特撮鑑賞
ざわざわと騒がしい放課後である。これが普通の高校だったら放課後に遊びに行く約束をとったり、部活のために挨拶もせずに教室を飛び出す生徒もいるのだろう。しかしここは夢ノ咲学院アイドル科。Trickstarによる革命の後、風通しが良くなった校内では多くの生徒によるアイドル活動が活発化してきている。同級生で組んでいるユニットも多いが、上級生と組んでいる子もいる。皆それぞれ思い思いに、充実した放課後を過ごすために教室を飛び出して行った。本日使ったものをカバンにしまい、帰る準備をしようとした名前に、鉄虎と翠が声をかけた。
「名前ちゃん」
「鉄虎くん、翠くん。どうしたの?」
「放課後、暇?」
「一応Trickstarのレッスンあるけど、今日はお姉さまの当番だから…暇かな」
「ちょっと…付き合ってくれない?」
「???」
「あぁ、そんな深い意味はなくて…その、流星隊で特撮の鑑賞会をやるんだけど、守沢先輩が」
「特撮!この間おもちゃ屋さんで変身グッズ見て気になってたから行きたい!」
「新しい生贄…ゲット☆」
「!?!??」
♪
ぱっ、と部屋が明るくなり、暗闇に慣れていた目に光が染みる。目を細めた名前は、蛍光灯の明かりに慣れようとぱちぱちと目を瞬かせた。
「どうだ深月!面白かっただろう!」
「そうですねぇ、面白かったです!」
「だろ!!」
いつの間にか隣で座っていた千秋があっはっはと笑いながら名前の背中を叩く。少し身構えたが、背中に当たる手は優しい。バンバン、というよりはポンポンだ。気に入ったものはあるか?そう聞かれて名前は今日見たいつくかのストーリーを思い出した。
「やっぱり、ゴー力イジャーは見てて胸が熱くなりましたね…今までの戦隊の全部の力が使えるって、あまりにもザ・強者で良い……」
「うんうん!分かるぞ!」
「そんな彼らのバックグラウンドもとても深くて興味深かったですし……何故リアルタイムでこれを知って見ていなかったの私……今猛烈に悔しいです」
「今俺たちと見れたから、いいでは無いか!」
「………それも、そうですね?」
最終下校時間まではまだだいぶ時間がある。次は何を見るんですか?目を輝かせた名前に、ふふんと千秋が胸を張る。次はな、ライダーだ!一番最初の作品から一個前までの作品のDVDが今ここに全部ある!プレイヤーの横に積まれた円盤の山に、どれがいいのかなと名前が考え込んだ。ふふん、じゃあ俺のおすすめを紹介しようじゃないか!ボックスを引っ張り出した千秋に、じゃあセットするッス!と言って鉄虎がデッキに触る。あっ、と誰か引き止める声を聞く間もなく、プロジェクターが動作を止めた。壊れてしまったか、仕方がないと言ったように千秋が呟き、翠に肩車してもらい、プロジェクターの修理を始めた。
治るまでは時間がかかる。それまでの間に、と千秋が自分で考えた戦隊モノの設定を話し始めた。レッドにブルー、グリーンにイエロー、それからブラック。それぞれの必殺技と、持っている武器。ドキドキハラハラの大冒険と凶悪だか愛嬌のある敵キャラ。千秋の世界は平和だ。亡くなる敵もおらず、みんな結局は話し合いで和解し大円団。でもこれじゃあ面白みがないかな、いやもっとなにか新しいストーリーを付け加えるべきだな!わくわくと新たな設定を作り始めようとした千秋に、鉄虎は耐えきれなくなったらしい。勢いよく教室を飛び出した鉄虎を、慌てた忍が追いかけていった。季節はそろそろ梅雨に近い。外ではもう既に雨が降り始めていた。
「戻ってこないですねぇ」
「そうだな」
プロジェクターは直ったが、肝心の人達が帰って来ない。翠は一足先にみんなを探しに行ったらしく、視聴覚室には千秋と名前しかいなかった。このまま鑑賞会を続行してもいいのだが、ほぼ初対面である千秋と話を弾ませられる自信が名前にはなかった。なにか話題がないか、考えあぐねていた名前に千秋が声をかけた。
