オータムライブIII



オータムライブが明日に迫っている。夜も遅いが、まだ旅館に戻っていない生徒も多い。一週間前にはステージの建設を手伝ってくれた秀越学園の生徒は、段々とその数を減らし、今ではほぼ手伝ってくれる人もいないため、手伝いに連れてきた夢ノ咲の生徒たちが頑張って建設をしている。そんな彼らを他所にあんずと名前は一足先に旅館に戻ってきたが、仕事を全て終わらせた訳では無い。二人は片手に一着ずつ、計四着。【オータムライブ】で使われることになる、秀越学園側から提供されたTrickstarの衣装を持って帰ってきたのだ。二人で寝泊まりする部屋に入れば、二人してその惨状に顔を顰めた。散らばっている書類と、散乱している布地。適当に脱ぎ捨てられた浴衣、畳まれていない布団。

「い、忙しかったんだしー、し、仕方ないよねー」
「で、ですよねー」

言い訳をするように言うあんずに同意するように頷いた名前は、とりあえず相手いる部屋を使いましょうと隣の部屋に移動した。二人の女子のために、そして恐らくは名前がいるためだろうか、英智はあんずたちの部屋のある三階の東棟に、急用以外男子の立ち入りを禁止している。おかげでこうやって空き部屋はすぐに確保できるが、あの部屋はあのままにはできない、と名前もあんずも思っている。

「高岡」
「はいお嬢様」
「うわっ」

名前が呼べばどこからともなく現れた高岡に、あんずが声をあげる。驚かせて申し訳ありません。一礼した高岡に、隣の部屋から布とミシンを運んできた名前が言う。

「私たちは作業しているから、その間に隣の部屋を片付けてくれないかしら」
「ついでにシーツと浴衣もお取り替えしましょうか」
「……お姉さま、どうします?」
「お、お願いします」
「かしこまりました」

サッと高岡が消えたドアを見つめるあんずに、旅館に備え付けてあるローテーブルにミシンをどしんと置いた名前が声をかける。

「これ、どうしますか」
「あっ。うん……見事にデザインが一緒」
「ですね。手の加え甲斐があります」
「めちゃくちゃある」

けど時間が無いから控えめになるけど。真緒の衣装を手に取ったあんずは、襟の部分を解いていく。

「真緒くんは襟の色と模様の色を逆転させるから、このまま解いちゃうね」
「はい、北斗先輩のは」
「悪い意味じゃないけど、そのままでいいと思う。あと腰のところサイズ的に緩いからちょっと詰めて」
「分かりました。あっ、真先輩のですけど、少し痩せたと自己申告ありましたのでこちらも詰めておきます」
「はーい」

何も部屋の中は静かだ。カタカタとミシンを走らせる音と、糸を切るパチンという音が交互に響く。新しい布地を付け加えたり、既存のを減らしたり、パーツを増やしたり。仕事が一段落する頃には夜も深い頃になっていた。大きな欠伸を噛み締める名前に、あんずも釣られて欠伸をする。お風呂は明日の朝起きてからにして、と決めて部屋に戻れば、スッキリと片付いた部屋に感動する。心做しかいい匂いがする気もする。まっさらなシーツにふかふかの布団。まるで灯りに誘われた蛾のようにフラフラと倒れ込めば、二人はすぐさま夢の世界へと入っていった。



うわえげつな。建設されたステージを初めて見た名前は、口から思わずそんな言葉が漏れ出た。Trickstarの真向かいに設置されたEdenのステージはそれはもうとてつもなく煌びやかで美しい。が、自分たちのステージも負けてはいないと名前は思う。みんなの汗と涙の結晶、夢ノ咲らしさがあっていいと思う。頷いた名前に、ドンと衝撃が走る。

「ねぇ名前みてみてー!どう!」
「おぉー、似合ってますよ、明星先輩」

仕上げにこれです!金色のチェーンを取り出せば、スバルの目が輝く。きらきらしてる〜!とはしゃぐスバルに、これはズボンのベルトループにかけてくださいと言えば頭を傾げられる。

「えっとですね、ベルトを通すところです」
「なるほどー!えいっ、どうだ!」

しゃらん、と控えめだが主張のあるチェーンが着けられ名前は完璧です、と頷く。円陣を組み終え、スバルたちがステージに上がっていく。あと少しもすれば開場となり、多くの客がなだれ込むようにやって来るのだろう。それまではステージにいる生徒たちにもある程度の自由があって動き回れるのだが、どこも最終のマイクテストや振り付けの確認をしていて、緊張するなぁと名前はほかのステージを眺めながら思う。それに対してステージ上でくだらない話に花を咲かせてリラックスしているTrickstarを見ると、ホッと落ち着く。

