刀剣×夏目

※とうらぶ×夏目クロスオーバー


「こんなところに家なんてあったっけ…」

いつも通る森ではあまり人と擦れ違わない。擦れ違ってもほとんどは知った顔だ。それなのに今日は着物を来た少年の後ろ姿が見えた。また妖怪だろうか、そう思ったとき少年の後を追うように赤いジャージを着た高校生くらいの男の子がやってきた。普通の、高校のジャージのような格好だ。ということは彼らは妖怪ではない?それともジャージの奴はおれのように妖怪が見えるのだろうか。そう思うと彼らの後を追ってしまった。そして行き着いたのがここ。森の奥深くにでかでかと建つ大きな門、その奥には屋根しか見えないが恐らくはかなり大きな日本家屋がある。塀は多軌の家よりもさらに広そうだ。…的場さんの別邸だったりしない、よな。表札を確認するが何も書かれていなかった。しかし、こんな森に大豪邸だなんて今までの経験上イヤな予感がする。ニャンコ先生もいないし早いところ帰ろう。そう思って踵を返した。そのとき。

「うわぁ!」
「えぇえ!」

Uターンをしたそのすぐ目の前に大学生くらいの女の人がいた。

「あ、あのすみません!」
「いえ、こちらこそ驚かしてすみません!…うちに何かご用でしたか?」
「うち?あ、じゃあここってあなたの家なんですか?」
「まぁ、そうですね」

見た感じ、普通の人間だ。普通の洋服を着ているし手には七辻屋の紙袋。

「その制服、この辺の高校のですよね。良かったら、どうですか?丁度お茶菓子買ってきましたから一緒に」
「でも…」
「ちょっとだけ、話し相手になってくれませんか」
「…少しなら」

そんな風に言われると何だか断れない。小さく頷くとその人は嬉しそうに笑った。門の鍵を開けるといかにも重そうな扉を肩を使って開けているので俺も手伝った。それにしてもすごい門だ。ただの木だけじゃなくて、鉄の金具がはめてある。これのせいで重いんだ。

「ごめんなさい、手伝ってくれて」
「あ、いえ。すごい門ですね」
「せめて自動で開いたら良いのにっていつも思います」

門の内側もやはり広くて、木々だけではなく池や橋もあった。いくら都会じゃないとはいえさすがにただの庶民はこんな家には住めない。多軌の家も広いが、こんな立派な庭は無かった。

「さ、どうぞ」
「お邪魔します」

室内もやはり多軌の家や田沼のところの寺を彷彿とさせる。廊下はすごく長いし部屋数も多そうだ。二回角を曲がって庭がよく見える部屋に案内された。

「お茶淹れてきますね」
「あ、はい」

ストン、と廊下に通じる障子が閉じられ、一人になった。ここは応接間のようなものだろうか。池と橋がよく見える。床の間には掛け軸と生け花、欄間の透かしも見事だ。それにしても広い庭だなぁ…

「つかまえられるものならつかまえてみてくださーい!」
「…!」

子供のような声。どこだ?庭先を見渡すと橋の手すりに器用に登った少年がいた。さっき森で見た着物の子だ。そしてその近くには黒いジャージを着た男の人。

「待て!!それは兄者に贈るためのものなのだぞ!」
「そんなのぼくしりませーん」

森では他に赤いジャージの人も見た。あの人の兄弟だろうか。そんなことを考えていると後ろで襖の開く音がした。

「お待たせしました」
「あ、すみませんわざわざ」

ちゃぶ台に緑茶の入った湯飲み二つと七辻屋の水羊羹が置かれた。水羊羹なんてあったんだなぁ。今度ニャンコ先生に買っていこうかな。

「さて、食べましょうか」
「いただきます」
「私、七辻屋の水羊羹はじめてなんです」
「おれもです。というか、水羊羹があったって知りませんでした」
「じゃあ期間限定のものだったのかな…?」

そんな会話をしながら水羊羹を一口食べる。ツルッとしていてとてもおいしい。

「そういえば、ここには何人で住んでるんですか?」

さっき見た人たちは兄弟だろうか。そう思って聞いた。しかし、その人は一瞬だけ固まり、すぐに笑顔を取り繕った。

「…庭にいました?」
「はい。小さな着物の男の子と、黒いジャージの男の人…あと、森で赤いジャージの人も。ご兄弟なのかと思ったんですが…」

さっき固まっていたし違ったのだろうか。いや、だとしたら彼らの関係はなんだ?

「血の繋がりは無いんです。でもここで一緒に住んでます」
「そうですか。何か…すみません」

血の繋がりがない…確かに人には言いづらいかもしれない。おれもずっと経験したきたじゃないか。塔子さんたちとの生活に慣れすぎてその辺の感覚を忘れてしまったのかもしれない。

「いいんです!謝らないでください。やましい事情とか悲しいこととか無いので」

それを聞いてホッとした。そのとき、襖の向こうに人の気配を感じた。

「僕だけど、今ちょっと良いかい?」
「えっと…うん、いいよ」

こっちを見て少し考えるような素振りをしたが、返事をして襖を開いた。そこには背が高いジャージを着た男の人がいて、眼帯こそしているが名取さんとも並ぶ相当な美形だ。彼はこちらを見ると一瞬驚いたように目を見開き、すぐにばつが悪そうにはにかんだ。

