デュエルI
昼休み。お弁当を食べ終え、楽しいおしゃべりの時間に突入した。創と倫也とそれから光、四人でタブレットを覗き込みながらあーでもないこーでもないと楽しく話に花を咲かせる。
「やっぱり校内アルバイトなのかなぁ」
「でも【DDD】で中々いい順位を取ったわけだし、校外のイベントに参加してもいいと思うんだけどなぁ」
「うーん、それだと成績つかないし、資金も取られちゃうから、そういうのはもうちょっと後でもいいかなって」
「じゃあ校内アルバイトかぁ」
「七月にはあんずのお姉さまと校内で大きなドリフェスを開催する予定で企画があるから、私的にはそこに向かって頑張ってほしさあるなぁ」
「わぁ、ほんとうですか?」
「それまで活動資金また貯めないと!」
衣装のデザインもおまかせしていいですか?創の言葉に名前が頷く。新参だし、まだそんなに資金もないからなるべく安く済ませたいよねぇ。わかる。そんなグダグダと会話を繰り返していれば、クラスメイトに呼ばれた。外ですおうって人が呼んでるんだけど、の言葉に、名前は分かったと答えて席を立つ。教室を出れば、司が壁によりかかって外を眺めていた。
「待たせてごめん。司?」
「あぁ、名前…さん」
「これから一応仲間として活動していくんだから、さんはいいって。違和感あるし」
「努力しますね」
「ん。で、どうかしたの?」
名前の問いかけに、待ってましたとばかりに司が胸を張る。聞いてください、なんなら褒めてもいいのですよ!そんな前置きをしながら、司は言う。
「Trickstarに決闘を、【デュエル】を申し込んできました!」
「…………、」
「私はKnightsに入ったばかりでしたし、先輩方も去年度のKnightsについては多くは語ってくれませんので、自分で資料を探して学ぶしかなく、そこで【デュエル】というsystemを知ったのです!非公式のドリフェスですが、Unitのメンバーをchessになぞらえ、戦う。それにより、Knightsは栄誉と名声得たのです。今しがたお姉さまを通して、Tricksterの方に宣戦布告してまいりました。居てもたってもいられず、まずはと隣のclassにいる名前さ……名前に知らせに来たのです!」
どうですか!凄いでしょう、まるで褒めてくれと言わんばかりに笑顔になる司を見て、名前は足をえいやぁと振った。司の脛に向けて。
「痛っ!痛いです名前!脛を狙うとは、何事ですか!」
自分の脛をさすり、地面に蹲った司を見下ろして、ビシと名前は司を指さす。人を指さすだなんて、mannerが悪いですよ!頬をふくらませる司に、冷や冷やとした表情の名前が口を開く。
「司、放課後、説教ね」
「えっ?」
まさか怒られるとは思っていなかったのだろう。鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした司を置いて、名前は教室に戻った。スマホを取りだし、素早くメールを送る。返事は直ぐに来た。
『ちゃんと捕まえて、放課後スタジオに連行してきて』
と。
♪
【デュエル】についての打ち合わせをするからと、名前から言われ、あんずはTrickstarを連れて指定されたスタジオを向かっていった。
「それにしても、Knightsかぁ」
「ふむ、なぜか突然宝生に左遷命令が出てKnightsのプロデュースについたと聞いた時は驚いたが」
「左遷って氷鷹くん、会社じゃないんだから。でも気になるよね、生徒会長と何かあったのかなぁ、衣更くんとあんずちゃんは何か聞いてる?」
「いんや?俺はとりあえずしばらく外れてもらうって、会長に言われただけだなぁ、あんずは?」
「私もそんな感じ。ただTrickstarの重要な案件とかどうしてもやばいって時になると手伝ってくれるみたい。あと手の空いた時とかかな。この間名前ちゃんから直接話を聞いたんだけど、これぐらいかなぁ」
「ん〜そっかぁ〜、でもなんか複雑!」
「まぁな。お、ここがKnightsが根城にしているというスタジオか」
「RPGのボス戦か」
「たのもーう!」
「スバル!」
バン、とノックもせずにドアを開けたスバルに続いて、四人が中に入る。失礼します、と声をかけて中を覗いた。
「ん?」
「えっ、」
「あれ?」
「えぇ〜?」
「あんずのお姉さま!ちょっと待っててくださいね、すぐに話は終わりますので!」
そこにいたのは、なぜか【デュエル】をしかけた司が正座しているのを、残りの四人が取り囲んでいるという、不思議な光景だった。スタジオの隅に折りたたみ椅子があるので勝手にとって座っててください、名前の言葉に五人はぞろぞろと椅子を取りに行き、壁際に並ぶようにして座る。
