スターマイン



夏休みも残すところあとわずかとなった。せっかくだしなんかの思い出作りたいねぇと名前があんずにチャットで話せば、二人で遊びに行くことになった。遊園地に行くか、それとも他のところに行くか、あーでもないこーでもないと議論を重ね、最終的には最近テレビで特集されていたビュッフェに行くことになった。念入りにオシャレをして待ち合わせ場所についた名前は、そこで待っていたあんずを見て一言。

「お姉さま、まずは服を買いに行きましょうか」
「えっ」

ビュッフェは?とおずおずと聞いてくるあんずに、予約時間内ならいつ行ってもいいので、まずはお姉さまの服が先決ですと微笑まれ、あんずは思わず口を閉じる。名前に手をひかれるがままにショッピングモールに連れていかれ、リーズナブルなお店に着いた時な心底ほっとしたあんずに、これとこれとこれ、と名前が服を寄越す。言われた通りに試着室で着て出てきたあんずを上から下まで見て満足そうにひとつ頷いた名前は、じゃあこれ着ていきますのでよろしくお願いします、と店員に黒光りするカードを渡した。あんずの口から思わずひぇっと悲鳴が出た。

「名前ちゃん!?そんな、払わなくても私出すよ!?」
「出しますよ。私のわがままに付き合ってもらったんですから」

そんなに大した出費では無いですし、ね。まだ何か言いたげなあんずを黙らせた名前は、そのままあんずの手を引っ張って本日の目的地であるビュッフェへと向かった。店員から説明を受け、それぞれ思い思いに食べたいものを取っていく。

「そう言えばお姉さま」
「ん?」
「『スターマイン』、どうなってます?」
「あ、ちょっと待ってね」

お菓子が大量に盛られた皿を持って席に戻り、あんずがカバンからタブレットを取り出す。一応こんなスケジュールになってるんだけど、と見せられたものに目を通した名前が、なるほど、と頷いた。

「それにしても先お姉さまよく考えましたよね」
「え?」
「TrickstarとKnightsの合同ライブって」

一応お姉さまからの提案だったからこうやって平和的なライブが出来たんだろうけど、Knightsの方から申し込んだらデュエルの再来ですよ。あの時のことを思い出したのだろう、に顔を顰めた名前に、たははとあんずが笑う。

「これからTrickstarはSSがあるし、校内のみんなにも応援してもらって欲しいから。【デュエル】でも合同ライブをやったけど、結局あれは勝負事だし。だからなんでもないライブを通してKnightsとも仲良くなって後押しして貰えたらなって」
「完璧です」
「ほんとう?ありがとう」
「次の主催者側とはいつ打ち合わせでしたっけ」
「明後日の午後にテレビ電話でする予定だよ」
「ですね、じゃあ新しい衣装のデザインとかもそこで練るんですか?」
「そうしたいなぁ、手伝ってくれる?」
「もちろん」



海外旅行で帰国したその足でそのままこちらまでやってきたらしい。夏バテと熱中症とそれから時差ボケがコラボし、最悪の状態になっている泉には、どうやら司からの貶しでさえ反応する気力がない。幸い遅刻やら寝坊やらでまだ来ていない人がいるため、まだ取り返しがつきそうだ。ステージに上がった名前は、自分の持っている日傘の下に泉が来るように移動した。ついでに先程見つけた自販機で見つけた冷たいスポーツドリンクを泉に渡した。

「泉先輩、とりあえずクールダウンしてください。多少なりともはマシになりますから」
「………………、」
「泉先輩?」
「ん…………聞こえてるよぉ」

ありがと、飲み物を受けとった泉が一口飲んで、大きく息を吐いた。本当に大丈夫なんですか?しゃがんで泉の顔を覗き込んだ名前に、大丈夫だから日陰作っといて、と泉が弱々しく返す。そうこうしている間に残りのメンバーもやってきて、真緒から名前に乗り換えたらしい凛月が名前にへばりついてきた。

「ねーねー、」
「どうしたんですか、凛月先輩」
「その日傘、ちょーだい」
「え、先輩日傘持ってるじゃないですか」
「これと交換、ほら」
「はぁ」

言われるがままに日傘を交換すれば、ちょっとだけ、やる気出たかも、なんて言って凛月がステージに上がっていく。悪いな名前、真緒が謝るのを、頭を傾げながら名前はいいえ、と頭を横に振る。

「傘変わっただけでやる気が出るのならいくらでも交換しますけど」

それにこの傘。紫の傘をくるりと回した名前は、これに見覚えがあった。

「これ、朔間先輩の傘ですよね?」
「ん?なんで知ってんだ?」
「こないだバカンスに行った時に、先輩がさしてたから」
「なるほど」
「ほら、先輩も早くリハに行ってください」
「はいはい」

