シュヴァルライブI
残暑厳しいが、夏休みは終わった。仕事をする人としては充実した夏休みだったが、学生としては果たしてどうなのだろうかと思いながら名前が登校すれば、教室に変化はなかったが、そこに集まる人達に大きな変化はあった。
「うわっ、黒ッ」
「宝生は相変わらず白いなぁ」
「真白くんはまともな方だ……鉄虎くんとかもうこげぱんじゃん」
「夏休みめっちゃ楽しかったッス!」
「あぁそう、楽しかったのね」
仮にもアイドルなのにこんなに焼けて大丈夫なの?そんな名前の心配は的中し、ホームルームでやって来た担任はぐるりと教室を見回してから大きな雷を落とした。そしてそら見た事かと呆れた顔をしている名前を、担任は指さした。
「お前ら宝生を見習え!」
「いや先生、女子と比べても無理なお願いじゃないですか」
「女子並みにケアして欲しいという願いを込めて引き合いに出した」
「なるほどー」
「いいかお前ら、日焼け止めを塗ることに対して恥ずかしいと思うな、日傘を指すことを恥ずかしいと思うな。後で二年生三年生を見てみろ、お前らみたいに真っ黒になるまで焼けてる人は皆無だぞ。卒業後の進路がどうであれ、夢ノ咲アイドル科に所属している限り、お前らはアイドルだ!身だしなみと日焼けには気をつけろよ」
話は以上だ。全校集会するからテレビつけるぞ。ピリッとした空気が緩み、所々では緊張した息を吐く人も。トントンと肩を叩かれ、名前がそちらを見れば鉄虎がごめん、と手を合わせてきた。
「日焼け止め何がいいか、教えて欲しいッス!」
「いいよ。後で価格とか使いやすさとかレビューとかまとめてリストにして送るね」
「助かるっス!」
二人のやり取りに反応してクラスメイトも集まってくる。宝生、俺も。俺にもくれ。あっという間にできた人集りに、名前はため息をついた。掲示物にして教室の後ろに貼っておくから!全校集会に集中して!思いのほか大きな声だったらしい、隣のクラスまで届いたそれによって、名前は二クラス分の日焼け止めリフトを作ることになった。
♪
宝生、先輩が呼んでる。クラスメイトの声にはーい返事して名前は席を立った。外を見れば黒髪のオッドアイの人が外からこちら覗いている。
「およ、影片先輩」
「深月ちゃん。おはよう」
「おはようございます。今日何か面白い校内アルバイトありましたっけ?」
名前と先輩であるみかとは校内アルバイトの仲間と言ってもいいのかもしれない。まぁ大してお金に困っていないので名前が校内アルバイトをする理由もないのだが、あるとするならば面白いからだろう。あんずに誘われて参加した校内アルバイトは何か思っていたのとは違う、と感じた名前が校内SNSで見つけた庭園の花の手入れから始まり、桜並木の花びらの清掃と校内の美化に関するものから、ガーデンテラスの売れ残りのスイーツの消費や校内菜園での収穫の手伝いというむしろご褒美ではというもの、更には日々樹渉の鳩の餌やりや逆先夏目の実験助手など個人的なマニアックなものがある。
面白いと思った校内アルバイトに応募したところ、九割はみかと遭遇することになり、なんだかんだ今では仲良しの先輩の枠に入っている。いやいや、バイトじゃなくてな。手を振ったみかは、ちょっと聞きたいことがあるんやけど、時間ええ?と聞いてきた。うんと名前が頷けば、あんな、とみかは口をひらく。
「ここの日、Knightsのスケジュールって空いてるん?」
「あー、確認しますね……大丈夫です。空いてますよ」
Knightsのスケジュール聞くなんて、どうかしたんですか?首をかしげた名前に、みかはなるちゃんに夏の思い出をプレゼントしたくてな、と笑う。夏フェスに参加しようと思ってるんだけど、と照れたみかに、いいですねぇと名前が手を叩いた。
「その時は私もお手伝いしても?」
「もちろん、ええで」
というかむしろ名前ちゃん手伝って貰いたくてな。えへへと笑うみかに、じゃあ全力でお手伝いしますね!と名前はグッと両手の拳を握って見せた。じゃあ打ち合わせもあるし、今度の休日にライブ会場の下見も兼ねて付き合ってくれへん?両手を合わせたみかに、もちろんですよ、と名前も頷いた。
♪
「おはようございまーす」
「おはようございます」
なんとなく早起きしてしまい、集合時間の三十分前には校門に着いてしまった名前だが、さらに先客が居たようで。スマホから顔を上げた司は、早いですねと名前を見た。なんとなく早起きしちゃって。そう答えて何やってるの?と名前が司に聞けば、スマホの画面を見せられた。
「あ、ロズナス」
「はい。せっかくなので早めに来て学校の中の拠点を占拠して回ってました」
