ジャッジメントIII
時間は刻一刻と迫り、そろそろ開場の時間となった。窓の外から見える学院の大通りには多くの人で賑わっている。じゃあちょっとやりたいことがあるので、ちょっと四人とも来て貰えませんか。名前の言葉に、何事かと四人が集まってくる。名前はスクールバッグから箱を取りだし開けた。青い薔薇が艶やかなコサージュが、四つ並んでいた。
「仁兎先輩」
「なんだ?」
「レオくんのわがままに付き合ってくれて、ありがとうございます。いずれ名前は覚えさせるので、今は我慢してください」
「おう!」
「鬼龍先輩」
「あぁ」
「同じく付き合ってくださって、ありがとうございます。紅月の活動や自分の方でもお忙しいのに、衣装の制作も手伝ってくれて、ありがとうございます」
「宝生も、よくがんばって月永を連れてきてくれたな」
「兄さん」
「僕にも付けてくれるのかい?」
「当たり前です。叙勲式みたいで騎士っぽくていいでしょう?ナイトキラーズって名前はダサいと思うけれど」
「あはは、最後まで貶されちゃった」
「レオくん」
「ん、」
「今日も頑張ってください。あなたの信念を貫いて下さい。でも、逃げるのだけは無しですからね。私は、アイドルの月永レオも大好きなんですから」
「おう!」
レオの衣装に最後の青い薔薇のコサージュを付けて、名前は一歩下がり四人を眺める。満足気に頷いた名前に、レオが膝を着く。三人も、それぞれ倣うように膝を着いた。
「我らが女王陛下よ。君に勝利を幸を栄光を」
「ご武運を」
鷹揚に頷いた名前は、じゃあステージにそろそろ移動しましょうと時計を見て言った。やることがあるので先に行っててください、そう言えば、四人はぞろぞろと大人しく部屋を出ていく。最後に部屋を出ることになったレオが、立ち止まって名前を見た。
「レオくんの、嘘つき」
名前の言葉に、レオは笑った。
♪
「まったくもう、ヒヤヒヤしちゃったわ!」
本当に負けちゃったらどうしよう!って思ったのよ?名前をぎゅうと抱きしめながら言う嵐の背中をポンポンと撫でながら、名前はふふと笑う。笑い事じゃなかったでしょう?むぅ、と頬をふくらませる気配。
「ちょっとなるくん?いつまで名前に抱きついてんのぉ?離しなよぉ?」
「あん、もぅ!泉ちゃんのけち!」
べりっと勢いよく嵐が剥がされる。両手を広げたままになった名前に、今度はえーいと凛月が抱きついた。
「はぁ、一週間ぶりの名前だぁ〜」
相変わらずいい匂い〜。すぅと深呼吸した凛月も、邪魔!と言って泉によってソファーの上に投げられた。まったく、こんなにぽやぽやしてるんだからすーぐこんなヤツらに捕まるんだよ!そう言いながらソファーの方を指さす泉に、酷いわ!泉ちゃん、こんなって言い方ないでしょう!しくしく、セッちゃんこわぁい。と嵐と凛月がソファーの上でお互いを慰めながら泣き真似をしている。
「皆様、お食事の用意が出来ましたので、ダイニングへどうぞ」
月永様は既にダイニングでお待ちしております。そう言って去っていった高岡に、ほら行くよ、と泉が声をかけた。ジャッジメントが終わり、レオは再びKnightsの王として騎士たちを率いる事になった。【ジャッジメント】にてレオが負けることは想定していたし、司が再びレオを引っ張り、勝者の権限を発動してKnightsに引き戻すことも、名前は何となく分かっていたのだ。だからこそ【ジャッジメント】が終わったあとに、五人に声をかけたのだ。うちでちょっとしたパーティーを開きませんか?と。ここに来るまでも一悶着あったが、それは割愛して。ワイワイと出ていった三人を追いかけて出ようとした名前は、部屋の隅で立っていた司に声をかけた。
「司」
「えっ、あ、」
「お疲れ様」
「ありがとう、ございます」
