territory



リヴァイは心底驚いた。

彼女からの視線に、ただの上司に向けるにしては相応しくない熱さが見え隠れする事には気付いていた。ある時から他人と深い関わりを持つことを避けてきたリヴァイだったが、その視線を煩わしいと思うことも無く、ただ静かにゆっくりと馴染んでいくその熱に悪い気はせず、こちらもただ静かに自身のテリトリーに招き入れていたというのに。

飼い犬に手を噛まれるとはこの事かと、どこか冷静な頭でリヴァイは思ったのだ。

そう、リヴァイは気付いていた。ひいては思い込んでいた。彼女はきっと言葉にしてくることは無いだろうと。だからこその油断。
何より彼女の言葉に、リヴァイとどうなりたいだの、何がしたいだの、何かを望む言葉は一切なく。
どこまでも真っ直ぐに好意を伝えられるこの状況は流石のリヴァイも予想外であった。

「そうか」

時間をかけて男が発した言葉はそれだけだった。先程までの勢いは何処へやら、大人しくなった彼女は突然すみませんと頭を下げ、もう一つのテーブルで黙々と書類を書き上げていく。その変わり様にまたしても驚かされつつ、手元の紅茶をまだ堪能していないことに気付いた。彼女が淹れてくれた紅茶はとうにぬるくなっており、勿体ねぇなとリヴァイは思考を放棄したのである。

そしてその数週間後、男はこの日の自身の発言を恨めしく思うのだ。


おかしいと思った。いつもより広めに空いた距離、意地でも合わない視線、そして。

「来週から第四分隊の実験に協力して欲しいと声がかかっているのですが、問題ないでしょうか」

嘘だと本能で悟る。第四分隊ハンジからではなく、恐らくリアから打診した結果だろう。意図的に避けられていると気付くと何とも面白くない。リヴァイには思い当たる節しかないが。

男は随分前に放棄した思考を手繰り寄せる。
易々と心の内に入り込んできておいて、今更出ていけると思っているのか。招き入れた自身のことは棚に上げ、離れていこうとする彼女をどう引き留めるべきか考えるが、何度考えてもわからないのだ。何故なら彼女が何を望んでいるか、知らないからである。リヴァイは腹を括った。もうどうせ帰せない所に彼女は居るのだから。

「お前はどうしたい」

その言葉にリアは冷や汗をかく。何故かは彼女もわからない。
ただ彼の言葉の圧に、答えを間違えたらいけない気がして、さながら尋問のようだと思った。
そもそも行きたいから上司の返事を待っているというのに。

「いい機会なので参加できたらと思っていますが」
「その話はしてねぇよ。先月の話だ」

今から処刑でもされるのか、とリアの背筋は凍る。
なぜ今更その話をと思わないこともなかったが、もう一度どうしたいと聞いてきた男の声が随分柔らかく、驚いて彼の目を見れば久しぶりに合う視線に絆されたのか、彼女は重く閉ざした口を開いた。

「一緒にいたいです。できるだけ長く」

頬を赤く染めた彼女の目には男しか映っていない。逸らされない視線にリヴァイは機嫌をよくする。そうだ、そのまま戻ってこいと、最後の仕上げに手ぐすねを引くのだ。

「なら、俺の帰るべき場所になれ」