「あ、ごめん…お客さんが来てたのか」
「うん、そうなの。私もごめんね、伝えてなくて」
「じゃあ、僕からみんなに伝えておくね。どうぞごゆっくり」

その人は最後に微笑んで襖を閉めた。…何て言うか、名取さんの印象が強いせいか美形の男の微笑みって胡散臭いものだとばかり思っていたけど、今の人は純粋にカッコいいと思った。…別に眼帯だからとかではない。というか眼帯をしてる人なんて的場さんのほかにはじめて見た。もしかして祓い屋…なわけないよな。

「すみません、バタバタしてて。お客さんて久しぶりなもので」
「いえ、気にしないでください。そういえば、まだ名前言ってませんでしたね。夏目貴志です」
「夏目くん、ですね。私は*****です。夏目くんは少し行った先の高校の子、ですよね?その制服」
「はい。二年です」
「じゃあ、森が通学路なの?」
「あれはたまたま、何て言うか寄り道したい気分だったっていうか…たまに森を通るんです。でも、森の中にこんなお屋敷があるのは知りませんでした」
「人目につかないですからね。私も門の前で夏目くんを見つけたときは驚きました」
「すみません…着物の男の子って珍しいなぁと思って着いていってたら、つい立派なお屋敷だったので」
「珍しいからって後を追って、危ないところだったらどうしたんです?」
「本当ですよね…今までも何度か痛い目には遭ってるんですけど」
「へぇー、例えば?」
「えっと…蛇と遭遇したとか?」
「それは大変でしたね!」




*****




会話の間にも上の階や庭では物音や人の気配がした。実際に見たのは四人だけど、もっといるのだろう。あまり深く聞いてはいけないんだろうけれど、ここの人たちの関係が気になる。血の繋がりのない家族…にしては男が多いし、こんなに広い屋敷に今まで気がつかなかったのも不思議だ。

「ここって何部屋ぐらいあるんですか?」
「確か…30か35はあったと思いますよ」
「ええっ?!そんなに?通りで広いわけだ…そこに何人が生活しているんでしたっけ」
「……まぁ、50人以上は」

予想を遥かに超えていた…!
さすがに50人超えで家族はおかしい。やはり祓い屋一門か何かなのだろうか。そんな考えが浮かびはじめ、とすればそろそろここを出た方が良いだろうかと思い始める。でも、*****さんは悪い人には見えない。そのとき、おれの考えをさらに固める出来事が起こった。

「ん?開かぬなぁ」

さっきとは別の男の声が襖の向こう側でした。

「さては主、結界を使いおったな?おーい、主」

結界、主。
一応、聞き馴染みのある二つの単語を聞いてサッとカバンを引き寄せた。*****さんはというと頭を抱えている。

「あ〜もう…三日月さん黙って!みっちゃんからお客さんがいるって聞かなかった?」
「聞いたぞ。聞いて来たのだ。我らの本丸を見つけた人の子とはどんなやつなのだろうかとな」

人の子…
襖の向こうにいるのは妖怪だ…!

「水羊羹ごちそうさまでした!失礼します!」
「あ、待って夏目くん!」

制止の声に振り返らず、一先ず庭へと走った。庭伝いに玄関に靴を取りに行ってすぐにここを出よう。悪い人には見えないとはいえ、友人帳がある以上、長居はしないほうが良さそうだ。庭を走っていると部屋からは見えなかったものがたくさん見えた。ここには池のほかに畑や馬小屋もあるようだ。玄関について靴を手に取ると全身を使って重厚な門を押す。しかし、開かない。なぜだ?びくともしない。閉じ込められた?

「おや、ぬしさまの客人ではないですか?もうお帰りですか?」

気がつけば背後には長い銀髪に黄色い着物の、明らかにこの世のものではない雰囲気を纏う妖がいた。

「ここから出してくれ!」
「出られないということはぬしさまがそれを許可していないということ。であれば、私にはどうすることもできませぬ」
「だったら教えてくれ、お前たちは何者だ?祓い屋か?」
「祓い屋?そのようなものでは断じてございませぬが…まぁ、詳しいことはぬしさまに聞いてくださいませ」

その視線の先を俺も追うと*****さんがいた。悲しそうな、申し訳なさそうな顔をしている。その後ろには森で見かけた赤いジャージの男の子や、眼帯の人、そして平安貴族が着るような青い着物を着た、人間離れした美しい顔の人がいた。

「驚かせてごめんなさい、夏目くん…」
「…説明してもらえますか」
「……詳しいことは言えないけど、ここには人間は私しかいない」
「えっ、じゃあ…」

思わず*****さんの背後を見た。青い着物の人は見てすぐにわかるが、じゃあジャージを着たあとの二人も妖怪なのか?

「そう。みんな人間じゃない。付喪神」
「つくもがみ…」
「この場所もいつもは目隠しの結界をしてるの。でも、夏目くんはきっと力が強いんだね。何かのきっかけでここを見ることができてしまった。普段、人と話す機会ってあまり無いからつい嬉しくて…怖がらせてごめんなさい」

そう言って*****さんなすごく悲しそうな、寂しそうな顔をした。妖が見える人間と会えて嬉しい、という気持ちはよくわかる。だって、自分がそうだったのだから。

「怖く、ないです…」
「え?」
「おれもすみませんでした」
「夏目くん…」
「おれなんかで良ければ、いつでも話し相手になりますよ」
「嬉しい。ありがとう、夏目くん」







何番煎じかわからない勢いで書いたクロスオーバー。
さにわとなつめ。




(2019/10/27/BACK)