怪物

昔から何でもできた。他人がどんなに苦労していることも簡単にこなすことができた。つまらない。頑張るってなんだろう?世の中に頑張らないとできないことなんてあるのか?体力、知能、話術、容姿、クラッキング技術…できないことなんて何もない。その道のプロがやることだって、何度か見ればできるようになってしまう。退屈だ。だから、槙島がやることは少しは楽しそうに見えた。その程度の動機だった。自らの意思で行動するとか啓蒙活動とかそういうのは至極どうでも良かった。命をかけるほどのことじゃない。槙島の意思を継ぐとかも考えなかった。強いて言えば槙島の獲物を今度はこちらが狙う、とか?

「悪いな、こんな部屋しか取れなくて」

そう声をかけて船室に入ると寝台では狡噛が本を読んでいた。槙島が好きそうな本だ。

「どんな船であれ、俺を国外に出してくれるならありがたいよ」

狡噛は気づいていない。俺がちょっと前まで槙島と共にいたことに。何も知らずにこの男は横になって呑気に本を読んでいる。

この男は槙島に与えたような楽しみを俺にもくれるのだろうか。







槙島さんの協力者が狡噛さんに興味を持ち、槙島さん死亡後に接触して逃亡を手助けした話。



(2019/10/31/BACK)