつれ、引き寄せる力は強くなる。
「これ全員クリスマスマーケットとか、イルミネーション見に来た人かな?」
「そーだろ。明かりに集まるとか、蛾かよ」
「ねぇそれ私たちも蛾になっちゃう」
そんな話をしていれば目的の駅へと着いた。降りて行く人に続いて、流れに乗って歩いて行く。
やはり人が多いので、両方の手をポケットへと入れている勝己の腕にはぐれないようにしがみつく。腕を組んで歩くのだ。
何とか入場出来たクリスマスマーケットで可愛らしい雑貨を見る。なんとも言えないような表情のクリスマスグッズが可愛くて、とどまって眺めていた。
「また俺の部屋に意味わかんねーやつ増やそうとすんな」
「何で勝己の部屋に置こうって考えてたのバレたの? ね、でもこれ可愛いよ」
「どこがだよ」
どうしても何か買いたいんだったらこっちにしろと指差されたのはスノードーム。定番中の定番だが、一目でクリスマス感を感じられて良い。
悩みに悩んで一つを選び購入することにしたのだった。私が払おうと思っていたのに勝己に支払われたのは不可抗力で拗ねた。いっつも支払ってくれるから申し訳ないのだ。
クリスマスプレゼント凄い良いの選んだんだから、もう。
「辛いソーセージねェんかよ」
「勝己仕様の辛さにしたら誰も食べれないよ」
「舌弱すぎんだろ。もっと気張れや」
「そういう問題じゃなくない?」
美味しいものを食べて、他のショップをぶらぶらと見ていれば日も落ちてきた。辺りは暗くなり、イルミネーションは点灯される。
はやる気持ちを抑えて、でも勝己の腕を少し引っ張りながらクリスマスツリーの前へと歩いて行った。
大きなもみの木は様々な電飾と装飾が飾られ、一際存在感を示している。
「ねぇ、勝己ツリーだよ! 綺麗だね、装飾凄く可愛い〜!」
「ア? 俺の榴弾砲着弾の方がこんなツリーよりも明るいわ!」
「こんなとこでハウザーしたら死傷者出ちゃうでしょ!」
ギャンギャン吠えている勝己を放っておいて、スマホを取り出して写真を撮る。人垣が少し邪魔ではあるが、撮れるものは撮れた。満足して微笑んでいれば隣からシャッター音が聞こえる。
横を見ればスマホを取り出している勝己の姿が。あれ、なんやかんや言っててもツリーの写真撮ってるんじゃん。
手を口元に当ててニヤニヤしながら見上げれば大きな舌打ちをされた。照れなくていいのに。
強い北風が吹いた。
「寒!」
「んな脚とか出してっからだろ」
「脚はコート着てるしそんなに。顔と手が寒い〜」
巻いているマフラーを上に持ってきて耳や鼻を隠そうとするが足りない。喋る度に白い息が出てくるような気温だもん。外に出ている部分はそりゃとっても寒いのだ。
寒いと震えていると、自身の巻いていたマフラーを勝己は外し出し、そのまま適当に私の顔に巻いた。二段マフラー星人の出来上がりである。
目の前がマフラーで埋め尽くされ、多分髪の毛も崩れていそうだ。でもあったかい。
しかしイルミネーションが見えない。
「イルミ見えないんだけど!」
「おまえマフラーのバケモンみたいになってンぞ」
「勝己のせいだよ!」
気持ちは嬉しかったと勝己にマフラーを返す。巻き直し終えた勝己は私の手を取った。豆や傷跡が残る、ごつごつとした手に包まれる。
「確かに手、死んでるみてーだな」
「勝己の手ぬくいね」
「ポケットに手ェ突っ込んでたからな」
包まれていた手は離され、恋人繋ぎをされる。指と指の間にもぬくもりを感じた。勝己は私の手を握ったまま、自分のダウンジャケットのポケットへと手を入れた。
「前来い」
「え? うん」
ツリーを背面にして、勝己と向き合う形になる。空いている片方の手を取られると同じように指を絡め、ポケットの中へと入れられた。
じんわりと指先まで染まっていた冷たさが溶けていく。
私の視界は勝己のみだ。
勝己はマフラーに顔をうずめて、私を見下ろしている。明かりを取り込んで、キラキラと輝いている赤い目と視線が合致する。
「勝己しか見えないんだけど……」
「俺だけ見てればいいだろ」
「イルミ見に来たのに?」
「こンなんよりも、俺のが上」
本当に無茶苦茶なことを言っている。寒さのせいもあるだろうが、勝己の耳が赤く染まっていたのが可愛くて、もう何でも良いかと許してしまった。
「もう満足したかよ」
「うん、大満足!」
「じゃあ帰んぞ」
「そうしよ」
繋いでいた手を片方だけ離して帰路に着く。
途中勝己の家の最寄りにあるケーキ屋さんで予約したケーキを受け取って、予約したチキンも受け取りに行かなければならない。
それに勝己の家に宅配で届くようにしたクリスマスプレゼントを受け取る時間が迫って来ている。
前に家具専門店へ行った時、勝己が「まぁいーんじゃね」と言っていた炬燵をチョイスしたのだが、喜んでくれるだろうか?
「いやおまえアホだろ」
大き過ぎる段ボールを二人で受け取った時の勝己の言葉だ。流石の勝己も引いていたみたいだ。
いやこれから年末だし勝己も欲しそうだったし良いかなと思って。
私の必死の言葉を聞いていた勝己は顔に手を当てていたが、すぐに顔を上げると組み立て始めた。数十分もすれば出来上がり、ぬくくて一生出れない沼が完成する。
「いくらした?」
「プレゼントだよ!」
「何円したか言えや」
「プレゼントだって!」
チキンや勝己作のご馳走を目の前に、炬燵の中に入って二人でそんな攻防をしていればまたインターフォンが鳴る。
まさか、と言いたげな表情の勝己。私は颯爽と炬燵から出て立ち上がり、宅配員さんを向かい入れた。
受け取ったのは十キログラムのみかんが入った段ボール。段ボールを掲げてその書かれた文字を見た勝己は「アホから二流ぐらいまで格上げしてやる」と言い放った。
そうだね、格付けも一緒に見れたらいいね。