オータムライブI



秀越学園からオータムライブにゲストとして参加しませんか。お知らせが来たのは、【ジャッジメント】が行われた少し前だった。Eveの事があって以降、打倒Adamをスローガンに掲げたあんずが書き起こし、散々没をくらったリベンジマッチの初期の企画書を読んでいた時に、あんずに知らされた名前は、今回は私も行きますからね、と言った。そしてどうやらオータムライブの招待はプロデューサーであるあんず個人に届いたらしい。

「こういうのって、普通学校を通して送られてくるのでは?」
「学校にも同じもの送ったって。書いてあるよ」
「…………へぇ?それ、ちょっと見せて貰えません?」
「はい、どうぞ」

渡された資料をペラリとめくる。記されている文字数は少ないが、何となく見逃しもできない文字列もあったりする。これ、しばらく貸して貰えませんか?そう聞いた名前に、必要なら名前ちゃんの分もコピーするけど、とあんずは言う。

「大丈夫です。必要なら生徒会室で全員分コピーしてもらいますから」
「全員分?」
「じゃあちょっと行ってきますね」

今日は多分もう来れないと思うので五人で帰って下さい!そう叫びながらレッスンルームを出て、生徒会室へと走る。宝生さん!廊下を走らないでください!たまたま椚先生に見つかり注意を受けたが、名前にとってはそれどころではなかった。

「すいません!Trickstarの進退に関わる問題なので見逃してください!」
「それなら何も言えないじゃないですか。急ぎなさい」
「はい!」

階段をのぼり、三階突き当たりの角部屋。ノックもせずに生徒会室のドアを開けた名前に四人は驚いたものの、肩を大きく揺らしながら呼吸する名前に、何事かと四人は表情を固くした。まずは呼吸を整えて、お水を。コップを差し出した弓弦に礼を言い、水を飲み干す。

「兄さん」
「どうしたんだい」
「秀越学園から送られてきたオータムライブの概要、ある?」
「あるよ」

デスクの引き出しから封筒を取りだした英智が、それを名前に渡す。封筒を漁り、ホッチキス止めされた数枚の書類を取りだした名前は、手に持っていたあんずから貰った資料と比べながら読み始めた。英智の目が細められる。

「それは?」
「あんずのお姉さまが貰った概要。たぶん生徒会に送られたものとちょっとだけ内容が違う……」

ざっと目を通した名前は、こことここと、ここ、と数カ所言葉が違うところを指す。そこを覗き込んだ英智と弓弦が、顔を見合わせて口角をあげた。敬人は嫌そうな顔で眉をしかめた。

「僕達もナメられたものだね」
「全くもって度し難い」
「えぇ、そうですね」
「気付いてくれてありがとう、名前」
「うん」
「弓弦、オータムライブの期間中はTrickstarの補助に回ってくれ。宿はこちらで手配する」

手伝いは何人連れて行ってもいいのだろう?ならば弓弦でも構わないよね。にっこり笑った英智に、弓弦が桃李に頭を下げる。

「坊っちゃま、しばらく間留守にさせていただきます」
「うん、なんかやばい事になっているのは何となくわかったから。行ってらっしゃい」

僕はもう一人で出来ることも増えたから、何とか頑張ってみるよ。そう言って笑った桃李に、行ってきます。と弓弦は頭を下げたまま言った。



豪華な門構えの秀越学園には人の気配すらしない。これが夢ノ咲なら、たとえ休日であっても部活に参加する生徒や、レッスンを行う生徒で賑わっているはずなのだが、芸能界の頂点にて活動するアイドルしか在籍していないこの学園では土日も仕事のスケジュールでいっぱいで、来る時間も、ましてや部活をやる時間もないのだろう。

「迎え、来ないですね」
「まぁな、でもこっちも喧嘩を売りに来たんだ。もう入っちゃおうぜ」
「なんでみんなそんな好戦的なんですか…」

ぞろぞろと学園の敷地内に入る五人を追いかけて、名前は校内に足を踏み入れる。見るからに高級なもので整えられた校舎内は、やはり人っ子一人もおらず、がらんとしていてどこかもの寂しさすら感じる。Edenが普段過ごしているという部屋の前まで着き、扉をノックする。反応はなく、ドアをおせば、すんなりと開いた。がらんとものが少ない、シンプルな部屋だ。誰か来ないかな、と部屋の外を覗いた名前は、こちらにやってくる生徒をみつけ、目を細めた。夢ノ咲の制服に、特徴的なモジャっとした頭。