「せんぱーい!」
「おー、どうした名前」

名前がステージに向かって呼びかければ、いち早く気づいた真緒がやってくる。

「先輩なんか気になった屋台ありませんー?私買ってきますー!」
「お、いいのか!」
「んじゃあオレメロンソーダ!スプーン渡すから!キラキラのスプーン!」
「それは食事じゃないぞ明星。俺はそうだな…気になっていたんだが、まぜそばをお願いする」
「別に食事じゃなくてもいいんじゃないかな…僕はどうしようかな…あっ、いちご飴がある!僕いちご飴で!」
「わぁキラキラしてる!名前!オレも!オレもいちご飴!」
「む、じゃあ俺もいちご飴を」
「コラコラお前ら名前にどんだけ持たせる気だ。お、お好み焼きあるじゃん。俺それで!」
「はーい」

行ってきます、と歩き出した名前に、私も行くよとあんずが追いかける。校内生の優先入場により、会場内も混雑してきた。

「凄いね」
「はい。夢ノ咲のS1と同じレベルのイベントなんでしょうね」
「うん、パフォーマンスのレベルも高い」
「トップアイドルばかりいる学校ですからね。場合によっては一から育てている夢ノ咲とは違うと思います」
「そうだよね……」

お好み焼きとまぜそば、スプーンでアイスが着いてきたメロンソーダにいちご飴三つ。Trickstarのステージに戻れば、そこには大勢の観客と生徒がいた。ここ数日間は茨に頼み込まれて午後はほぼ幼女と言っても過言ではない凪砂のお相手をしていた名前とは裏腹に、あんずはあちこち駆け回ってTrickstarのステージを見に来てくれる客を捕まえていたらしい。すみません先輩、力になるとか言ったのに何もしてなくて深くお詫びします。深々と頭を下げた名前に、大丈夫だよ!とあんずが手を振る。

「名前ちゃんも名前ちゃんで色々大変だったみたいだし」
「子供の世話って大変だなって、実感しました」
「そ、そう……」

みんなに頼まれた物を裏の控え室に置いて、見学としてほかのステージを回る。向こうからドッと聞こえた歓声に、名前とあんずは足を止めてそちらを見た。Edenのステージが、周りに遅れて少し始まったのだ。

「凄い」
「はい」

思わずと言ったように呟いたあんずに、名前も頷く。特に凪砂が歌い始めてから、空気が一気に向こうに掴まれてしまった。Trickstarの面々も一瞬面食らっていたようで。すぐに持ち直したが、その表情は少しぎこちないようにも見えた。



とまぁ、こんな感じかな。提出された報告書に目を通した英智は、ぎぃと椅子に寄りかかる。ふわふわとした背もたれが心地よく背中を受け止めてくれるが、それでもどこかグラグラしている気がするのは気の所為なのだろうか。はぁ、と思わず息を吐く。

「夢ノ咲も、アイドルの育成方針を変えていくべきなのかな」
「……というと」

名前の言葉に、英智は座り直して名前を見た。少し自信なさげな表情だが、その目の奥はしっかりと何かを見つめていた。

「【サマーライブ】や【オータムライブ】にて、AdamとEveの集客力には舌を巻きました。歴史のある夢ノ咲の集客力はもちろんですが、ここ数年で新設されたばかりの学校であの集客力は、夢ノ咲だとしたら不可能です」
「そうだね」
「夢ノ咲のアイドルは、どちらかと言うとアーティスティックな面が強い。もちろん、流星隊の守沢先輩やKnightsの瀬名先輩や鳴上先輩みたいにアイドル以外の仕事で露出している生徒もいますが、現状ほぼ全てのユニットは現在歌と踊りだけで活躍しています」
「うん」
「玲明や秀越に属している頂点に立つ生徒は歌や踊りはもちろん、バラエティやドラマでもマルチに活躍することが出来る。つまり多くの場所に顔を出すことができるため、皆さんにも顔を覚えてもらえる機会が増える」
「夢ノ咲は、どうすればいいと思う?」
「ゴスプロの真似をするようで癪ですが、夢ノ咲にもアーティスト以外の仕事を受入窓口になるようなプロダクションを設置する、しかないですねぇ」

ま、その話も兄さんがやってる途中ですし。アンサンブル、スクエアだっけ?捻りがなくて安直ね。辛辣に評した名前に、でもまともな方でしょ?と英智は首を傾げた。

「ちなみに第三機関として設置する【P機関】だけど」
「うわぁダッセ」
「名前、言葉遣い」
「魅力に欠ける名前ですわね!」

先生達や氷鷹誠矢氏、あんずちゃんや、もちろん名前にも入ってもらうから、そのつもりでいてね。顔を輝かせた名前に、ちなみにうちの所にはTrickstarも引き込むつもりだから、と英智が言えば、名前の表情は蔑むようなものになる。

「Trickstarを人質似とるなんて卑怯な、みたいな顔しないで欲しいな」
「気のせいじゃないかな」

じゃあ私Knightsの方に復帰するので挨拶してきます。部屋を出ていった名前を見送って、英智は先程受け取った報告書をパラパラとめくる。最後の数ページは【オータムライブ】とは関係なく、名前なりに考えた、夢ノ咲のための企画がコンパクトにまとめてあった。その数ページを報告書から剥がし、承認の印を押した英智は、機材を手配するために立ち上がった。





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