丸くなっても可愛いよ

 もうすぐ中間試験である。仮免を取ってから励んでいたインターンを一旦停止し、雄英高校へと戻って来た。
 毎日のように着ていたヒーロースーツはお預けだ。久々に学生服へと袖を通す。
「あ、やばい……」
 着終わった後の異様な違和感。全身を占めているそれだが、特にスカートのウエストが酷い。そう、キツいのだ。
 以前は逆に緩く、フィットさせる為と銘打って何回か折り上げていた。それに比べると今は普通の状態でぴったりぐらい。スカートを折ったり、ご飯を食べ終わった後等は苦しさを感じそうだ。
「太った……」
 姿見に映る自分は一回り肉付きが良くなった気がする。眉毛を下げて心底悲しそうな顔をした女が私を見つめていた。
 思い当たる節がある。インターンだ。
 一年次の職場体験と同様に私はファットガム事務所へと、同じクラスの天喰環くんと共にインターンへ参加している。
 個性柄色んなものを食べる必要がある天喰くんとほぼ一緒に行動する訳で。
 食べている天喰くんをぼうっと見つめていたら、食べたいから見ていると勘違いされたのか、恐る恐るといったそぶりでお裾分けされたことがあった。それ以来毎回天喰くんにお裾分けされるようになってしまったのだ。その好意を無碍にもする訳にもいかず。有り難く頂いている。
 さらにはファットの人柄、そして関西という土地柄か、食べ物を頂くことが存外多いのだ。
 インターン中、助けた飲食店の店主にお礼だとたこ焼きを貰ったことがある。
「二人ともパクパク食べて、雛みたいやなぁ」
 天喰くん――サンイーターと並び、頂いたたこ焼きをはふはふと食べていた時の店主の言葉だ。
 雛って。動き回ってお腹が減っていたのでがっついていたからだろうか。思わず隣にいる天喰くんを見上げたら、彼も食べる手を止めて気まずそうな表情をしていた。
「せや、こいつらヒーローの卵やし」
「そりゃそうや! 一本取られたな〜、あ、ファットもう一つ持ってく?」
「ええの? おおきに!」
 流れるように増えたたこ焼き。見事だ。
「ヒーローって大喜利もしなきゃいけないのか? 俺には無理だ……ダメだ、ここから逃げたい……」
「あっ、サンイーター逃げちゃダメだよ」
 この場から逃げようとする天喰くんの腕を掴んで離れないようにする。こうすれば何かとネガりつつも、振り切って逃げ去ろうとはしないのは今までの経験でわかっている。
 天喰くんと関西の方の親和性について、伸び代があり過ぎるな。
 こんな光景がインターン中何度もあったのだ。そりゃ自分の運動量以上のカロリーを摂取していれば太るだろう。ヒーロースーツは体にピッタリとしているが伸縮性がある素材だったので全然気づかなかった。
 常に一緒にいた天喰くんは気がついていたんだろうか?
 幾分か長いスカートを履く自分を見つめながら大きくため息を吐いた。
 とりあえず登校しよう。
 


