!暗い

 萩原くんとは、学生時代の半年間で何度か寝た仲だ。彼は女の扱いが上手く非常にモテたし、それを鼻に掛けるでもなく人当たりが良いので、友達も多いようだった。彼と寝た子は同期の中に何人か居て、みんな本気になりたいけれどなれない、だからこれは遊びなんだと自身に言い聞かせて関係を持っているのに、あくまでも対等ぶっていておかしかった。
 たぶん、セフレじゃなくて恋人になりたいと言えば、二つ返事でその座に就けただろう。じゃあ名乗りを上げた子はと言うと、わたしの知る限りただの一人も居なかった。おそらく、その就任期間が長くない事を誰もが知っていたからだ。
 それでも、何だかんだと適齢期に結婚して、可愛い子供を二人くらい儲けて、幸せに暮らしそうなイメージが彼にはあった。あんな調子だから、子供に好かれるパパになるだろう。奥さんになる人は、子供に負けずはしゃぐ彼を見て幸せを感じるはずだ。この人と一緒になって良かったと事あるごとに思い、共に歳を重ねていく──そんな未来を想像させる不思議な魅力が、彼にはあった。

 だから、血相を変えて飛んできた警察学校時代の同期から彼が殉職したと聞いた時、そんなまさかと笑った。卒業して間もないのに殉職? どんな部署に配属されたらそんな目に遭うのだと。同期が重たい口を開き、彼の所属先が爆発物処理班だと告げる。一気に血の気が引いた。
 慌ててつけたテレビには、煙がもうもうと立ち込めるビルが映し出され、アナウンサーがひっきりなしに実況中継していた。署内がざわめきに満ち、上司が状況確認の電話を各所にかけ始めた。
「あんた確か、萩原と仲良かったよね……ちょっと、大丈夫?」
 音という音が次第に遠ざかり、同期が心配そうに覗き込んでくる顔を最後に、そこから先の記憶がない。

 同期に「仲が良かった」と記憶されるくらいには親交があったけれど、配属先は知らなかった。と言うより、敢えて聞かなかった。知れば会いに行きたくなるからだ。彼は目立っていたから、聞かなくても情報が入ってくる。それら全てをシャットアウトするのは至難の業で、ようやく卒業してサヨナラ出来たのだ。永遠の別れになるとは思いもせずに、最後まで軽口を叩いた気がする。ボーナス出たら良いホテルに連れてってよ、とか、そんな最低な内容だった。
 結局、わたしも対等ぶっていたのだと気が付いた。どうやら彼の事が好きだったらしい。恋人になりたくて、でも踏み込むのが怖くて、他の女の子たちと同じようにこれは遊びなんだと言い聞かせて。気付くのが遅かったばかりに、関係の名前は「同期」のままで。
 ただの同期のわたしは、その他大勢の女の子たちに混じって、空の棺に花を投げた。
20211205