【傲慢】ごう まん
( 名 ・形動 ) [文] ナリ
思い上がって横柄なこと。人を見下して礼を欠くこと。また,そのさま。不遜。 「 −な態度」 「 −にうそぶく」
「君」
他人の家で他人にコーヒーを淹れる為、他人のコーヒー豆を計るわたしは、とある出版社のとある部署で、とある漫画家の担当編集をしている。
「なんでしょう」
「何をチンタラやってんだ? 僕は喉が渇いているんだよ」
喉を潤したいのならミネラルウォーターでも飲めばいいものを。心中で悪態を吐いた事に、この男は気付いている。涼しい顔をして完成したばかりの原稿を眺めつつ、わたしが怒りを飲み込むのを背で感じているに違いない。早く来いと言うから、原稿は仕上がっているとばかり思っていた。
約束の時間の十分前にこの家に到着してからおよそ一時間、まるで空気のように扱われ、先生が仕事をこなす様を背後から見ているしかなかった。その方がまだよかった。握っていた筆を久々に置いたと思ったらこれだ。
突然コーヒーが飲みたいと言うから、こうしてわたしは業務内容に含まれないコーヒーのドリップを始める。振り返りもせずに「早くしろ」と宣う男の背に心の中で指を立て、ソーサーを覆うように置かれたカップを返した。陶器のぶつかる音がして、そこで今日初めてこの漫画家先生、もとい岸辺露伴はわたしを視界に入れたのだった。
「おいおいおいそのカップ! 幾らすると思ってる!」
人を指さすな。わたしはソーサーとカップを見比べ肩をすくめてみせる。
「さあ……陶器に明るくありませんから」
「君、本当に僕の担当編集? 僕の好みのブランドくらい頭に入れておけよな……困るんだよね、雑に扱われちゃあ」
焦れた露伴が立ち上がり、わたしを押し退けコーヒードリッパーの前を占拠した。ナントカと言うブランドのコーヒーカップは露伴のお気に入りらしかった。これを落として粉微塵にしてやったら、奴はどんな顔をするだろう。もう此処に来なくてもよくなるだろうか……そんな夢想を追いやるように、芳醇な香りが鼻をかすめていった。
「君、原稿はそこに置いてあるから、飲んだらさっさと仕事に戻れよな」
それと、豆の分量が違うじゃあないか。僕は仕事の時は……云々。質だけはいい声をそよ風のように聞き流して、わたしはお高いカップを口元に寄せる。
「コーヒーブレイクをご一緒出来るなんて光栄です、露伴先生」
選び抜かれた陶器に満ちる、選び抜かれた豆から抽出された液体を流し込んで、やわらかく歯を見せた。
20190204