「だからね、いくら非公式のB1といってもライブはするんだから予定は開けておかなきゃなら無いわけなの、それまでのレッスンとかにも日数はかかるでしょ?目先のことだけに囚われて他のことを一切顧みずに誰にも言わずに勝手に勝負を仕掛けて優越感に浸って事後報告じゃだめなの、もし先輩に他の予定が入ってたらどうするの?Trickstarが忙しくて構ってくれる場合じゃなかったらどうするの?それなのに司は予告まで出して引っ込みがつかないまて観客も集めちゃって。事の重大さに気づいた?反省する?」
「は、はい…」
「このクソガキ、余計なことしやがって!」
「泉ちゃんどうどう」
「ねぇ、叱るならもうちょっと静かにしてくんない〜?寝れないんだけど」
司を囲んだ説教はまだ続いている。なんか僕、朱桜くんが可哀想に思えてきたかも。真の言葉に、うん、と四人の哀れんだ目が司に向けられる。手持ち無沙汰に手あそび始めた五人が意外と白熱し、第三ラウンドがちょうど終わった所で、お説教は終わったらしい。すこしふらふらした司が、お待たせして申し訳ありません、と頭を少し下げた。
「今回の【デュエル】は基本的に司の希望に則って、プロデュースはあんずのお姉さまにしてもらいたいんですけど、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。名前ちゃんは?」
「私はいつも通り、お姉さまのサポートに回ります」
他のユニットの面倒も見なきゃならないのはお姉さまも一緒ですが、頑張っていきましょう?手を握り、笑いかけてくれた名前に、久々の共闘にあんずはほろりとしながら手を握り返した。
♪
衣装の縫い付けも全て終わり、名前はミシンの電源を落とした。【デュエル】はKnightsの流儀に則って行われるライブだ。そのため衣装もチェスに真似て白と黒の衣装を用意しなければならない。Knightsの衣装は言わずもかだが、対戦相手であるTrickstarは一から作らなければならない。出来ればKnightsの衣装も作りたいとあんずが言っていた通りに、しばらくしてデザイン画が手渡されたので、名前はTrickstarの衣装にかかりきりのあんずにかわり、Knightsの衣装を作っていたのだ。うん、と一つ大きな伸びをする。時計を見れば短い針はそろそろ九に近い時間を指しており、少し驚く。明日はKnightsの全員を呼んで一回試着するべきか、頭の中でそう予定を組みたてながら、出来上がった四つの衣装を持ち、空き教室を施錠して出た。最近はもっぱらKnightsの活動場所となっているスタジオに作りかけの服を置き、正面玄関で上履きからローファーに履き替えて外に出た。夏の生ぬるい風に、思わず顔を顰めた。横にぬっと大きな影が立つ。
「なぁに、今帰りなの?」
「瀬名先輩」
先輩、こんな時間まで何を。首を傾げた名前に、レッスンに決まってるでしょ?と泉が嫌そうな顔をしながら言う。
「なぁに、その嘘でしょって顔。チョ〜うざい。というかあんたこそなんでこんな時間まで残ってたの?」
「【デュエル】の衣装作ってたんですよ。いい所で区切れたので、終わりにしました。あ、明日試着するので昼休みにスタジオに来てくださいね」
一応Knightsの鍵垢で呟いときますので。スマホを取りだした名前が、トントンと文章を打ち込んで送信する。届いた通知に目を通した泉は、分かった、と返して名前を見た。
「で?やっと帰りって訳?」
「はい」
「あ、そ。じゃあね」
「はい、また明日」
スタスタと、泉がその長い足で名前を追い越して校門を出る。名前もその後を追いかけるように、ゆっくりと歩き出した。やっぱり男子の歩幅って大きいんだなぁ、そんなことを考えながらどんどん遠くに遠ざかっていく泉の背中を眺めていてば、ふと泉が立ち止まり、振り返ったのが目に入った。何かあったのだろうか、もしかして忘れ物でもしたのか、そう考えながら名前が泉を追い抜かそうとしたその時だった。すれ違いざまに、腕を掴まれる。
「ねぇ、あんた迎えは?」
「?」
「なにそれ?みたいな顔しないでよねぇ、迎えは?って聞いてんの」
「……迎え、ないんですが」
「はぁ〜?あんた仮にでも天祥院のお嬢様でしょ?迎えがないとかありえないんだけど」
あんたの兄とか今頃妹が帰ってこないってなって気が気じゃないんじゃないのぉ?さっさと電話でもして迎えに来てもらえば?名前の腕を掴んで離さないまま言う泉に、えぇ、と名前が困った顔をする。
「嫌です」
「はぁ?」
「そもそも一緒に住んでないんで家に居なくても多分気にしてないと思いますし」
「は?なぁに、仲悪いの?そうは見えないけどさぁ」
「仲は悪くないですよ。ただ一緒に住んでないだけです」
「家どこ」
「え、」
「家どこって聞いてんの!さすがに俺も女子を一人夜道で帰させるほど鬼畜じゃないからねぇ。送ってく」
「大丈夫、ですよ?」
「あ〜もう!大人しく俺に家まで送られろって言ってんの!なんで話通じないのかなぁ!チョ〜うざぁい」
ほら、歩く!家までさっさと歩く!そう泉に促され、名前は渋々と泉に腕を掴まれたまま、家へと歩き出した。