「みんなを探しに行ってくるから、名前はここで待っていてくれ」
「えっ、先輩?」
「なんだ?」
「体調悪いんですから、ここでみんなが帰ってくるのを待ちませんか?」
名前の言葉に、千秋は目を見張る。
「バレてたのか?」
「観察してれば分かりますよ。ちょっと熱っぽいんじゃないんですか?それでも探しに行きたいのなら、私は止める術がないんですが…」
「なんだ、てっきりベッドに縛り付けられるのかと思ったぞ」
「!?」
今度は名前が驚く番だった。
「なぜその発想になるんですか……」
「天祥院が言ってたぞ!去年の暮れの方に一回脱走したら妹にベッドに鎖で縛り付けられたって…そういやその妹はお前だったんだな!あっははは!」
「あれは!あれはだってちゃんと休んでいれば退院が早くなるのに先生の話を聞かないでやりたいことをやるからってあの手この手で病院を出ようとする兄様が悪いんです!」
「おぉ、一息」
「もう!思い出してきただけで腹が立ってきました!」
「どうどう、落ち着けって」
引き止めてくれて嬉しかったが、やっぱりみんなのこと探しに行くよ。外を見た千秋に、名前もつられて外を見る。じゃ私は視聴覚室を片付けたら鍵、返しちゃいますね。あぁ頼む。そんな会話をしながら、千秋が視聴覚室を出ていった。それから少し経ち、視聴覚室を片付けた名前も部屋を出る。しっかりと施錠されたのを確認し、鍵を職員室に返却して、しばらく考えて生徒会室へと足を向けた。
「失礼しまーす」
「あっ!名前だ!いらっしゃい♪」
「お邪魔します、桃くん」
とんとん、と空いた隣の椅子に座るように促した桃李に、名前が座る。おや名前様、いらっしゃったのですね。資料室から帰ってきたらしい。弓弦がどこからともなくお茶を淹れて、名前の前に置いた。桃李が可愛らしく首を傾げた。
「今日はどうしたの?」
「ん、生徒会の手伝いでもしようと思って」
「本当か!助かる!」
「わぁ、いたんだけーくん」
「ずっといた、と言いたかったところだが今しがた帰ってきたばっかだ。職員室に行っていてな」
それより仕事の手伝いをしてくれるのは本当か、ずいと近寄ってきた敬人に、うん、と名前が頷く。
「まぁぶっちゃけ時間が余ったから来ただけだよ」
「それでもいい」
「後で兄さんの退院手続きしてくるし、ついでに今日の業務内容は伝えておくね」
「えっ!英智さま、退院するの?」
「うーん、言いつけ通り『いいこ』にしてたからねぇ。あとは検査するだけだし、それは通いでもいいって言われたから、ご褒美」
「あまりあいつを甘やかすな。せめて検査までは入院させておけ」
「それで脱走された方が嫌でしょう?」
「……………」
むっすりとだまってしまった敬人にほらね、と名前が肩を竦める。英智の机から書類を一山取って、生徒会長の席に座る。意味もなくトントンと書類を整えて、めくり始めた。書類の種類は多岐にわたった。学院における部活ごとの予算に、校内行事の企画書。それに加えて学園祭が近づいているからか、出し物や屋台、それから外部からの出展申請と、その量が凄まじい。あとは最近増え始めたユニットの申請書などなど。その一つ一つに目を通しながら、名前は仕分け、サインを入れる。Tricksterのレッスンが終わったらしい。真緒が生徒会室に入ってきた。
「お疲れ様でーす、あ、今日会長いるんですね」
「……………、」
「あれ、それにしてはなんか小さいような……んん?」
「……………」
「………………あっ!?名前か!」
「大正解〜ちなみに兄さんは明日から復帰です」
「へぇ。そっくりだたから見間違えちゃったな……わるいな名前」
「いえいえ」
間違われたことをやはり少しは根に持っていたらしい。やっぱり、髪の毛伸ばした方がいいかな。英智と同じ、肩で揃えられた髪の毛をいじりながら言う名前に、真緒は苦笑した。