じゃあ行ってくる。ステージに走っていく真緒から目を外せば、ステージの端では死んだ目をした真が泉に絡まれて居た。調子が悪いから拒否せずに相手になってくれという言葉を指示通り実行しているらしく、顔色は泉より悪い。これは見誤ったのでは?と心配する名前を他所に、リハーサルは澱みなく進んでいく。花火大会とのコラボで呼ばれたという体の仕事で行われる『スターマイン』では、花火の前や合間、後でアイドルがパフォーマンスを行う。ちょうど花火も予行として号砲が撃たれ時間が図られてタイムテーブルが分単位で調整されていく。事前にあんずと作ったタイムスケジュールに細かな修正を行えば、リハーサルは終了した。あと残すは暗くなってからの本番だ。街中では既に屋台が沢山出ていて、地元の人や観光客も増え始めている。一旦解散し、各自部屋に戻る。と言っても休んでられない。今日までギリギリで調整した衣装を出し、あんずと二人でで八人分の衣装を合わせながら最終調整を行なった。



大きな事件もハプニングもトラブルもなく、ライブは恙無く終了した。地域のお祭りはと言うと日付が越す辺りまでやっているらしく、花火が終わっても人が減る気配は見えない。お互いの健闘を和気あいあいと称え合い、控え室に戻ったみんなを待っていたのは浴衣を身に包んだ名前だった。後ろには何人かの男性が控えていて、何事かと顔を見合せた八人に、名前が言う。

「皆さんライブお疲れさまです」
「ありがとう。ところで宝生」
「なんですか、氷鷹先輩」
「後ろにいる人たちは…」
「着付けの人達です。主催者がとても喜んでくださって、ぜひお祭りを楽しんでいって欲しいと仰ってくださったので、浴衣をご用意しました」

もちろん着付けをしたあとはグループ毎に写真撮影をしてからお祭りに行けるんですけどね。如何なさいます?ここまで言われて断れない。言葉に甘えて浴衣着付けてもらい、グループ毎に、そして全体で写真を撮影して、解散となった。凛月は真緒に引っ付きに行き、泉は真を追いかけた。椚先生も着付けているという話を知ったらしい嵐も飛び出し、残されたのはスバルと北斗と名前と司の四人。

「私はさっきお姉さまと遊んできたので先輩達どうぞ行ってくださいな。お姉さまも浴衣を着せましたので」
「大丈夫なのか?」
「知らない人でもないですし、司はどちらかと言うとむしろ昔馴染みなので」
「じゃあ俺達行ってくるねー!」

じゃあお土産楽しみにしてて!北斗を引っ張りながら控え室を出たスバルを見送り、名前は司を見る。

「私達も行く?」
「そう、ですね。行きましょう」
「今なら何買って食べてもバレないよ」
「Marvelous!」

二人で控え室から出て、人通りが多い屋台へと向かう。屋台の始まりには火事対策や熱中症対策で消防車が救急車が止まっていて、赤いランプが光っている。あまりの人混みに二人で目を瞬かせていたが、意を決したように司が振り返った。

「手を」
「あ、うん」
「はぐれてしまってはいけませんから。行きましょう」
「はぁい」

イカ焼きにあんず飴、綿あめにたこ焼き、大判焼き、ベビーカステラ。目に付いた屋台から片っ端買っていき、途中で射的や金魚すくいの娯楽も忘れない。屋台の終わるもう片方の端に着く頃には、二人の手は食べ物でいっぱいだった。人の少ないところを探し、防波堤に登って座る。買ってきたものを両端に並べれば、ちょっとしたパーティーの始まりだ。屋台で売っていた、キンキンに冷やされたちょっと値段の高かった麦茶で乾杯して、しばらく無言で食べ物を平らげていく。焼きそばにお好み焼き、じゃがバターにフランクフルト。それらもひと段落すれば、何となく二人は顔を見合せた。ベビーカステラの袋を開けて、一人一つずつ取り出して口に入れていく。

「そう言えば名前、」
「なに?」
「浴衣、似合っていますよ」
「ありがとう。司も似合ってるよ」

さすが私の見立て。ふふんと名前が胸を張れば、司はえっと表情に出した。

「これは名前がchoiceした物なんですか?」
「うん。他の人のもね」

なかなか似合っていたでしょう。ヘラりと笑った名前に、そうですね、と司が相槌を打つ。紫の小さな花が散らばった白い浴衣でも、名前の白い肌はよく映える。目を細めた司に、どうしたの?と名前が頭を傾げる。

「いえ、白さも相まって消えてしまいそうだなと」
「……そうかな。そういえば知ってた?」
「なんですか?」
「司の浴衣の色、蘇芳色っていうんだよ」

字は違うけど、司の家名の朱桜と同じ読み。面白いでしょ?名前の言葉に、司は自分の浴衣を見た。たしかに、面白いです。小さく笑った司に釣られて名前も笑顔になる。

「ちょっと、そこでいちゃつかないでくれる?」

チョ〜うざぁい。真に逃げられたのだろう、一人になった泉が二人を見つけて近付いてきては、並べられた屋台料理にげ、と顔をしかめる。

「かさく〜ん?」
「げっ、瀬名先輩……というかいちゃついてなんかいません!溢れ者同士で屋台巡りしていただけです!」
「ふぅん、まぁそこは別にいいけど、食べ過ぎじゃないかなぁ?」

明後日学校に戻ったらかさくん練習倍ね。さらりと泉の告げた言葉に、司の顔が青くなる。わぁと目を丸くする名前に、名前もだよぉ?と泉が言ってはえっ、と名前が私は関係ないじゃないですか!と叫んだ。





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