INSANITY
※暴力表現注意!
※ヒロイン外道です!
ある事件の捜査中だった。容疑者が下水路に逃げ込み、一係の面々はそれぞれマップを頼りに容疑者を追っていた。お互いの位置情報はマップに映し出されるし、通信も取りながらなので誰がどこにいるかはよくわかる。みんながみんなバラバラに違う方角へと進んでいった。猟犬の嗅覚というやつを頼りに薄暗い下水路を進んでいく。
「ここにいたんだ?」
「ひっ」
悪臭の立ち込める下水路の行き止まり。そこに容疑者の男はいた。ここに来るまでの間にどこかに引っかけたのかTシャツは所々破れ、靴は片方脱げている。それを見て彼女はにやりとするとドミネーターを構え、照準を合わせた。
『犯罪係数・190』
トリガーを引き、男を執行する。しかし男は倒れない。それどころか目を血走らせてまっすぐ彼女に向かって走ってくる。
「うぉおあああ!!」
「クソ野郎…」
彼女は眉間にしわを寄せると、飛び掛かってきた男の腹めがけて脚を突きだし思いきり鳩尾を蹴りあげた。
「あらあら、痛そうだね。まだドラッグが効いてなかったのかな」
「はぁっ、はあ…うぐっ…」
「私そういうの飲んだことないから、どれほどの効き目があるかって分からなくてね、加減ができないんだ」
「あ…あ゛ぁ…ぐっ」
「これくらいの力加減で、どう?」
執行官にしては高いヒールが男の股間にめり込む。日頃、宜野座や狡噛たちにはいつか捜査に支障が出るからもう少し低いヒールにしろと言われているパンプスだが、一応彼女なりにストラップ付きで走ることもできるパンプスを選んでいる。何よりも、ローヒールでは相手は痛がらない。男は悶えながらも自分を蹴るその足を掴もうと手を伸ばした。しかしそれすらも彼女は重いドミネーターで殴りつけ、鈍い音がしたあと男の腕がダラリとする。彼女は尚も男の股間、腹、首、頭部を蹴り続けた。
「薬なんてやってなけりゃパラライザーで楽にしてやったのに」
「はぁ、ぐっ…ひぃっ」
「ドミネーターが効かない奴はこうするしか無いと思わない?」
「あっ…あ゛う…ぅぐ…」
「いくら体がぼろぼろになっても、エリミネーターで撃てばそんなの関係ないくらいめちゃくちゃにできちゃうんだよ。ね、早く300超えよう?」
「ひっ、ぐ…ぁあっ」
「そろそろか…」
抵抗することもできなくなるほど蹴られ、いたる所から出血する男から足を退けると彼女は改めてドミネーターを構えた。
『犯罪係数・320・執行モード・リーサル・エリミネーター』
その音声を聞いてニヤリと笑うと静かに引き金を引いた。
「恐ろしい執行官がいたものだ」
背後に先ほどまで無かったはずの気配。容疑者の男が破裂した際の血脂を浴びたまま、ゆっくり振り向くとそこにはこんな下水道には不似合いなあまりに美しい男がいた。見たところ武器は持っていないがドミネーターを握る手に力を込める。
「誰。何」
「君はいつもそうやって潜在犯を執行しているのか?」
「……」
彼女は表情を変えず、無言で男にドミネーターを向けた。男は動揺するわけでもなく銃口を見ている。
『犯罪係数・アンダー100・トリガーをロックします』
どうやら潜在犯ではないらしいが、このどことなく漂う危険な雰囲気は何なのか。おかしい。警戒を解いてはいけない。
「問答無用でドミネーターを使うわけか、君は」
男は笑みを浮かべている。普通、ドミネーターを向けられてこんな顔はできないというのになぜここまでの余裕があるのか。ますます違和感は強くなる。
「生憎それが仕事なんで」
「君にとってこの仕事は天職か。シビュラを使って合法的に人を殺す執行官という職業が」
「そうかもしれない」
「ある意味、君はシビュラシステムを使いこなしているのかもしれないな」
「それ褒めてるの?」
「しかし、いくら執行官といえどある一定の犯罪係数を超えれば何らかの処罰があるはずだろう。君はサイコ=パスを一定に保つ方法を心得ているようだが」
それを聞いて彼女は眉間にしわを寄せた。なぜ初対面の人間にそんなことがわかるのか。彼女は平時の犯罪係数は他の執行官よりいくらか高いが、その代わり捜査中だろうが死体を見ようが変動が少なかった。
「あんなの精神力の強さでどうにかなる。サイコ=パスを濁らせるのは弱くて不器用な奴だけ」
「おもしろい」
男は笑みを濃くした。それは美しいもののはずなのにそれを見た途端、彼女の背筋には悪寒が走った。今までも悪人は何人も見てきたはずなのにこの寒気は何なのか、彼女自身分からなかったがそれを相手に悟られてはならない。一切表情を変えず、男を睨み付けた。
「名前を聞かせてくれないか、君の」
「アンタが何でここにいるか教えてくれたら教える」
「僕はただの暇つぶしだ。ここに潜在犯と公安局がいると耳にしてね」
「潜在犯の執行されるところを見に来たって?はあ、なるほど。犯罪係数こそ正常だったけど、アンタはどうかしてるってことか」
「僕こそ正常な人間さ。今しがたこの世界の秩序が証明しただろう?それで、君の名は?」
「…みょうじなまえ。アンタは?」
「それはまた今度教えよう」
男はこの迷路のような下水道の作りを熟知しているかのように暗闇へと消えていった。残されたのは血の海に浮かぶ肉の塊と、なまえだけ。なまえは男の消えた暗闇へとドミネーターを向けてみたが何も反応は無かった。
「何だったんだ、アイツ」
あんな変わった人間がこの社会でまともに生きていけるはずなんて無いのに…。そう考えたころ、遠くから足音が聞こえてきた。その方角へ目を凝らすとピシっとスーツを着込んだ男が走ってきていた。その男は血塗れのなまえとその足元の血の海を見て深いため息を吐いた。
「またか…どうしてお前が追うとリーサルモードになるんだ」
「それだけ私が凶悪犯を執行してるってことでしょ、狡噛さん」
「だとしたらお前は誰か他の奴と組ませた方が良さそうだな」
「…何で」
「危険だろ。そうやっていつもいつもオーバー300に遭遇していたら」
「…別に平気」
これだから監視官は…そう思った。目の前のエリート監視官はどうやらなまえが余程悪運が強いと思って心配してくれているらしい。なまえは狡噛の説教染みた話を聞き流し、先ほどの男が消えていった暗闇を見続けていた。
悪はとことん痛め付けていいと思ってるヤバい執行官と面白がる槙島とまだヌルい甘ちゃんの狡噛
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