俯いた司になにか考え事?と名前はそっと尋ねる。いえ、その。言いかけた言葉を途切らせ、小さな深呼吸をした司は、顔を上げて、名前を見た。
「果たして、私のやり方は正解だったのでしょうか」
「…………司は、どう思うの」
「分からないんです。たしかに今回私は【ジャッジメント】にてLeader率いるkinght Killersに勝利し、Knightsの解散を阻止し、さらにはLeaderにKnightsに残留してもらうことが叶いました。しかし、これでは私が嬉しいだけです」
「うん」
「Leaderは、この事についてどう思っているんでしょうか」
あのような破天荒で能天気で何も考えてなさそうな人が、今になってやっと学校へと通うようになったということは、それこそtraumaになるような何かが去年学院で、そしてKnightsにあったのかもしれません。そんな状態になっているLeaderを、彼のことを考えもせずにkinghtsに引き止めたのは、私のmistakeなのでしょうか。両手を握りしめ、苦しそうな顔をした司の手を、名前は握った。
「世の中に本当の正解なんてひとつもないわ」
「……」
「間違いでも、でもそれを正解だと思い続けていればいつかきっと正解になる」
「では、私のしたことはmistakeだと…」
「分からない。私も分からない」
でも私はこれを正解だと思いたい。はっきりと出た力強い声に、ハッとして司は名前を見た。
「ありがとう。司」
「いえ、私は、わがままを言っただけですから」
「ううん。私は、見ていることしか出来なかったから」
部外者だから首を突っ込むな。ただのファンの言葉なんて届かない。そう思って臆病になって、ただレオくんが壊れていくのに気づきもしないで、ただただ見ていた。
「でも名前は今こうやって夢ノ咲でプロデューサーをやっているではありませんか」
「でも、もう」
「Knightsは、これからです」
私が入って、Leaderが戻ってきて。Knightsは新しい一歩を今、踏み出しました。もう昔のKnightsではありません。
「それに私や、名前もいるではありませんか」
「え」
「去年のKnightsに何があったのかは未だに知りませんが、同じような事が再び起こらないよう、私たちで守って行きましょう」
「…………うん」
と言っても、私もまだまだ未熟でひよっこなのですが。苦笑した司に、そうだね。と名前が笑う。
「さっきから聞いてれば『間違い』とか『守る』とかなんとか言っちゃって?チョ〜うざぁい」
クソガキはクソガキらしく大人しく歌って踊ってなよ?聞こえてきた声にそちらを向けばドア枠に寄りかかるように泉が立ってこちらを見ていた。おい〜っす、と後ろから凛月も顔を出している。待てども待てども来ないから呼びに来ちゃった。凛月の言葉に、呼ばれてからかなり時間が経過していたと気付く。
「あといつまで名前と手握ってんの?かさくんの癖に生意気だよねぇ」
「えっ、あっ!すみません!」
「えっ、大丈夫だよ。私から握った訳だし」
「『王さま』が珍しくいい子にして待ってるんだからぁ、さっさと行くよ」
「はい!」
バタバタとリビングを出ていく司を見送れば、ニンマリと凛月が笑うのが目に入る。ほら名前も行くよ。泉の言葉にはいと頷いて深月もリビングの電気を出る。ダイニングに繋がる廊下を歩く。
「とかなんとか言っちゃって、セッちゃんちょっと嬉しかったでしょ」
「うるさいよくまくん……でも、ありがと」
「………はい」
廊下の向こうが騒がしくなった。レオの笑い声と司の小言。嵐がそれをからかう声。なぁに、俺ら抜きに楽しそうにしちゃって。不機嫌そうに目を細めた泉は、ダイニングのドアを開けた。
「ほら全員ちゃんと着席して!これからパーティー始めるんでしょ!」