目が醒めると衣服が剥ぎ取られ、冷たいシーツにだらしなく四肢を伸ばしていた。DIOの部屋へ連れて行かれまいと散々抵抗し、焦れた執事に頬を張り飛ばされ、倒れ込んでからの記憶がない。ダービーは一見紳士的な素振りを見せておきながら、その実容赦の無い男だった。DIOへの忠誠心がそうさせるのだろう。「DIOさまは、何故おまえのような小娘を気に入っているのだろう」と言うのが口癖で、わたしを見る眼はいつも冷たく暗い。が、不幸はお互い様だ。こちらだって好き好んで気に入られた訳ではないのだ。
 ぼんやりと眺める窓の外で、流れる雲が月を遮りあたりが仄暗くなる。次の瞬間ベットが軋み、視線だけを動かして"奴"を捉えた。猫でも撫でるように、手の甲で腫れた頬に触れられたが反応する気も起きない。気怠さを隠さずされるがまま、顎を掴まれ引き寄せられる。描いた弧から鋭い牙がのぞいた。
「大人しくしていたのだな。賢いじゃあないか」
 大人しく、は間違いである。あなたの優秀な執事に散々可愛がってもらったので、動く気力もないのです。
彫刻のような筋肉をまとった身体が覆いかぶさり、絡む指先に力が込められてゆく。憎らしいほど整った顔に見惚れた一瞬、浅く息を吐く唇を塞がれた。間髪入れず入り込んだ舌がねっとりと絡みつく。酸素を求めて喘ぐわたしをよそに、舌舐めずりしたDIOはその濡れた唇を今度は首すじにあてがう。あたたかい舌がぬるりと這った肌に、鋭い牙が突き立てられた。
「……っ」
 抵抗する気などとうに失せていたが、皮膚を食い破る鋭い痛みを受け反射に近い形で身体が跳ねる。痛いばかりの傷口は、唾液が馴染みやがてあまい疼きへ変貌すると知っていた。膂力に敵わないと理解しつつも、重なる手のひらを押し返そうと試みる。懐柔される前に、離れなくては。
「善いんだろう」
「……っあ、ん、」
「ふふ、そう怯えるな」
 疼きは全身を駆け巡り、下腹部の一点に集まりだす。そうなると、この吸血行為も「前戯」のひとつなのだと嫌という程思い知る事になる。DIOは通常指先で吸血行為を行う。首筋に噛み付くというのは、つまりそういう事なのだ。傷口に落とされるキスが始まりの合図。吸血鬼へと姿を変貌させた後も、人間の名残を捨てきれないらしい。腹が満たされれば、次は下肢に溜まる熱を発散する番だ。
「名前よ、テレンスに散々駄々を捏ねたらしいじゃあないか……あまり困らせないでやってくれよ」
「や……いや、あ……っ」
 内腿を撫でられ肌が粟立つ。雲が途切れ、あたりが再び明るくなった。月明かりが全てを暴く夜。
20151208
20170819修正加筆