新婚の光坊に会いに行った話

「光坊、結婚式以来だなぁ。邪魔するぜ」
「いらっしゃい鶴さん」

光坊が結婚して住みはじめた新居に来てみた。会うのは結婚式以来だ。あいつの可愛い可愛い奥さんは今日は実家に残りの荷物を取りに行って夕飯も食べていくらしい。帰りは明日になるそうだ。

「そこに座ってて。コーヒーでいいかい?」
「ああ。砂糖なしミルクありでな」
「はいはい。知ってるよ」

四人用のダイニングテーブルに座って、光坊がコーヒーを持ってくるまで新居を眺めた。まだ物が少ないが、光坊らしいシャレたインテリアが多い。リビングは結構広く、四人用のダイニングテーブルに二人がけのソファ、ローテーブル、本棚があってもまだまだ余裕だ。あとは光坊たちの寝室か。

「はい、どうぞ」
「ありがとな」

受け取ったコーヒーにミルクを入れて一口飲んだ。光坊のほうには少しだけミルクと砂糖が入られている。

「1LDKだったか?」
「うん。ローンを考えると気が遠くなるね」
「良い家だとは思うが、子供ができたらどうするんだ?引っ越すのか?」

さっきから考えていたことを言ってみた。築浅でそこそこ広くて、キッチンも使いやすそうで、立地も良い。単身者やカップルが住むなら良い物件だろう。だが、後々子供ができたときを考えると子供部屋はどうするんだろうか。まさか一人暮らしをするまで両親と同じ部屋で寝るなんてことはないよなぁ。

「それはないよ」

あまりにも普通に言われた。

「ん?」
「絶対に妊娠させないから」
「…は?」
「僕らが子供を持つことはないから、1LDKで良いんだ」
「あー、それは…えっと。不妊とかではなく?妊娠させないってどういうことだ?」
「妊娠も出産も、あんなに大変で辛いことをしてほしくないんだ。どんな理由であれ彼女の苦しむ姿は見たくないね」
「…まぁ、少し分かる気もするが」
「それに例え自分の子供でも僕以外を愛してほしくない」

光坊の本音はきっと最後のとこなんだろうなぁ、という呟きはコーヒーと一緒に飲み込んだ。





(2019/10/27/BACK)