call of silence
それはまるで雷に撃たれたようだった。身体中を駆けていった痺れは暫く私の意識を捕まえて離してくれなかったから。そして本能で理解した。彼が希望と、英雄と謳われるワケを。
一人縦横無尽に空を飛び回り、瞬き一つの間に巨人を何体も葬っていく。
気付けば私を食おうと手を伸ばしていた巨人は糸が切れたように倒れて、辺りに土煙が舞う。私はその様子をただぼうっと、眺めていた。視界が鮮明になっていくと、彼は剣を収めてやっとその姿を現す。
「おい、いつまで座り込んでるつもりだ。死にてぇのか?」
一面を晴らすような声が響いて、現実に引き戻される。力を入れた途端、身体のあちこちが悲鳴をあげはじめた。
対して高さはなかったものの、衝撃で吹っ飛ばされ強打した全身には酷だったよう。
立てるか聞かれて、答えようとした声が掠れる。
あぁ本当に、ボロボロだ。自分に呆れて笑いも出てくる。差し伸べられた手を掴もうとして、世界がぐらりと歪む。焦ったような顔が最後に見えて、まずいと思ったときには私の意識は黒く塗り潰された。
後に目覚めた医務室で、傷の手当をされながら記憶の隙間を埋めていく。幸いにも怪我は軽いらしく、来月の壁外調査にも問題なく参加できるそう。
懸念点が消えた私の意識が向かう先は、今も脳裏に焼きついて離れない彼の姿。
力強く大胆で誰より速いけれど、決して力任せな動きではなくひとつひとつに丁寧さが見て取れる。型に囚われない戦い方に高揚し、逃がしはしないと容赦なく奮われるその刃に、ただ、魅せられていた。彼を思い出すと不思議と力が湧いてくる。絶望ひしめく外の世界を明るく照らすような人だった。
そして同時に、ありありと見せつけられた無情な差。きっとどんなに訓練しても経験を積んでも、彼のようにはなれないし飛べないだろう。努力で埋まるような差ではないのだ。
気付けば第一印象の悪さなど塗り替えられ、 悔しさも諦めも通り越して、憧れに似た何かが胸の奥に根付いたのを、今でも鮮明に記憶している。
そしてそれは、身を焦がす永い恋のはじまりにすぎないと、この時の私は知る由もない。