フルール・ド・リスI



名前ちゃん、お願いがあるんだけどいい?【オータムライブ】も終わり数日。Knightsの溜まり場となっているスタジオで今後のKnightsのライブの予定や、外部から届いている仕事の依頼を捌いていた名前に、嵐が言った。一旦作業を止めて、名前は嵐を見る。

「どうかしましたか?嵐ちゃん」
「明日ね、モデルの撮影があるんだけど、マネージャーさんがお休みするらしくて。代わりに名前ちゃん着いてきてくれない?」
「私、ですか?」
「そう!いいかしら」
「えっと、特に仕事とか入っていないので、大丈夫ですけど、私でいいんですか?」

事務所に代わりのマネージャーさんとか出してもらえないんですか?頭を傾げた名前に、そういう事じゃないのよ、と嵐が笑う。最近泉ちゃんがよく撮影場所に名前ちゃん連れてってるって自慢してくるから。むぅと頬をふくらませる嵐に、あぁ、と名前は頷いた。夏の終わり頃からモデルの仕事を再開させた泉だが、ことある事に名前を呼び出しては撮影のお供に連れ回されている。名前としてはアイドルばかりプロデュースしているため、他の職種の仕事も見ておくことでプロデュースの幅が広がったり。泉としても名前の経営者目線からクライアントが求めているものが分かったりしているかどうかは分からないが、お互い割とウィン・ウィンの関係が出来ている。と名前は思っている。

「それに泉ちゃん、この間自慢げに献本広げて見せちゃってくれて!」
「へぇ……あ、デート服特集ですか?」
「やっぱり!あの女の子後ろ姿しか映ってないけど名前ちゃんなのね!ずるーい!」
「んん、私としてはすごい不本意だったんですよ、あれ」

相手役の女の子がプロ意識が足りない〜って泉先輩に怒られて。泣いちゃって撮影どころじゃ無くなったんで急遽見に来ていた私が代打にされたんですから。その時のことを思い出し、顔を顰めた名前に、あらあら、と嵐が目を丸くした。で、今回はどんな内容ですか?見上げてくる名前に、今回はね、と嵐が貰った企画書を名前に渡す。

「フラワーガーデン」
「そうなの!ちょっと学校から少し移動した所にフラワーガーデンって言うのがあってね、そこで撮影することになっているのよ」
「そうなんですねぇ。テーマは着こなし術」
「そうなのよ」

ジャケットが何種類かあってね、それを何通りか組みあわせて着てお写真撮るだけ。アタシ単体のものだし、名前ちゃんも引っ張り出される心配ないけど、どお?可愛らしく頭を傾げた嵐に、名前はもちろん、いいですよ。と笑った。



当日は電車で向かうことになり、待ち合わせにと二人ともわかりやすい学院前で待ち合わせとなった。待ち合わせ時間の十五分前に名前が学校の辺りに着けば、嵐は既に校門の前で立っていた。おまたせしてすみません。慌てて駆け寄った名前に、いいのよぉ、と嵐が笑う。もう待つ人もいないし、出発しましょ。嵐の声に、二人でゆっくりとおしゃべりしながら駅に向かって歩き出す。

「嵐ちゃんの私服、初めて見たかもしれません」
「あらそう?そう言えばアタシも名前ちゃんの私服見るの初めてかもしれないわ」

名前はじっと嵐を見た。黒いニットのハイネックに、マスタードのスラックス。そこに白黒チェックのツイードのロングコート。変装はしなくていいんですか?と聞けば、電車に乗ってからね、と細いフレームのメガネと帽子が出てくる。名前ちゃんもザ・お嬢様って感じの服装、とっても可愛いわ。きゃあきゃあとはしゃぐ嵐に、名前は自分の服を見る。遊びに行く感覚で気軽な服でいいのよ、と言われたから割と好きなように服を着て来ている。今まで遊びに行くといえば中学の時の学友とお出かけするぐらいだったので、服のチョイスがどうしても偏りがちだったのが心配だったが、それも杞憂のようだった。それから電車を何駅か乗れば、フラワーガーデンに到着した。