 午前の座学を終え、昼食の時間だ。午後のヒーロー基礎学に備えて英気を養わなければ。
 ここ数ヶ月天喰くんと一緒に食事を取っていたので、別々で取るのはなんだか違和感がある。通形くんと話している天喰くんをわざわざ呼ぶのもね。楽しそうな二人を視界に入れながら席を立った。
「ナマエ? 食堂行くよ!」
「ご飯食べよー!」
「あ、待って今行く!」
 教室の扉から顔だけひょっこり出したねじれと有弓の元へと走った。三人並んで食堂へと歩く。
「てかナマエスカート長くない? イメチェン?」
「それ私も思ったの! 心変わり? インターンのせい?」
「インターンのせいって言ったらそうかな……普通に太ったの、スカート折ったらキツくて」
 二人は目を丸くすると私を上から下へとまじまじと観察し出した。そんなに見られるとちょっと照れる。
「確かに肉付きが良くなった、かも? 元々ナマエ細過ぎたから今でも標準って感じ」
「インターンでそんなに食べたの? 串カツ? 粉物?」
「食事量は普通だったんだけど。街の方々が良い人が多くて。ねじれが言ったようなものを沢山頂いたのと、あとはファットさんと天喰くんがよく食べるから」
 インターン中は本当に間食が多かった気がする。二人は「あーね」と納得したように頷いていた。ファットさんは言わずもがな、天喰くんもクラス内でよく食べる認定されているからね。
 私の個性はタンパク質を使う。だからこそタンパク質は積極的に摂取していたが、その他は標準的だった。個性を使う程タンパク質も使用される訳で、使用後主に筋肉の減少が著しい。まぁ自他共に認める細身だったのだ。
「でもナマエ体型管理徹底してたよね?」
「インターン中は必死過ぎて容姿気にしてる暇なかった……」
 ずんよりと肩を落とすと有弓に背中を軽く叩かれる。
「大丈夫! ねじれは銀河一だけど、ナマエも世界一可愛いから!」
「世界一は普通に嬉しいよ」
 よくわかってなさそうだが楽しそうに微笑んでいるねじれは、女の私が見てもとっても可愛い。そのねじれが銀河一で、私がその銀河中の一つの惑星である地球中の一位ってとても光栄なことじゃない?
 三人で話しながら歩けば食堂に着く。今日のチョイスはほっけの定食だ。サラダに豆腐を追加して貰ったのでもうタンパク質パラダイスだ。
 空いていた席に着いてご飯を食べ進めていれば、机に二つの影がかかる。
「ここ座ってもいいかい?」
 通形くんと天喰くんだった。二人ともお盆を持っている。
「いいよー」
「どーぞ!」
 正面同士に座っているねじれと有弓がそう答える。口の中に食べ物が入っていたので私も頷きで答えると、私の目の前に天喰くん、私から見てその右隣に通形くんが座った。
「環がさ、ミョウジさんと一緒がいいって言うから探したんだよね」
「え、待って、どういう関係!?」
「ナマエと天喰くんそんな仲良かったっけ? インターンで仲良しになったの?」
「待ってくれ、俺は何処にいるんだろうと言っただけで」
 有弓とねじれに詰められている天喰くんを、咀嚼しながらじっと見つめてしまった。インターン中ずっと一緒に食べてたから天喰くんもなんか違和感があったってこと?
 咀嚼していた物を飲み込み、口を開く。
「インターン中常に一緒に食べてたからだよ。私も食事する時天喰くんいないとなんか違和感感じるもの」
「うん、そう、そうだよ。だからつつくのはやめてくれ波動さん……」
「えぇ、そうなの?」
 私と天喰くん以外の三人は納得してなさそうな表情だが、そういうもんであるからもう言いようがない。肯定すれば残念そうな表情をしながらも食べるのを再開していた。
 私もほっけを口に含み、咀嚼をしつつ目の前の天喰くんを見る。彼は丁度鳥の唐揚げを食べようとしたところで、私と目が合うとその手を止めた。
「ミョウジさん、食べる? 取っていいよ」
「あ、うん。なら頂こうかな」
「ちょちょちょ、ちょっと待って!」
 まぁくれるというなら断るのも申し訳ないし有り難く貰っておこうと、差し出されたお皿の上に並ぶ唐揚げへと箸の狙いを定めた時、有弓が私の手を掴んだ。
「ファットさんとかのよく食べる姿につられてたんじゃなくて、こうずっと餌付けされてたの!? そりゃ太るよ!」
「え、うん。餌付けっていうか、お裾分け?」
「俺もペットに餌付けしてるように見えるんだよね」
「ナマエがペットなら何だろう? 猫? 犬? ハムスター?」
 有弓はとりあえず一息ついたのか手を離してくれた。収拾がつかなくなった場に、伸ばしていた箸を引っ込める。
 天喰くん私のことペットだと思ってたの? よく食べてるな、よしよしって?
 じっとりとした目で目の前の彼を見つめると、慌てたような表情で手を振り出した。
「ち、違う! 俺はミョウジさんのこと一人の女の子だと思っているよ。ほら、沢山食べ物をあげていたのも何でも美味しそうに食べるから可愛いなと思って、」
 彼はテンパっているのかとんでもないことを言っている事実に気づいていない。
 ねじれと有弓はキャアと楽しそうに手を取り合っているし、通形くんに至っては口に手を当ててお茶会でのマダムのようにマァと驚いている。そんな顔初めて見たよ。
 天喰くん、可愛いって思っていたから私に食べ物をお裾分けしてくれていたんだ。あの行動、全部私のこと可愛いって思ってたからなんだ。
 理解すればする程じわじわと心臓の方から湧き立つ熱に、頭のてっぺんまで侵されていく。羞恥心で視線を下に向けていたが、目の前の天喰くんの反応が全く無いのが少し気になり上を向いた。
 顔を真っ赤に染めた天喰くんと目線が合った。
「ごごごご、ごめん!」
 お盆を持つと天喰くんは勢いよく立ち上がり、それはもう猛烈な速さで何処かへ消えて行った。全員ぽかんと口を開けてそれを見送る。
 天喰くん、私を置いて逃げちゃダメだよ。
 昼休みが終わるまで後十五分程。三人からの興味津々な視線を受けて、私は冷や汗を流していた。
 私を置いて逃げないでよ、天喰くん!

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