「熱心だねー」
「名前もあの時始めてましたよね?」
「うーん、時間ないし一ヶ月で飽きちゃった。今はログボだけとってる」
でもなんだかんだレベル上げはちまちましてるから何かあったら力にはなれるよと言えば、じゃあ今度拠点制覇の手伝いをお願いしても?と司が言うから、いいよと名前は頷いた。そうこうしているうちに人は集まってくる。泉にみか、そしてあんず。最後に遅刻スレスレでやってきた嵐は、凛月を引きずるようにして連れてきた。学校が手配してくれたバスに乗り、渡された地図の道を進めば、そこにあったのは眩しいビーチではなく、閑静な山中にある乗馬クラブだった。目を白黒させるみかに、本当に夏フェスの申し込みをしたんですか?と名前が聞けば、慌ててスマホを確認したみかが悲鳴をあげた。どうやら間違えていたらしい。
「ここってどんなライブするの?」
「馬の着ぐるみを来てのライブやて…」
「夏場には厳しくない?」
「そういう話じゃないでしょぉ?」
Knightsにこんな仕事相応しくないって言ってんの。少し苛立っている泉を宥め、ちょうどいいとばかりに嵐は凛月に木陰に寝かせた。いつの間にか消えていたここの馬術クラブの常連らしい司が戻ってくる。どうやらオーナーと話をつけたらしく、ライブしに来てくれるだけでも有難いから好きにやって貰っていいとの事。馬に乗りながら戻ってきた司に、名前もオーナーから汚れてもいい服一式を貰い、厩に向かった。
「あれ〜名前だ」
「あ、ゆうたくん」
「やっほー、なんでここにいるの?」
厩の地面に敷く干し草の俵の上に座っているゆうたに、名前は目を瞬かせる。私はKnightsの仕事で来たけど、ゆうたくんそこ何故?名前の言葉にバイト!とゆうたは元気よく答え、サボってるけど、とつけ加えてにししと笑う。呆れた顔をすれば、名前は馬乗る?と聞かれて頷く。じゃあ出してあげるから好きな子選んでいいよーと言ってゆうたは俵の山から飛び降りた。厩にいる馬を見て回る名前の後ろを、ゆうたが着いてく。
「ひなたくんは?」
「うーん、どっかで真面目にバイトでとしてるんじゃないかな」
「見習いなさいよ」
「あははー、どう?気になる子見つけた?」
「うーん、あ、白毛の子がいるのね。珍しい」
「あー、その子?」
白毛で珍しいけど、結構気性が荒くて乗る人あんまり居ないよ。観賞用かなぁー。さらさらと馬の情報が出てくるゆうたに、案外ちゃんと仕事してるんだね、と名前が感心すれば、あれ、バレた?とゆうたは笑う。じゃあこの子にするよ、大人しく頭を撫でられている白毛で馬を撫でながら言うと、ゆうたは少し驚きながらもドアを開けてくれた。鞍とか取ってくるね、と多分事務所の方に走って行ったゆうたに、深月は馬の顔を見合わせる。
「君、名前教えてもらわなかったけど、私が勝手につけてもいい?」
ぶるん、と鼻で鳴いた馬に白いから白雪ね、と名前をつけて、厩にかけてあったものを手に取る。とりあえず手綱を掛け、しばらく考え、名前はそのまま馬に乗った。てくてくと事務所に向かって少し歩けば、鞍一式を持ったひなたがやってきた。
「んぇ!?裸馬!」
「鞍ありがとうひなたくん」
馬から降りて鞍を受け取る。ゆうたくんが鞍を取りに行ったはずなんだけど、と言えば、そのまま休憩に入ったよ、とひなたは口をとがらせた。なんもやってないのに休憩かい。つっこんだ名前に、もっと言ってやって!とひなたが言う。
「それにしても、手馴れてるね。さすがお金持ち」
「うーん、そう言われるとなんか複雑」
司くんも馬に乗って動き回っていたよ、と教えられてあそこは武家だからねぇ、と名前が相槌を打つ。手早く鞍を着け、大人しくされるがままの白雪にお礼を述べた名前は、ひなたくんも乗る?と見るが、まだ仕事残ってるから後でなら、と約束を取りつけて別れた。腹を蹴れば、白雪は大人しく歩き出した。しばらく進めば近くに人影を見つける。
「影片先輩〜」
「んあ?名前ちゃん!?」
ほぁー、綺麗な白馬や。目を丸くするみかに、何か悩み事ですか?と名前が聞けばなんで分かるん!?と驚かれる。なんか変な顔をして唸っていたのでと言えば、気にせんといて、とみかは笑った。
「いやいや、私だって一応ライブのプロデュースを手伝うんですから、一緒に悩みぐらいはしますよ」
とりあえず気分転換で馬に乗りましょう。差し出された手をそのまま掴んだみかを馬の上に引っ張りあげる。ちょうどさっきの所に障害物のコース見つけたので行きましょう!笑顔で言う名前に、みかは嫌な予感しかしないと顔を青ざめさせた。