ハロウィン・パーティI



あっ、ちょうどいい所に!午後は先生が出張で自由時間になっていたため、ガーデンテラスであんずとハロウィンパーティの打ち合わせでもしようかと名前が通りかかれば、レオに呼び止められた。

「おれちょっと飲み物買ってくるから、リッツが死なないように見ててくれないか」
「死っ…!?」
「アイツさっき気絶してたからな」
「わかりました、見ておきます……」

紅茶部がいつも活動している東屋に向かえば、そこには机に突っ伏している凛月の姿が。兄である零含め、日差しに弱い体質なのに最近昼間に活動しているせいで、色々と体に不調が出ているらしい。今なんて目に見えて顔色が悪い。元々白い肌が、今やまるで紙のように真っ白だった。起こすのは忍びないのだが、このまま太陽の下で寝るのもダメな気がして、名前は凛月の肩を揺すった。

「先輩、凛月先輩」
「んん〜、名前だ」
「先輩、せめて屋内に入って寝ましょ」
「えぇー、」
「えぇーじゃありませんよ。保健室が嫌ならKnightsのスタジオ行きましょう?」
「んんー、そうする」

名前、一緒に行ってくれる?とろんとした目で見上げてくる凛月に、もちろんですよ、と名前が頷く。珍しく手繋ごなんて言って凛月が手を繋いできたが、感覚はどちらかと言うと老人介護の感覚に近い。歩くのが遅いおじいちゃんを少し引きずるようにして歩き、スタジオに入る。そしていつの間にか凛月が使うことになっていた女子更衣室にあった敷布団を地面に敷けば、凛月はゴロンとそこに寝っ転がる。

「ふぁ、ふ、ありがとう、名前…」
「おやすみなさい、凛月せ!?」

ぐいと手を引っ張られ、よろめく。凛月先輩!?と名前が呼びかければ、一緒って言ったでしょ、と凛月が目を閉じたまま言った。ぎゅうと名前を抱きしめ、じゃあおやすみと言った凛月は、そのまま夢の国の住民となった。

「そこまで一緒だとは思いませんよ普通…」

そう言いながらも名前は人肌の温かさとここ数日の溜まった疲れに耐えきれずに、大きな欠伸をしては、次の瞬間にはもう凛月と同じく夢の世界に入っていった。



起きたら人間が一人増えていた。寝ぼけながらも名前は考える。ここではあまり見かけない焦げ茶の長髪に、長いまつ毛。あんずだ、と名前はそう思い当たって。それからガバッと起き上がった。

「どういう状況」

口にそう言葉を出しながら懸命に思考をまとめる。あんずとの打ち合わせを睡眠ですっぽかしたのと、あんずもお疲れ気味だからこうやって寝る機会を作って正解だ、とか。色々とうだうだと考えていやいやと頭かぶりふる。とりあえず二人を起こさないようにそっと起き上がり、自分の上履きを探して足を通す。いつもは嵐がメイクする時に使っている椅子に座った名前は、布団の上ですやすやと眠る二人を見つめる。自分の隣が空いたのに気づいたのか、凛月が寒そうに小さく震えてぽんぽんと布団を叩く。指先であんずを見つけたらしく、目にも止まらぬ早さで寝ているあんずが凛月によって捕獲された。

「これが海底の動物の捕食」

思わずそんな感想が出る。そしてあんずを捕まえた凛月だが、まるで抱き枕を抱っこするようにぎゅうと抱きしめた後に、何か違うと思ったのだろうか、形のいいまゆが顰められる。

「あ、捨てた」

気に食わなかったらしい、凛月が思いっきりあんずを押せば、ゴンと大きな音を立ててあんずが布団からはじき出されて地面を転がる。

「いてっ…………んぅ?」
「お姉さま、大丈夫ですか」
「あー、あー?あー、名前ちゃん」

おはよう、寝起きの少しがさついた声で言うあんずに、名前は手を差し伸べ、あんずを引き上げる。

「ハロウィンの打ち合わせ、すっぽかしてごめんなさい」
「いいよいいよ、名前ちゃん疲れてるんでしょ?」
「お姉さまもですよ。正直こうやってお姉さまを寝かせられて良かったなとも思っています」
「ありがとう」

じゃあ、時間もあるしやれるだけ打ち合わせするか。あんずの声に頷いて、名前がKnightsの誰かが持ち込んだのかは分からない折りたたみのテーブルを出して広げる。それから司の持ち込んだ座布団を敷いて、座る。もはや慣れているその動作に、あんずがおかしそうに笑った。

