Swear to me, not to God.



「結婚するか」

そう、あまりに唐突に聞こえた言葉に、世界の時が止まったようだった。ええと何の話をしてたっけ?
確か今の今まで書類を、今回の壁外調査で亡くなった兵士達の死亡報告書を書いていて。
中には家族や親しい友人が居らず遺品の受取人がいない兵士もいて、そうなれば処分するしか無いのだけど、生きていた証を受け取る人がいないのも、何だか少し寂しいなんて話をしていた、はず。勿論形に残っていなくとも、彼らが本当の意味で死ぬことはないけれど、それで…………え?

「お前が今言ったんだろ、生きた証を受け取る人間がいないのはどうだって」

変わらず彼はペン先を走らせる。

「ここじゃあ籍を入れた相手が優先されるんだろ?面会謝絶でも死に目に会える。遺品も然りだ」

紙の擦れる音、捲る音。

「別にしようがしまいが何も変わらないとは思うが……まぁ俺がするとしたら、お前だろうな」

ようやく、彼と視線が交わる。

「……おい、何に泣いてやがる」

しょうがないじゃない勝手に溢れてくるんだから。
あなたの言葉が嬉しくて泣いてるのよ。

「ねぇ、リヴァイ」

椅子と床の摩擦音、静かな足音。

「もしもこれから先、私たちが心臓を捧げた目的の前に、何か大きな決断を迫られたとし て」

彼のあたたかい手が、私の冷たい頬に触れる。

「ちゃんと私を捨ててくれる?」

彼の薄いグレーの瞳が細められる。

「当然だ。公に心臓を捧げた以上、俺はお前のために生きるなんてことはしねぇ。お前もそうだろう?俺たちは互いのために生きてるわけじゃない」

彼の親指が私の葛藤を強く拭ってみせた。

「だが……今お前の目の前にいるのは何だ?」
「……リヴァイ」
「そうだ、ただのリヴァイだ。そしてお前はただのリアだ」

「なぁ お前はどうしたい」


♢♢♢


時折穏やかな風が頬を撫で、スカートの裾をひらりと揺する。 町外れの小高い丘の上、透き通るような青い空の下、私はこの時の景色を死ぬまで忘れないだろう。

「リア」

名前を呼ばれる。太陽にも負けない熱さで。
私は今日、リヴァイと結婚した。
ここには教会もないし友人や家族もいない。綺麗なドレスも身に纏ってない。
私とあなただけの、特別な誓いの場。
骨張った手が私の左手を絡めとり、暫くしてやっと彼は口を開いた。

「俺には、お前を幸せにするとは言えねぇし、約束もできない。今まで通り気苦労もかけるだろう」

「だが後悔はさせないと誓う」

薬指におさまった印は、そこに在るのが当たり前かのように良く馴染んだ。
思えば何時からだっただろう、あなたにどうしようもなく惹かれたのは。憧れや尊敬から始まった旅はどうやらこれからも続くらしい。
歩を強めて景色が移ろいで、険しくも灘らかに表情を変える。この世界は美しい。そうでしょう?

「リヴァイ」

名前を呼ぶ。ありったけの愛を込めて。

「守り続けるわ あなたの帰る場所を」

彼にも印を贈れば、それは少し居心地が悪そうにした後、諦めたように静かになった。リヴァイは私の言葉を噛み締めて、柔らかな眼差しを向ける。

「神じゃなく、俺に誓え」

言葉一つ、視線一つが心に染み込んで、今日という日を彩っていく。
これから先どんな恐怖に支配されようと、己の無力さに叫んでも、印を見る度に思い出せ。これを守るためなら私は。

眩しく私たちを照らす太陽に向かって、左手を翳してみる。
光をうけた銀色がこの世界の何よりも輝いていた。