デュエルII



「ちょっと瀬名くん、僕とお話しないかな」
「却下」

早朝、登校早々泉の所に不穏な笑顔を浮かべながらやってきた英智に、泉はすっぱりと断った。

「【デュエル】で忙しいから、暫く話しかけないでよねぇ」

俺は名前のところに行ってくるからじゃあね。わざわざ英智の目を見ながら名前と名前を強調して出ていった泉の背中を、英智は睨む。機嫌がすこぶるいい泉とすれ違い、そしてその後ろ姿を睨む機嫌がすこぶる悪い英智を見た敬人は、何事か、と目を白黒させた。



真緒が【デュエル】のために合同で借りたスタジオに入れば、そこは撮影所の風貌をしていた。何故かKnightsを着た真が写真撮影をさせられているが、あんずは我関せずと言ったように衣装を縫っている。名前はそんなあんずの手伝いで、こちらも撮影を全く気にせずにミシンをカタカタと鳴らせていた。カシャカシャとひっきりなしに聞こえるシャッター音にイラつき始めたのだろうか、名前が言う。

「泉先輩、何時まで撮ってるんですか」
「うるさいよぉ、名前」

もちろん、俺の気が済むまで。語尾に音符がつきそうなほどなご機嫌な声で言う泉に、ん?と違和感を覚えた真緒が首を傾げた。

「なんか、仲良くなってないか?」
「あらぁ、真緒ちゃんも気付いた?」
「うぉ、鳴上」
「昨日の夜に何かあったみたいでね、今朝からあんな感じよ?朝なんてどうやらバイクの後ろに乗せて登校してきたみたいで」
「あー、だからか」
「何かあったの?」
「いや、さっき生徒会室に寄ってきたら会長がやたら機嫌悪そうだったから」
「んまぁ!」

可愛い妹を取られて泉ちゃんに嫉妬してるのね〜!にこにこと笑う嵐の前を、仮縫いが終わった衣装を身につけたスバルが大きな動きで飛び跳ねる。止めるまもなくビリと音を立てながら破れたそれに、名前が席を立ってスバルに近づく。

「はい先輩本縫いするので脱いでくださーい」
「はーい」
「はいありがとうございます〜お礼のビー玉でーす」
「わぁ☆やったやった〜!ホッケーと練習してくるねー!」
「はい行ってらっしゃーい、ついでに泉先輩、撤収ですよー」

スバルの衣装を持ったまま、流れる動作でライトのコンセントを抜きに行こうとする名前の腕を泉が掴む。じゃあこれで最後にしてあげる、とセットの中に放り込まれ、名前は固まった。ポーズを撮ったままこちらを見た真と目を合わせて、揃って首を傾げる。いいよぉ!その表情いいよぉ!と泉がシャッターを切った。ほらモタモタしない!カメラを首に提げたまま入ってきた泉が、持っていたスバルの上着を深名前着せた。

「はい、ゆうくんと並んで〜」
「えっと、名前ちゃん、おいで?」
「あ、はい、失礼します?」

真の横にちょこんと座る名前に、ゆうくんと背中合わせにして、と指示が飛んでくる。寄りかかって!飛んできた声に従って動く。

「先輩重くないですか?」
「大丈夫だよ、思いっきり寄りかかっていいよ」
「じゃあ失礼して」

そう会話を交わす間にも、高速でシャッターが切られていく。ほら逆も!言われた通りに先程と反対の会話と動作を行ない、撮影会は終了した。現像が楽しみだなぁと一眼レフに頬ずりする泉を見ながら、名前はあんずのところに行く。

「お姉さま、これ本縫いお願いします」
「はーい、名前ちゃんのは」
「あとは大詰めってところですね。チェーンつけたりとか。すぐに終わるので、終わったらTrickstarのもやります」
「ありがとう」