「それにしても、このスタジオもすっかりKnights色に染ってるね」
「ですね、撮影機材は泉先輩と嵐ちゃんが持ち込んでるし、ベッドは凛月先輩。あ」
「?」

壁側に寄せられた机に置いてある箱からお菓子を取りだした名前が、お姉さまもどうぞ、と渡す。

「司が駄菓子ばっかり食べて泉先輩に怒られたので、高岡が定期的に私に作ったお菓子を持たせるんですよ」
「ありがとう。ん、おいしい」
「高岡に伝えときますね。あとはレオくんがキーボード持ち込んだり、嵐ちゃんの化粧品が置いてあったり」
「ひえー」
「最近はレオくんがふざけてセナハウスとか言うので、もうすっかりその名前が定着しちゃって」
「何面白そうな話してるのー?」
「わ、凛月先輩。おはようございます」
「ふぁ、ふ、誰かさんが起きていなくなっちゃったから、起きちゃった」

なに、お茶会?目ざとく机の上に置いてあったものを見つけた凛月が、じゃあ俺お茶淹れる〜と言ってティーポットを出した。色々揃えてあるんだね、と呆れ通り越して感心し始めたあんずに、茶葉もあるよ、と凛月がにやりと笑う。

「ティーパックじゃないんだ」
「うん、こないだの紅茶部の時に、エッちゃんのコレクションをちょっと拝借してきた」
「いいぞーもっとやれー」
「やった、妹から許可出た」

ワイワイとお茶を淹れて、お菓子をつまみながら打ち合わせをして行く。ハロウィンパーティはS1のランクに該当するドリフェスだから、過去のドリフェスのルールのおさらいと、新しくつけるルール、当日のステージ設置とタイムテーブル、そしてそのために必要なものを手配するための注文書、細々とした物の確認をする。気付けばもう放課後となっており、Trickstarの様子を見に行くというあんずと一旦解散して、凛月とくだらない話をして時間を潰していた時だった。バン、と大きな音を立てて、スタジオのドアが開けられる。まるで雪崩込むかのように部屋に入ってきたのは、泉と嵐だった。その後ろからは司もやってくる。机を囲んで資料を広げ、お菓子を食べていた二人を見て、泉が声を荒らげる。

「ちょっと!お菓子食べてる場合じゃないんだけどぉ!?」
「えっ、セッちゃんどうしたの。こわ」
「なにかやばいことでも起きました?」
「この記事、読んで」

手に持っていた雑誌を投げるように机に置いた泉を不思議に思いながら、名前は凛月と顔を見合わせて雑誌を開く。背中合わせに立っている泉と嵐の表紙が美しい、有名なアイドル雑誌だ。発売日を見れば一ヶ月と数日後になっていて、まもなく発売される今月号ということが伺える。表紙の特集を一つ一つ読んでいく二人に、78ページ!と苛立ちながら泉が言う。言われた通りに開けば、左側のページにはTrickstarの四人が笑顔で写っており、右側にはインタビュー記事が載せられていた。上から順に目を通していけば、目の前の凛月は勿論、名前も自分の顔がどんどんと険しいものになっていくのを感じる。

「なにこれ、どういうこと」

意味わかんないんだけど。怒りを滲ませた凛月に、でしょ!と嵐が同意する。読めば読むほどムカついてくるのよ!しかもアタシ達が表紙の回でこれよ!?ダンッと足踏みをした嵐に、泉も同意した。パラパラと雑誌をめくり、裏側を見た名前が顔を上げる。

「嵐ちゃん」
「なにかしら」
「これ献本何冊あります?」
「アタシと泉ちゃんで二冊あるけど」
「一冊貸して貰えません?」
「もちろん、いいわよ」

はい、とカバンから出てきたもう一冊の同じ雑誌を受け取った名前は立ち上がった。

「ちょっと最終的には学校にも関わる問題になるので、兄さんに報告と相談をしてきます。なのでその間皆さんは、」
「わかりました!Trickstarに抗議と【デュエル】の申し込みをしに行きますね!」
「え」
「分かってるじゃん、かさくん」
「うんうん、えらいよスーちゃん」

司を先頭にして四人がぞろぞろと出ていく。ところどころ物騒な言葉が聞こえてくるのも気のせいじゃない。

「ここでレッスンでもしながら待ってて、って言おうと思ったんだが……?」
「ぐーでんあーべん!おれのKnights……ってあれ、名前しかいない!?」
「あ、レオくんおかえり?私ちょっと生徒会室行ってくるので、ここで待っててくださいね」
「お、おう?」

スタジオを出て、生徒会室に向かう。せっかく来たのに誰も居ないってどういうこと!とレオが足踏みしているのが聞こえてくるが、これに関しては後できっちり謝ろうと思っている。生徒会室の部屋のドアをノックすれば、少し間を置いて弓弦がドアを開けてくれた。

「これは、名前様。ようこそお越しくださいました」
「あー、うん。兄さんいる?」
「いるよ。どうかしたのかい?」

見ていた書類から顔を上げた英智が、名前を見てにこりと笑う。ちょっとこれ読んで欲しいんだけど、嵐から貸してもらった雑誌を見せた名前に、来月号の?と英智が目を瞬かせる。嵐がその記事に書かれているページに折り目をつけたらしい。すんなりと開いたそこを英智に向かって差し出せば、英智はそれにゆっくりと目を滑らせて行った。





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