Call your name



「いいところに来てくれた」

そう団長に言われて警戒を強めてしまうのは致し方ないことだと思う。付き合いの長さからこの人のそういった言葉にはろくなイメージが無いのだ。
ましてや同じ部屋に直属の上司がいれば尚更。目線だけこちらに寄越した黒髪に身が引き締まる。

報告書を出すタイミング、間違えたな。そう諦めて話の続きを待つ。

「明日から君を、特別作戦班副長に任命しようと思う」

久しぶりに正式名称聞いた。みんなリヴァイ班って呼ぶし__いやそうじゃなくて。

「え、副長?私がですか?」
「そうだ。リヴァイの補佐なら君が適任だろう」

果たしてそうだろうか。リヴァイ班と言えど、任務中兵長は別行動なんてざらにあって、その際の指揮はエルドに頼むことが多かっただろうに。つい彼の方を見ると視線がぶつかる。

「班の指揮は今まで通りエルドに頼む。お前には俺と一緒に来てもらう事が増えるからな」

心を読み取られたように、お前は班より個を支える方が得意だろと追撃を食らう。本当、よく見てるなと何度目か分からない感心と、苦手を見抜かれていることへの居た堪れなさ。

不安もそれなりにあるが、やはり尊敬する上司達からの言葉には嬉しくなってしまう。謹んでお受けしますと返せば、明日からもよろしく頼むよと団長に締め括られる。
それで、君の要件は?と当初の目的などすっかり忘れていた私は、その言葉に慌てて手元の報告書を渡し部屋を後にした。


その日一日、副長という言葉を噛み締めていた私は夜上手いこと寝付けず、久しぶりに兵舎の屋上へと足を運んだ。

重い扉を開ければ、空に輝く星々と夜風に揺れる黒髪が飛び込んでくる。今日の私はつくづくタイミングが悪いな。予想外の先客にどうしたものかと動けずにいると、振り返った彼に寝れねぇのかと声をかけられる。

兵長こそ、体に障りますよ。この人のそんなところ見たことがないけれど。苦し紛れにそう返せば彼はフッと口元を緩めた。

屋上のへりに片膝を立てて座る彼の背中に、やはり他の兵士より小さいなと失礼な感情を抱く。
だけど不思議だ、私はこの人の背中が誰より頼もしいと知っている。これからは少しでも、彼と同じ景色を見られるだろうか、少しでも彼の背中を軽くしてあげられるだろうか。

「おい、背中に穴があく」

心臓がどくりと鳴り、つい見すぎたなと謝罪する。
少し付き合えと言う彼の手元をよく見ると、お酒の瓶が置いてあった。近付けば木製のコップが2つ。

「あ、私お邪魔じゃないですか?」
「いや、誰も来ねぇよ」
「なのに2つ、ですか?」

面白い人だなと素直な疑問を口に出せば、彼はじっと黙ってこちらを見る。言わない方が良かったやつかと若干焦りを覚えると、彼は少し悩む素振りをしたあと口を開く。

「壁外調査の前の晩に、よく来てるだろ」

「俺の班に配属された時もだ。何となく今日も来そうだと思ってな。不安か?」

言葉を失くした私に構わず続ける。心臓がだいぶ煩い。バレてた、というかいつから?待って、私が来そうだと思ったから?色々と処理が追いつかない。
恥ずかしさや不甲斐なさからどう誤魔化そうか頭を回したけれど、どうせ何を言っても見抜かれるだろうなと観念することにした。何より、

「えぇ、こんなにも心があたたかい人をどうやって支えていこうかなって。そう考えたら寝れなくもなりますよ」

ちょっと素直になりすぎたか。驚いたようにこちらを見つめる彼に、してやったりと微笑む。
少しの沈黙の後、彼はいつもの仏頂面を取り戻して言い放つ。たった一言で私の不安なんてかき消してしまう、やっぱり彼の方が一枚上手なのだ。

「いつも通りでいいだろう」

熱を持った頬に私はついぞ降伏する。
彼のもとで働きはじめて膨らんでいた想いに、ずっと憧れや尊敬だのと逸れた名前をつけては見て見ぬふりを繰り返していたけれど、もう無理だ。

こんなにも嬉しいのは憧れの上司の言葉だから?いや違う。

好きな人の言葉だからだ。