エタニティ・ダイヤモンド
※未成年の飲酒シーンがあります。未成年の飲酒を推奨しているわけではありません。
※謎( if )時間軸
ジョルノも入ってきているし、トリッシュも普通にいる、任務も特に関係ない護衛チームだと思って読んでください。
この日は二人とも珍しくオフの日だった。というよりもミスタの場合はブチャラティに頼み込んでオフにしてもらった、と言っても過言ではない。ブチャラティはミスタと名前の関係を知っている。ミスタがそれとなく25日の予定を尋ねた際、「その日は二人とも休みにしておこう」と言ってくれたので、ブチャラティに酒でもご馳走しなければ、と思っていた。
予定の時間より15分も早く着いたしまったミスタは、待ち合わせ場所の大きなクリスマスツリーの下に立っていた。先日から降っている雪は程よく積もり、見事なホワイトクリスマスが実現された。周りは目を疑うほどのカップルたちがうろついており、彼は他のカップルたちの親密さに思わず自分たちのことを重ねてしまった。
彼と名前は最近想いが実り、晴れて恋人同士となった。まだ互いを恋人と言えるようになって、ひと月ほどしか経っていない。同じくブチャラティのチームに配属されている二人だが、名前の方がミスタよりも前に入っていた。名前のあとにミスタが入ってきたことで、ミスタの世話係的なことも一時期兼任されていた名前のことを、ミスタが好きになるのは時間の問題だった。彼が酒が入って溢した本音曰く「一目惚れした」とのことらしい。これはブチャラティとアバッキオしか知らない事実である。二人の関係については直接報告しているのはブチャラティのみであるが、ナランチャ以外は薄々気付いている。ちなみにトリッシュは彼女から直接聞いているため知っているのだが、これはミスタは知らないことであった。
「おまたせ!」
少し慌てたような声に考え事から現実に戻るミスタ。その視線の先には待ち望んでいた名前がいた。だが、ミスタは彼女の言葉に一言も返さずにいる。
「あ、あの…ミスタ?」
そんなミスタの様子を伺うような名前は困ったように眉を下げる。その表情はミスタの反応に心当たりがあるかのようだった。
「やっぱり変だったかな?」
そう言った名前は自分の爪先から見つめ直す。普段は決して着ないスカートは大胆にも短いものだった。ほんの少しだけ露わになった素肌は、またすぐにロングブーツで隠されている。そのブーツも普段とは雰囲気の違うヒールの高いものだった。任務では邪魔になるからといつも編み込まれたブロンドの髪は、柔らかいウェーブカールが施されちらつく雪とともに靡いている。
もう想像はついているだろうが、ミスタはこのいつもとまるっきり違う名前の姿に、見惚れていたのだ。
「普段はこういうの自分でしないんだけど、トリッシュが色々教えてくれてね、それで…」
なんとなく自分で自分をフォローするような発言をする名前の言葉を遮ったのはミスタのたった一言だった。
「すっげえ、かわいい」
「えっ!?」
ミスタは思わず出てしまった自身の熱い本音に、名前はミスタからの思わぬ言葉に、二人してクリスマスツリーの下で赤面してしまう。
情けない、と思うのはミスタだった。もっとスマートに言葉をかけられないものだろうか、と内心頭を抱えていた。だがそれができないほどに、名前の姿が可愛かったのだ。
「行くぜ」
ここから取り返していこう、と名前の手を取る。心の中で「さりげなく、さりげなく」と呪文のように唱えていたミスタは、名前の手の温もりにじんわりと安心感を抱いた。
その日のデートプランは、ランチの後映画を見て、その余韻にでも浸りながらカフェ(トリッシュに教えてもらった)で過ごす。少し歩いてイルミネーションなんかを見て回って(ジョルノからの提案)、あとはとびきりオシャレなお店(アバッキオに教えてもらった)でディナーをするという予定だった。
ほとんどがチームの面々からの入れ知恵であることは、名前には黙っておこう。
