一つ歳を重ねた。一つ貴方に近付いたというのに、貴方はわたしの年齢を訊いて「孫とそう変わらんのう」と笑った。
 成人を迎え数年も経てば、一年の重みが違う。周囲は結婚だ出産だと人生のイベントを慌ただしくこなし始める年頃である。だというのにジョセフは、それなりに働いてそれなりに給料をもらいそれなりに自立した女を、高校生の孫と変わらないと言う。
 わたしの不機嫌に気付いたのか、ジョセフは笑顔を崩さぬまま懐から紺色の小箱を取り出した。
「なにも子供扱いした訳じゃあないぞ。これで機嫌をなおしてくれ」
 長方形の箱をテーブルの上に置き、わたしの眼を見つめたまま、マジックでも披露するかのようにゆっくりと白いリボンを引く。
「気に入るといいんだがのう」
「……貴方が選んでくれたものを、わたしが気に入らない事があった?」
 現れたのは、光沢のあるやわらかなクッションに置かれたシルバーのネックレスだった。小さな星をかたどったモチーフに、ダイヤがいくつか埋め込まれたシンプルなデザイン。プレゼントで機嫌をとられる訳ではないが、自然と笑みがこぼれる。
「素敵」
「機嫌はなおったかな、お嬢さん」
「これは首輪?せっかく飼い慣らした若い雌犬が逃げないように?」
 意地悪く問えば、ジョセフは少し驚いたような顔をしたが、直ぐにいつもの余裕をみせた。子供扱いされた事への小さな仕返しだ。彼は否定したが、いかんせん歳が離れ過ぎている。どうしても、ふとした瞬間に孫と歳を重ねる事もあるのだろう。
「こんな細い首輪ひとつでおまえを繋ぎ止められるとは思わんが、どれ、着けてあげよう」
 大きな身体が背後に回り、ジュエリーボックスからネックレスが掬われる。少し冷たいチェーンが肌を撫でる感触。
「星は、いつでも貴方のことを思い出させてくれるから好き」
 チェーンの先の星を指先で弄んでいると、背後から抱きすくめられ身動きが取れなくなった。
「誕生日おめでとう、名前」
「こんなの無くたって、わたしはどこにも行かないわ」
 ずっと変わらずここに居るから。だから、また逢いに来て。海を越えて、逢いに来て。



20181009