「おはようございます〜!」
「おはよう嵐くん。お、この子が」
「そうなの〜!アタシの所属しているKnightsのユニットのプロデューサーちゃん!」
「宝生名前と言います、よろしくお願いいたします」
「よろしくね」

軽い挨拶と軽い打ち合わせ。それからすぐさま撮影に入り、嵐が着替えてはポーズを取り写真を撮られるのを淡々と繰り返されていくのを眺める。やっと半分が済んだ、と嵐が背伸びして名前のところに戻ってきたのは、昼を少し過ぎた頃だった。ロケ弁貰ってきたから食べましょ、とテラス席でお弁当を広げる。

「どうだった?」
「なんというか、凄かったです。泉先輩もそうですけど、パパッとすぐにポーズが取れるの、尊敬します」
「あら、ありがと」

でもこんなのはもう慣れよ。と笑う嵐に、かっこよかったですよ。と名前が言う。

「雑誌になった時が楽しみです」
「あら、じゃあ献本が届いたら一緒に見る?」
「見たいです!」

お弁当から顔を上げた名前が、何かを見つける。釣られるように嵐もそこを見れば、多くの業者なのだろうか、機材やら何やらを運んでいるのだろう、ぞろぞろと列をなしていた。

「何かやるんですかね」
「さぁ?」
「あれ、知らない?フルール・ド・リス」
「カメラマンさん!」

フルール・ド・リスって、なんですか?頭を傾げた名前に、カメラマンが胸ポケットからチラシを出して広げる。

「秋のガーデンフェスティバルのひとつでね、花と音楽の祭典、フルール・ド・リス。まぁメインは秋に咲くお花なんだけど、フラワーガーデンの中央に設置されたステージで参加者が音楽を披露して誰がいちばん良かったか披露もしてるから、そっちも人気だけどね」

確か出場者まだ募集してるし、嵐ちゃんの所属しているユニットで参加とかしてみれば?カメラマンの言葉に、嵐と名前は顔を見合わせる。

「そうね…、どう?名前ちゃん」
「アリですね。デュエルもマンネリ化してきてどちらかと言うと停滞気味なので、新しい風を吹き込むという点でも是非参加したいですし、今年はもう叶わないですが、来年の『SS』に向けての戦力拡大として新規ファンを獲得する大きなチャンスです」
「あら!じゃあ参加かしら!」
「と言っても、依頼じゃなく自主参加なので、明日の放課後、全員に一度参加意思の確認をしてから、レオくんに書類を書いてもらうことになりますね」
「ちょっと面倒くさいわね。というか『王さま』捕まるのかしら」
「来るんじゃないですか?五線紙を教室からスタジオまで並べておけば」
「…………なんだかやり方が雑じゃない?本当に大丈夫?」
「なんなら明日試してみましょう」



「なんだ、なんだこれは!罠か!?罠なのか!五線紙が等間隔に並べられている!まるでおれに作曲しろと言わんばかりに!なぜ誰がどうして!?待って待って考えろ考えさせろ誰も邪魔するな!わははは!インスピレーションが湧いた!いくらでも書けるぞ!」
「本当に来たわね」
「ですね」

レオがスタジオの真ん中でかき集めた五線紙に一心不乱に音符を書き入れているのを確認した泉がスタジオのドアに鍵をかけた。まさかこんなにclassicなtrapでLeaderが捕獲できるとは。信じられないという顔をした司に、『王さま』は割と単純だからね〜と凛月が欠伸する。びっしりに音符が詰められた五線紙を抱きしめたレオが我に返る。

「お……、なんだ!?おれは囚われたのか!?」
「なかなか捕まらないからこうやって捕まえてるんでしょ〜?もう、チョ〜うざぁい」
「となるとこれはやっぱり罠だったか!不覚!」
「そうだねぇ!不覚だねぇ!」
「お前らおれをここに閉じ込めて何をするつもりだ!?いじめか!?拷問か!?」
「大人しく話聞いてくれて書類作ったら好きにしてていいから、ね、『王さま』」
「………?」