ランチはいつもチームで食事をするレントランではなく、それよりも少し女性が好みそうな雰囲気のお店であった。これはミスタが自分で雑誌などを読み漁って、リサーチしたところである。名前はお店を見るなり「おしゃれなお店だね」とうれしそうな表情をしていたので、ミスタは心の中でガッツポーズをとる。
料理自体も美味しく、名前も満足そうにしており「次はこれも食べてみたいな」と言っていたのでリピートは確定といったところだ。
次の映画は名前が観たいと言っていた恋愛ものの映画だった。恋愛ものは自分だと選ばないので、これはある意味新鮮だったし、映画の途中何度も名前の方を見てしまい、名前がシーンごとに表情をコロコロ変えているのを見れたことは、ミスタにとって大いなる収穫だと言える。正直映画の内容はあまり入ってはおらず、名前がかわいいということだけがミスタの頭に記憶された。
その後トリッシュから教えてもらったカフェに入る。そこはティラミスが有名らしいが、後にディナーも控えているため、一つを二人でシェアするというなんとも恋人らしいことをすることとなった。
「ミスタの分は私が食べさせてあげるね」
カウンター席のため、隣に座る名前の至極楽しそうな顔を見ると恥ずかしいから、なんて言えなかった。
いつも自分が食べるよりもだいぶ小さく取り分けられたケーキを見て、名前の口って小さいんだな、とぼんやりと考えているミスタの目の前にティラミスが差し出される。
「はい、ミスタ。あーん、して?」
「……恥ずかしさを煽ってくんなよ」
「やだなぁ。ミスタがうちに入ってきた頃は私がよく食べさせてあげてたじゃない」
「あれは俺が怪我して自力で動けなかった時だろ」
揶揄ってくる名前にミスタはパクリと差し出された小さなティラミスを口に入れる。名前は相変わらず笑いながら「おいしい?」と尋ねるので「まあな」と短く答える。やはり恥ずかしさが先行したミスタには、これが精一杯なのだろう。
「名前」
「ん?…っ!?」
とはいえミスタもまだ18歳、中身はまだまだ子どもである。
先ほどの仕返しと言わんばかりに名前の唇に吸い付くと、その挑発的な目で驚きを隠せない名前の瞳を捉えた。
「ちょ、と…ミスタ!?」
「やだなあ、こんなのいつもやってんだろ?」
まるでさっきの名前の台詞を拝借しているようなミスタの言い方に、名前は顔をカァッと真っ赤に染める。
ペロリ、と薄い舌先で自分の唇についたほろ苦いココアパウダーを舐める。ほんのりと名前がつけているリップの香りがした。「もう!何やってんの!」と真っ赤な顔で怒る姿すらかわいいな、なんて思うミスタは舌先をチラッと見せて「悪かったって」と平謝りだった。
気を取り直して薄暗くなってきた街中を歩く。相変わらず雪はチラついていたので、集合した時よりも少しだけ積もった雪の高さが増していた。
「足大丈夫か?」
「うん、平気。ありが…ッ」
ミスタが心配した矢先、名前がお礼を言い切らずにミスタの視界から消えてしまう。瞬時にミスタが名前の体を引き寄せ、抱きしめるような体勢になったので、名前が地面に転ぶことはなかった。
「…ありがとう」
「言わんこっちゃねぇなぁ」
先ほどよりも密着した二人の距離に、突然やってくる気まずさ。たしかにデートやキスくらいは何度もしているが、人目につくところでこんなに密着することはない。先ほどのミスタからのキスは彼の悪戯なので、普段からああいったことをするわけではないのだ。
だから互いにこのあとどうして良いか分からず固まってしまう。恋人同士なのだからこれだけ近づいていても別に何も悪くはない。だが、だからといってずっとひっついていても、相手から変に思われるんじゃないか、なんて二人して考えているのだ。
しかしそんな思考を打ち破ったのはミスタの方だった。名前の腕と自分の腕を絡ませて、ぐいっと自身に引き寄せる。
「危ねえからよぉ」
そうは言ったものの、実際彼が名前と腕を組んだのは彼女ともっと引っ付きたいと思っていたのも大いにある。だがそれをそのまま伝えるのはやはり恥ずかしいので、名前が転びそうになった危なっかしい一面を利用させてもらうことにした。
