派手な音を立てて女が崩れ落ちた。もう呼吸はしていない。この屋敷では、生命活動の一切を止めた女たちが至る所に山のように折り重なっている。増えては朽ちてゆく彼女たちを眺めるのが好きで、わたしはよく屋敷を徘徊してまわった。変わった女だとDIOさまは笑う。
最近、DIOさまは食欲が旺盛なようだった。やがて訪れる戦いに備え、力を蓄えているのだろう。なかなか馴染まないと言っていた首の傷も、以前よりずっと目立たなくなっている。腹を満たしたばかりのDIOさまに、唇から食べられてしまうようなキスをされるのが好きだ。鉄くさいとばかり思っていた血の味のキスは、いつしか甘美な陶酔に変わる。そんなキスを死ぬ間際に落とされるからか、女たちは皆恍惚とした表情で死んでいった。わたしが死ぬ時も、きっと同じ顔をするのだろう。嗚呼。死ぬのなら貴方の腕の中で死にたい。
「その靴は」
仄暗い廊下ですれ違ったテレンスに目ざとく問われ、屍体から拝借した事を素直に伝えた。彼には嘘が通用しない。
「また屋敷を歩き回っているのですか」
「似合う?」
「仰ってくださったら、新しいものをご用意しますよ」
「べつに新しい靴がほしいんじゃあないの」
階段を降りている最中、ふと目に入ったのが、女の爪先に引っ掛かるこのヒールだった。鮮やかな赤は血と同じ色。DIOさまの口元を彩る、深紅の液体。
「DIOさまは?」
「先ほどお目覚めに。今日は一日、書庫にこもると」
「そう」
蝋燭の灯りを頼りに、慣れないヒールを鳴らして廊下を進む。テレンスの視線が未だ背に注がれるのを感じた。今日か明日か明後日か、この屋敷からわたしの存在が消える日を、案じているのか願っているのか。
嗚呼、死ぬのなら貴方の腕の中で!
20151206
20170819修正加筆