魅入られるコンコン

近場だからと小狐丸は一人で短時間の遠征に向かわされた。一人は初めてだ。すっかり慣れた遠征先ではあるが、一部隊で行くのと一人で行くのではかなり違う。話し相手がいないので少し寂しい気もするが、自分のペースで任務をこなせるのはなかなか気楽だ。一人であっても任務はすぐに終わった。まだ終了時間まで余裕がある。いつもは行ったことのない道に入ってみよう。その時の小狐丸はなぜかそんなことを思ってしまった。

そして、見つけた。

はじめて抱く感情だった。仲間や主に向けるものとは違う、この情は。人の子はそれを恋と呼ぶのだが、小狐丸は知らない。ただ、目が釘付けになった。

「ああ、なんと美しいおなごか…私はあなたと離れたくない。ぬしさま、申し訳ありません…」

丸い美しい瞳を見ていると本丸へ帰ることが嫌になった。この場所を離れたくない、ずっと一緒にいたいと思ってしまった。

「私は小狐丸。あなたの名をお聞かせ願えますか」

膝をついて目線を合わせるとその女は黄金色の毛を輝かせて森の中へと駆けていった。

「あ、お待ちください!」

丸く宝石のような瞳、すっと伸びた鼻筋、きゅっと引き締まった口許、そして豊かな黄金色の毛並み――――

小狐丸はその狐の尻尾を追いかけ森の奥へ奥へと進み、二度と本丸は帰ることはなかった。



(2019/10/27/BACK)