Risk one's life
「残りはそれだけか」
頷けば、そうかと一言。俺もこれが最後だと握る刃は、数回振れば寿命が尽きるなまくらだった。
眼下には大勢の巨人が不気味な笑みを浮かべ、私たちの行く手を阻んでいる。 ガスも残り少ないが補給班とはかなり距離があるし、他の班員はここまでの道中で巨人の手に堕ちた。
壁外で巨人から逃れる唯一の馬も、何度呼んでも姿は見えない。ずっと共に戦ってきた愛馬が、この壁外調査の数日前に怪我をした時点でこうなる運命だったのだろうか。馬との信頼は命綱だなとつくづく思う。
頭を捻っても良策は思い浮かばない。絶望的な状況だった。こうなれば十分な量とは言えなくとも、ガスだけでも彼に渡すか。何方にせよ、二人とも死ぬなんて事は避けなければ。焦燥感に支配されていく頭の中を晴らすように強い声が響く。
「おい、お前のガスを全部寄越せ」
やっぱり、とこんな状況にも関わらず、辿り着く答えが同じで笑ってしまいそうになる。私たちは兵士で、私はリヴァイを心から信頼している。することはただ一つ。
これなら彼だけでも補給班に追い付けるかも知れない。向こうが壊滅していなければ、おそらく今頃は壁外拠点に着く頃だろう。
大丈夫、私はここで巨人の注意を引いていればいい。いつもやってる、得意分野だ。
「私は上手くやるから安心して。向こうが無事だといいけど」
「何言ってる、お前もいくぞ」
一瞬耳を疑った。
その言葉は本気なのか、だとすれば。
まさか私を抱えて飛ぶ気?それ以外に何がある。
いくらリヴァイでもリスクが高いと彼の手を制す。
「一人で行くべきよ、その方が確実」
「俺が戻るまで巨人が大人しく待ってるってのか?このボロい塔が崩れない保証は?」
「ない。私が生きてる保証もね。でもそうするしかないでしょう。それとも、あなたが言うようにこの巨人の群れに飛び込んで、いっそ心中でもする?」
今私の目の前で苛立ちを顕にしているのは、人類最強と呼ばれる人だ。彼がやると言えば全て叶いそうな、そんな異次元の強さを兼ね揃えている。
でも、だからこそ、彼のリスクを少しでも増やすわけにはいかない。そんな気持ちから生まれた虚勢を返せば、まるで悪くないとでも言うように引き寄せられる。
「そうだな、リア。俺と心中してくれ」
何を言って、と抗議しようとした口は、彼の目を見て言葉を失う。
本気の目だった。見慣れた覚悟を決め鋭く射抜く、私の惚れた目。でもそれは死への心構えではなく、必ず生き抜く決意の現れ。
一緒に死んでくれなんて言っておきながら、あなたは微塵も死ぬ気がない。 そうね、リヴァイはそういう人。 私も腹を括ろう。
「分かった、リヴァイを信じる」
「俺がいいと言うまでその手は離すなよ」
行くぞ、その言葉を合図に身体がふわっと浮いた。
不思議と恐怖はない。