シュヴァルライブII



うわぁぁぁ!と近くから聞こえた聞きなれた声によって発された悲鳴に、嵐は周りを見回してまぁ、と声を上げる。何事かと集まってきたあんず達は、あれ見て、と向こうを指さした嵐に、そちらを向いて目を丸くした。

「堪忍!堪忍や名前ちゃん!!」
「これまだまだ序の口ですよ、ちゃんと掴まっててくださいね〜」

白馬に乗った名前を、後から怯えたみかががっしりと掴んでいる。大きく助走をつけた白馬が、名前の合図で大きく飛び、障害物を越えた。Marvelous!歓声をあげる司に、確かにすごいわねぇと嵐も頷く。嵐達を見つけて、名前が馬を操ってこちらにやってくる。みかが慌てて馬から降りた。

「い、生きた心地がせんかったわぁ」
「あらあらみかちゃん、お疲れ様」
「なるちゃん〜!」
「それにしても名前ちゃん凄いわねぇ」

あんな高い障害物をひらりと飛んじゃうんだもの。お姉ちゃん見惚れちゃったわぁ!ぱちぱちと拍手しながら言う嵐に、ありがとうございますと名前は笑う。もしや名前も馬を?目を輝かせる司に、幼稚舎の時から中学までずっと馬術部だったので、と名前が馬のたてがみを撫でる。気持ちよさそうに嘶いた白馬が、足踏みをする。

「この子ちょっと運動不足っぽいので、もう一周遊ばせてきますね」
「はい、行ってらっしゃいませ」

颯爽と去っていく名前の後ろ姿に、も名前しちゃんが男の子だったらアタシ、惚れてたかもしれないわぁ、と嵐がうっとりしながら見送っては、泉に変な顔をされていた。



あんずからどうやらみかがあんずからのアドバイスを聞かずに一人で宣伝ライブの衣装を考えようとしていると聞いた名前は、放課後に上級生のクラスに向かった。みかとはたまに一緒に校内アルバイトをする仲だが、時折見える持ち物のえぐいセンスには別の意味で感心させられる。が、それが衣装に反映されるとなると名前としては不安でしかない。時々他ユニットの生徒に捕まり、練習メニューや校外ライブの助言をしながら階を一つ降りれば、二年生の教室が見えた。B組を目指して歩き出した名前の目の前に、金色の巻き毛が美しいお人形を持った人が近づいてくる。存在に気づき、お互い少し離れた場所に立った名前は、宗と見つめあった。

「小娘、名前は」
「名前……宝生、名前です」
「何をそんなに怯えている」
「いえ、あの……」
「フンッ。お前もあれの様子を見に来たのだろう」

来るといい。人形片手に2-Bの教室に入っていく宗のうしろを、名前はついて行く。遠目から見てもわかるようにみかは悩んでおり、そっとデザインの描いてある紙を見て、名前は大きなため息をついて思わず天を仰いだ。そんな名前の様子に宗もデザイン用紙を覗き込んでは、顔をしかめる。何故そこでケンタウロスが出てくる!二人のツッコミが一致した。もう見てられないとばかりに宗はみかの作業を中断させ、新しくデザイン画を書き起す。出来たものを少しだけ名前の方にずらし、名前が頷いたのを見た宗が、僕はこれから衣装作りに入るからしばらくは邪魔しないでくれ、と教室を出て立ち止まる。

「宝生」
「はっ、はい!」
「何をそこで突っ立っている。君も来るんだ」
「わ、わかりました!」

じゃあ先輩また!あわてて宗の後ろを追いかけた名前に、ほなな、と手を振りながら、みかはその後ろ姿を見つめる。【DDD】が終わった後、校内アルバイトで一緒になって夏休み前名前と交わされた会話を思い出す。きっかけはそう、名前がたまたま落としてしまった手持ち無沙汰にと架空のユニットを想定して描かれたデザイン画を見たからだった。

『名前ちゃん、お師さんと一回会って見いひん?』
『えっ、お師さんって…』
『うちのユニット、Valkyrieのリーダーの斎宮宗や、絶対名前ちゃんのそのデザイン画気に入るって』
『あー…』
『ダメなん?』
『ダメ、では無いですけど…何となく会いづらいかなぁって』

影片先輩、それ気に入ったら差し上げますよ。そう言って渡されたデザイン画は今、宗がいたく気に入り、手芸部に丁重に保管されている。あの二人、仲良うなってくれるとうちも嬉しいんやけどなぁ。荷物を片付けたみかは、教室を出て家に向かう。手先が器用とも言えず、多分制作の手伝いをしても邪魔だとしか言われないだろう。ならばお師さんのためにあれこれ身の回りの世話をするのが自分のやるべきことだと理解したみかは、商店街へと向かって歩き出した。



「Knightsのサイズ置いておきますね」
「わかった」

明日また呼び出して測り直しますけど多分変わってないはずです。書かれた数値にざっと目を通した宗は、そう短く返して手芸部に高く積まれた布の前に立つ。

「宝生」
「はい?」
「お前はどの布がいいと思う」

既存の型紙に改変を加えながらパソコンで起こしていた名前が宗を見る。こちらに来たまえ、言葉通りに布の山の前に立った名前は、上から下までざっと通してうん、と考え込んだ。

「無難にポリエステル生地がいいと思うんですよね。九月と言ってもまだ暑いですし、風通しのいい素材で作りたいなと。だからここら辺でしょうか」
「ふむ、そうだな。中地は白か」
「それもいいですけど、ちょっと遊び心で水色とかにしてもいいと思います。見た目も涼しげですし」
「淡いグレーも似合うな」
「似合いますね。グループで水色とグレーに色分けしてみます?」
「うむ、いい考えだ」

これとこれとこれ、三つの大きな布地を取り出す。まずは適当にトルソー用に作るらしい。宗が布をたちばさみで切る音と、名前がマウスをクリックする音が静かな部屋に響いた。

「君は気にしなくていい」
「え?」
「あれに聞いた。その時代に君はここに居なかったし、君が勝手に僕と気不味くなる理由もない」
「…………」
「君が去年夢ノ咲に居たのならば、また何か変わっていたのかもな」
「そしたら双子ですけど」
「それはそれで忌々しい。やはりこのままでいい」

顔をしかめた宗が、その型紙はあとどれぐらいで済む、と名前に声をかける。Knightsのはもう終わってますので、今やってるのはValkyrieのですね。あと30分で終わります。名前の持ち込んだコピー機からガガガと音を立てて型紙が吐き出されているのを見ながら、便利な時代になったものだな、と宗が呟いた。



馬に乗って会場を一周し、ステージに戻ってきてパフォーマンスを行う。不慣れなみかを嵐が引っ張りあげ、二人乗りしているのを一部の人が歓声を上げているのを見て、そういう需要もあるんだなぁと名前は後ろの方から眺めていた。興に乗ったという宗がいつの間にか名前のサイズも測っていたらしく、お揃いだが下はパニエでふんわりと膨らんだスカートの衣装を名前に作っては今朝着ろと渡された。見れば預けられたマドモアゼルと呼ばれた人形も同じ服が着せられている。デュエルでもジャッジメントでも、仲直りでもない、心の底から歌って踊って楽しめるシュヴァルライブ。嵐に聞けば、多分とても素敵な夏の思い出になったと、それはそれは綺麗な笑みを浮かべて答えてくれるのだろう。活動報告書を書くためにカメラを構えた名前に、遠いながらも反応した泉が歌いながらも綺麗にポーズをとるのが見えて、名前は笑いながらシャッターを切った。





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