B1のドリフェスは非公式なものであるため、外部からも観客を呼び込むことが出来る。裏方の仕事は多方終えた名前は、すり鉢状になっている客席から、【デュエル】のために誂えた円形の舞台を見下ろした。客席はまだ空席が目立つが、八割はもう既に埋まっている。開演までまだ随分時間があるのに、この活気だ。なんせ【DDD】の優勝者であるTrickstarと夢ノ咲の古豪、Knightsの対決。先日両ユニット間で起きたいざこざもあった訳だし、今回のドリフェスは校内外問わず、話題となっていたのだ。青いブレザーの夢ノ咲の生徒と、チェスをモチーフに身を固めたKnightsのファン、それからオレンジ色のものを身につけているのはTricksterのファンであろう。KnightsとTrickstarのファンの席を分けたのは正解だった。いまでさえ、小競り合いが起きかけている場所がある。そこの間をダメですよーなんていいながら通り過ぎた名前の目に、グッズ販売をして回っているあんずが入った。傍には生徒会の仕事でだろうか、桃李と弓弦もいる。

「桃くん、抱っこなら私がするよ?」
「ひえっ、名前……」
「おや、名前様。こんにちは」
「ごきげんよう。ほら桃くん、抱っこなら私がするから、お姉さまの仕事の邪魔はしないでよね?」
「い、いい!名前はしなくて!」
「どうして?わたしだってお姉さまと同じ女の子でプロデューサーなのに?」
「や、やだよ、英智さまに睨まれたくないもん…」

両手を広げて近づく名前と、ジリジリと下がっていく桃李、そしておろおろと二人を見守るあんず。

「名前様、あまり坊ちゃんで遊ばないで下さいませ」
「あら、ごめんあそばせ〜」

反応が可愛くってつい。ニコリと笑う名前に、それは同意です、と弓弦も笑い返す。グッズ販売をしに再び会場内を歩きはじめたあんずを見送り、名前はすとんと桃李の隣に腰かけた。ぴえっと桃李が肩を強ばらせる。

「な、何で隣に座るの」
「私ここで見ることにしたから」
「う〜〜〜っ」

というか名前はプロデューサーなんでしょ!こんな所にいていいの!?じとりと名前を睨みながら言う桃李に、今回の【デュエル】は管轄外なんだよねぇ、と名前がため息を着く。そうなの?頭をかしげる桃李に、企画書の責任者、お姉様だったでしょう?と言えば、提出された企画書をここに来る前に目を通したのだろう、あぁ、と桃李が頷いた。

「そういえばさ」
「うん?」
「名前、この間ワカメの家に泊まったって本当?」
「え?」
「だってこの間バイクの後ろに乗せて登校してたって、ちょっと噂になってたよ」
「あぁ、泉先輩ね。ってかウソ〜、全く耳に入ってないんだけど」
「クラスのみんなに感謝すれば?なんか色々頑張ってたみたいだし」
「………………、」
「なんでそこで黙るわけ?ってちょ!?なんで泣いてんの!?」
「名前様、ハンカチをどうぞ」
「ありがとう、ございます」

最近どうも涙腺が緩い気がする、そう思いながらすんすんと鼻をすすりながら名前は目元を拭った。ボクの家にも泊まりに来ていいんだからね。隣から聞こえてきた言葉に、えっ、と名前が桃李を見る。

「英智さまに聞いたから、」
「な、なにを……」
「いろいろ」
「………」
「だからさ、困った時はいつでも泊まりにおいでよ。パパとママにはいい感じに言っておくから」
「………ありがとう、桃くん」
「どーいたしまして!」

それよりもう始まっちゃうから生徒会役員としてちゃんと監視しておかないと!ふんすと前を向いて座り直した桃李に、そうだね、と名前も前を向く。スポットライトに燦々と照らされたステージから、TrickstarとKnightsの面々が出てくる。入場者に配られたサイリウムの電源を入れながら、名前は自分の頬が緩むのを感じた。





back