逃げないようにレオを囲み、フルール・ド・リスの説明をする。どこかで見たことある絵面だなぁと思いながら名前が眺めていれば、手続きが面倒臭いからとレオがハンコをメンバーに預けようとして慌てる。

「ダメだよレオくん。無くしたら怖いから他の人に預けてもらうって言うのはいいですけど、勝手にやっていいよってハンコ預けるのはダメです」
「というかそもそもハンコ無くしてないよねぇ?」
「待って、二人ともおれをなんだと思ってるんだ!?赤ちゃんか!?子供扱いするな!がるるる」
「我が身を振り返ってからそれ言い直してくれない?」
「スマホをちょくちょくなくしてる時点でどうかと思いますが」
「う〜〜〜〜!」

そう唸りながらごろごろと地面を転げ回り始めるレオに、うわぁと泉が仰け反る。ちょっと、汚いからやめてよねぇ!?やっと捕まえたレオを地面に押さえつけて、それで、と泉は言う。

「フルール・ド・リス、どうすんの?」
「参加する!から申請書書く!」

名前書き方教えて!ん!と手を差し出したレオに、名前は分かりましたよ、と溜息をつきながらファイルから紙を取り出す。活動参加申込書埋めてくれれば大丈夫です。レオが紙を受け取り、ふんふんと鼻歌を歌いながら空欄を埋めていくのを横目でながめる。

「あ、そうだ」
「?」
「フルール・ド・リス、そんなに手伝えないかもしれないので、先に謝っておきます」

頭を下げた名前に、えっ、と反応したのは司だ。いち早く声を上げてしまった自分に驚きながらも、周りの視線を受けながらなぜですか、と声を振り絞る。それには名前も少し驚いたようで、アクアマリンの目を丸くして、司を見た。わけも分からずおかしくなった空気に、嵐はそれを茶化すように割って入った。

「あら、司ちゃん、名前ちゃんがいなくて寂しいの?」
「いえ!あの違います!」
「大丈夫よ、お姉ちゃんもいるし、ね?」
「そうじゃ、ないんです……!」
「あらあら、可愛いお顔が真っ赤よ」

でもそれに関してはアタシもちょっと知りたいんだけど、理由を教えてもらって大丈夫かしら、名前を振り返った嵐に、大丈夫ですよ。と名前は微笑む。

「来月に大きなS1の『ハロウィン・パーティ』が控えているのはご存知ですよね」
「ええ、そうね」
「それについても内容を詰めていかないと行けませんが、それ以上に」
「それ以上に?」
「来年、天祥院財閥が創設150周年という大きな節目を迎えるので」
「ワァ」
「予想外に壮大なスケールの話が来たんだけどぉ」
「国内外から大勢のお客様を招いてパーティーすることになっていまして、それの準備がいよいよ本格化するということで」

天祥院の長女として、色々やって置かないと行けない事がありまして。それを片付ける為に少し忙しくなります。新事業にも着手しようとして、忙しくて手が回らないお兄様の代わりにやらなければならないものも多くて。一点をじっと見つめながら名前は言うが、多分その頭の中ではやるべき事をリストアップし始めているのだろう。嵐が心配そうに名前の肩を叩く。

「大変なのね、無理しちゃダメよ?あんずちゃんも最近忙しそうにしているし、二人して倒れたら学院のみんな、泣いちゃうわよ?」
「大丈夫です、高岡にヤバくなったら気絶させてでも休ませるって言われたので」

でもまぁ、どうしても空き時間はできるのでその時にはレッスン見に来ますね。にっこり笑った名前に、出来た!と名前が作った活動参加申込書の空欄を埋めたレオが大きな声を出す。じゃあそれハンコを押してから提出しに行きましょう。そう言えばまっ先に鍵を解除してスタジオを飛び出したレオを、名前は慌てて追いかけた。





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