レンと別れて半年が経った。あんなに好きだったレンの、ST☆RISHの歌を一切聴かなくなり、世界から音が消え失せたような半年だった。
レンはアイドル、わたしは女優として多忙で時間は合わなかったし、常にスキャンダルと言うリスクを背負っていたから神経を使うしで、ストレスは半端なものではなかった。愛し合っていてもうまくいかない事だってある。お互い納得の上での別離だったので、今さらとやかく言うつもりはない。
喪失感を解放感にすり替えている事に気づかないふりをして、何事もなかったかのように仕事をこなす日々。忙しくしていれば、時間なんてあっという間に過ぎ去っていった。
「マジLOVEスターリッシュツアーズ……?」
「チケットが取れたんだけど、行けなくなっちゃって。席空けるのも嫌だし、代わりに行ってくれない?」
ST☆RISHのCD発売日、仕事でショップに寄れず買いに行ってもらった事があるので声を掛けてきたのだろう。マネージャーは、わたしとレンが付き合っていたとは知らない。
「ST☆RISHのライブなんて、プラチナチケットじゃない! 嬉しい!」
わざと声のトーンを上げて、ライブの詳細が表示されたスマホを覗き込む。気は進まなかったが、オフに何も予定がないと話したばかりだった為、断る訳にもいかなかった。
送ってもらったチケットを眺める二週間は果てしなく長く、行くか行かないか悩んだ挙句、あっという間に当日を迎えた。結局、これを最後にしようと、時間ギリギリになって家を飛び出してしまった。
レンが好きだと言ってくれたオレンジ色のワンピースを選んだのは、誰かが誰かのファンである会場で周囲から浮かない為だ。言い訳しながら会場に向かうタクシーの中で、久し振りにST☆RISHの曲を聴いた。繰り返し聴いたイントロから、それぞれのソロパート。レンの声が、ぴったりはまったように耳に馴染む。
彼がどれだけメンバーを愛し、愛されているか知っていた。そんなST☆RISHをわたしも誇りに思っている。だから、だから別れたのだ。わたしの為に無理をして時間を空けて、疲れていくレンを見たくなかった。仕事の邪魔をしたくなかった。
胸の痛みを誤魔化すようにスマホを握りしめる。虹色の音楽は流れ続けた。
*
きらめくステージで、大きな歓声を浴びて、一層輝く七つの星。わたしの大好きなST☆RISHが、レンが、そこに居た。
アンコールの後、泣きじゃくって崩れたメイクを直す時間も惜しく、関係者通用口まで走っていた。移動中掛けていたサングラスを外せば、名乗る手間もなく楽屋に続く通路へと案内される。
記念撮影でも始まるのだろう、ちょうどメンバーたちがそれぞれの楽屋から現れたところで、わたしを見ると、皆そろって足を止めた。誰も何も言わないまま左右に道を開け、示し合わせたように中央からレンが現れる。
レンは突然やって来たわたしに驚く風でもなく、歩みを止めるとゆるやかに両腕を広げて言った。
「ずっとステージで待ってたよ」
ケータリングも花束もない。身一つでレンの腕に飛び込む。眩いライトの中で歌って踊り、汗をたくさんかいているだろうに、いつものレンの香りがした。
「レン! レン、愛してる!」
噛み付くような口づけが、彼からの返事だった。
20220911
ST最高でした。