そうだとは知らない名前は、ミスタの大胆な行動に驚きつつも、やっと距離を縮めることができてうれしい気持ちが勝っていた。ほんの少しだけ組んだ腕を自分の方に引き寄せるように力を込める。ミスタはそんな名前の行動に思わず口元がにやけてしまっていた。
ディナーは少し落ち着いた雰囲気のお店だった。アバッキオに聞いた際、服装のアドバイスを聞いていて良かった、と思う。いつもチームのみんなと食べるような夜ご飯とは違う雰囲気に、名前がどことなくソワソワしているのが分かるとミスタは「何緊張してんだよ」と茶化した。
「だ、だって、なんか、こんな大人っぽいところ、初めてだし」
「へえ。そりゃよかった」
「………。」
名前は思わずいつもの陽気でムードメーカーのミスタの雰囲気と違う彼の姿に、ときめきを隠さないでいた。食事のマナーはもちろん、自分みたいに食事中に忙しいわけでもない。同じ歳のはずなのに矢鱈と大人びて見えるミスタに、心臓がバクバクとうるさくなっていくのが分かった。彼女の頭の中ではずっと「かっこいい」という言葉で埋め尽くされていく。
素敵なディナーの時間を過ごすと、外はもう真っ暗であった。雪は止んではいたものの、相変わらず視界は真っ白である。ミスタと名前は並んで歩いている。その風景を見るに行き先は名前の家だった。見慣れたそれらに名前はまだまだ家に着いてほしくないという気持ちがどんどん強くなっていった。それはおそらくディナーのときの、普段とは全然違うミスタの姿を目の当たりにしてしまったからだ。
しかし無常にもよく知る玄関先が見えてきてしまう。
「着いたぜ」
ミスタが声をかける。名前は「うん」と小さく返事をしたが、その声は明らかに嫌そうなものだった。するとミスタは自身のポケットから小さな長方形の箱を取り出す。それを名前に差し出すと、名前は思いもよらない行動に思わず瞬きを繰り返した。
「これは…?」
「今日はクリスマスだろ」
ほんの少し照れ臭そうなミスタは視線を逸らしてそう言った。そんな彼に名前は自然と頬が緩む。見ているだけでワクワクする包装を丁寧に解いていく。箱の中に入っていたのは、シンプルで華奢なデザインのネックレスだった。真ん中に控えめだが、きれいなダイヤモンドが美しく輝いている。
「きれい…でも、いいの?こんなに高そうなもの…」
「そういう気遣いはいらねーの。ほれ、つけてやるからうしろ向け」
名前から箱を受け取り、くるりと180度回転させる。さらけ出された名前の白い肌に、ミスタの褐色の肌が這う。やさしく触れるミスタの手に少しその冷たさを我慢しながら、背後から抱きつくような体勢の彼に愛しさを募らせた。そしてわざとかのように耳元で「できたぜ」と囁かれると、名前はどんどん今日が終わってほしくないと思ってしまう。
「似合ってんじゃねーか」
「…ありがとう」
そうして少しだけ沈黙が生まれる。このまま帰りたくないと思うのは名前だけではないのだ。だがまだ付き合いが始まっての日が浅いことを考えると、そういうことに無頓着そうな名前のことを考えここはスマートに送り届けてプレゼントを渡して帰るというのが良いだろう、とミスタの理性はそう分かっている。だが、やはり目の前でこんなにも名残惜しそうな表情をする名前を見ると、そんな薄っぺらい理性は呆気なくも崩れ落ちた。
「名前」
「うん?」
顔は見られたくなかったので、敢えて名前を抱きしめる。すると辿々しくもミスタの背中を這う手に彼の感情は溢れ出して止まらなかった。
「まだ帰したくねぇって言ったら嫌か?」
その言葉に名前は心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚える。何故ならそれは名前が待ち望んでいた言葉だったからだ。
「ううん、嫌じゃない。わたしもまだ帰りたくない」
そんなかわいい言葉が恋人から返ってきたものなので、ミスタは更にぎゅうっと抱きしめる。「今日寝れると思うなよ」と再び耳元で囁かれると、名前は急に恥ずかしくなったらしくとてもか弱い声で返事をしていた。
恋人たちのクリスマスはこれからなのだ。
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