「あれ、青葉先輩?」
「あっ、名前ちゃん。やっぱりみんなここにいたんだ」
「はい。迎えが来なかったので、先に入ろうって言って入っちゃったんです」

セキュリティチェックっぽいものがあったんですけど、どうやら作動してなくて。部屋の外にあった四角いパネルをコンコンと叩いた名前に、そうなんですね、とのほほんとつむぎが返す。

「旅館の方はどうなってますか」
「あぁ。伏見くんが荷物をホテルから運んでます。その間になにか細かい点検をしていたようですが、よく分からいんですよね。聞いても気にしないでくださいって言われるばかりで」
「そうですか。まぁそういうのは弓弦に任せておけば大丈夫ですね」
「ですね」

そんな話をしていると、部屋の中から五人が出てくる。話を聞けば、どうやら迎えに来た人とどこかで入れ違いになったらしい。校門で待っているからと、今度は六人でぞろぞろとそこに向かう。校舎を出た途端に見える、大きな暗い緑の鉄の塊。秀越学園の豪華な門構えには似合わない、大きな戦車に名前が頭を傾げれば、そのそばに立っていたメガネの人がこちらに気付いて敬礼をした。七種茨と自己紹介したその人は、目に付いた人から挨拶していく。

「ふむ、貴方様は英智猊下の妹君!次代夢ノ咲学院の支配者とも言われる名前さん!よろしくお願いします!」
「……………えぇ、よろしくお願い致します」
「えっなにそれかっこいいー!」

でも名前顔が怖いよ。みょんと名前のほっぺをつまんで伸ばしたスバルに、少し微妙な気持ちになりまして。と名前がされるままにされている。先程まで発掘作業をしていたらしいEdenの片割れの乱凪砂は戦車の中で本を読んでいるらしく、つむぎがお風呂に入れていきますね、と戦車の中に入っていった。改めて校内を案内します!敬礼した茨の後ろを、ぞろぞろとついて行く。途中で事務所に出さなきゃ行けないものがあると、あんずと真緒と別れ、連れ回されるがまま校内を回る。最後に先程勝手に入ったEdenの専用応接室に到着し、茨はこれから一週間ここで過ごすためのものを配布した。ジャージを見て興奮したスバルが真と北斗を連れて着替えに行く。その場に茨と取り残され、二人きりになった名前は、手持ち無沙汰に地面に敷かれたフローリングの木目を眺めていた。

「聞いてますよ。青年実業家の七種茨さん」
「おや、お褒めに預かり光栄です☆」

貴方様もおウワサはかねがね。天祥院財閥の仕事をいくつか請け負っている才女だと。静かだが、落ち着きのある声だ。名前は顔を上げて微笑んだ。

「私は家の事業を引き継いでやっているだけですもの。七種さんこそ、業績が傾いたご家業を持ち直したその手腕、皆さん口には出しませんが、すごいと思っておりますのよ?」
「ご謙遜を。よく聞きますよ、女にしてはもったいない、男子に産まれていたら兄上を蹴飛ばし次期天祥院財閥の総裁も夢じゃないと」
「ふふ、夢物語ですわね」
「それで、どうしてこんなお話を?」

メガネのフレームを上げた茨に、名前は首を傾げる。

「私個人としては七種さんのことはとても評価していますわ。ただ、」
「ただ?」
「『Trickstar』に何かしたら、私とても許せなくなるので、その時はご容赦くださいね」

人によっては威圧されているとすら感じる美しい笑みを見せた名前に、茨は背筋がぞくりと冷たいものが走った気がした。

「名前〜みてみてー!」
「わぁ、先輩方お似合いです!」

ジャージに着替えたスバルが戻ってきて名前に見せるようにどう!と両手を広げる。先程の雰囲気とは一転、まるでお花を飛ばすかのようにぱちぱちと両手を叩き、似合う似合うと褒める名前に、茨はいつの間にか詰めていた息を吐いた。それでは皆様に校内で1週間過ごすために必要な端末を配るので、そういった茨に、便利なものもあるんですねぇと名前が関心したように頷いて端末を受け取る。

「チャット、インターネット、電話。必要最低限なんですね」
「はい、皆様はゲストの扱いになるので必要最低限に留めています!」

もちろん、秀越学園に来るとなればまた使える機能が増えますよ!と暗にTrickstarをそちら側の陣営に取り込もうとこ聞こえる言葉に、名前はふぅんと頷きながら心の中で一つカウントした。





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