スタフェスIII
来年からのKnightsのスケジュールを書き込む手帳、嵐とお揃いのぬいぐるみのストラップ。凛月からは手作りのシルバーアクセサリーと、レオからはレオらしい、それぞれをイメージして作った曲がそれぞれに配られた。次はかさくんだねぇ、泉の声にはい、と司が返事をして紙袋をとって来た。黒いショッパーに金の箔押しが上品なそれから四つの細長い箱を取りだし、それぞれに渡していく。どうやら司が選んだのはネクタイらしい。センスいいじゃん、珍しく褒め言葉を口にした泉に、司は顔を輝かせた。
「名前にはこれを」
「ありがとう、開けてもいい?」
「どうぞ」
司から名前に渡されたのはほかの四人とは違う小さなショッパーだった。少し細長くて厚みのある箱の中からでてきたメガネに、名前は頭を傾げた。
「メガネ?」
「はい、ブルーライトカットのメガネです」
「あぁ!なるほど」
「えぇ、よく画面に向かっている姿を見ますので」
「ありがとう!使わせてもらうね」
ゴソゴソと貰ったものを持ってきたバッグに納めた名前は、じゃあ次は私の番ですね、と言う。なんかやたらと荷物でかくない?眉をひそめた泉に、真剣に選びましたからね、と名前は笑って一つ目の箱を取りだした。
「レオくんにはこれです」
「お!ヘッドホンだ!しかも良い奴〜」
「作曲のお供にと思って。これからもたくさん宜しくお願いしますね」
「おう!ありがとう!!」
「泉先輩は悩みましたけど、こちらを」
「なにこれ」
「スティックタイプの練り香水です」
どの香りが好きなのか分からなくて、私の好みで選びましたけど。申し訳なさそうに言う名前に、泉は選んでくれてありがと、とその頭を撫でる。髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃったじゃないですか、不服そうな顔をしながらもその声は弾んでいて泉はこっそりと笑った。
「嵐ちゃんにはこれです」
「やだ!いいなって思ってたクリスマスコフレ!ありがとう〜!」
「いいえ、見かけた時これだ!って思っちゃったので。喜んで貰えて嬉しいです」
「でもアタシがあげたものと釣り合わないわね、また今度なにかプレゼントさせて頂戴」
「じゃあお言葉に甘えて……あ、凛月先輩にはこれです!」
「うわこのデカイの俺のだったんだ……あ、抱き枕だ」
箱を開けた凛月が目を輝かせる。最近はやりのビーズクッションってやつ?あら凛月ちゃん嬉しそうね。すぐさまクッションを抱きかかえたまま寝っ転がった凛月に、嵐が苦笑する。ダメだ、これは人間をダメにするやつ。クッションに顔を埋めた凛月に、Partyはまだ続いてるんですから最後までちゃんと起きてて下さいね?と司が言う。
「そんな司にはこれ」
「ありがとうございます!開けてみても?」
「うん」
名前から差し出されたケーキの箱に、司は目を輝かせる。なかから出てきた色とりどりの小さなケーキに、Marvelous!と司が歓声を上げた。どれどれ、と司の声に反応した泉が箱を覗き込んでは顔をしかめる。なぁに名前までかさくん甘やかしちゃって、不服そうな泉の声に、名前は笑った。
「それ、キャンドルですよ」
「……え?」
「へぇ、よくできたキャンドルじゃん」
「食べられないん、ですか?」
「キャンドルだし」
「…………」
しょんぼりと肩を落とした司に、思わず名前が笑った。
♪
「絶好調ですねぇ、これだと一位通過も夢じゃないです」
校内SNSに届いたスタフェスの中間発表を見た名前に、当たり前でしょ、と泉がふふんと笑う。快進撃を続けるKnightsに嬉しく思いながらも、名前は顔には出さないがハラハラもしている。心做しか胃も痛くなって来た気がして、思わず胃をさすった。
事の発端はほんの一週間前、名前がTrickstarの練習に付き合った日だった。
「そう言えば宝生には伝えていなかったな」
「なんか伝達聴き逃してましたか?」
休憩に入った四人にタオルと飲み物を渡した名前に、北斗が今思い出したかのように口を開く。あれ、まだ誰も伝えてなかったの?首を傾げた真に、えっ、なんですか、と名前が思わず一歩後ずさる。
「俺たちで相談した結果、SSの出場権をかけてスタフェスでドリフェスを行うことにした」
「は?」
「このままSSに出させてもらうのもどうかなっておもってな。先日生徒会長に挑戦状を叩きつけてきた」
む、ということは宝生には伝わっていると思っていたのだが、何も言われてないのか?首を傾げた北斗に、名前は思わず天を仰ぐ。大丈夫か?名前の目の前で手を振った北斗に、大丈夫に見えますか?と名前が問いかけた。
「見えんな」
「そうですね、大丈夫じゃないです」
「そうか、保健室に連れていこう」
「いえ、そういうのは大丈夫なので」
とりあえず四人でここに正座して貰えませんか。硬いフローリングの床を指さした名前に、え、と真緒が顔を引き攣らせた。
「あのー、もしかして名前さん、怒ってます?」
「超怒ってます。ちょっと通り越して呆れてます」
「左様ですか……」
きっちりと一列に並んで正座したTrickstarに、名前はいいですか?と口を開いた。そもそも五月の時点でもうTrickstarがSSに出場することを運営に伝えていること、運営側は了承していること。物事は全てTrickstarのために進めていること。年の瀬も近い今にいきなりの変更は出来ないこと。出来たとしても憶測を呼び、Tricksterは今後活動できるかどうかも危うくなること。
「年末のお笑い番組に出るはずだったお笑い芸人がいきなり変更されたらどう思いますか」
「何かあったのかな、って」
「Tricksterはその状態になりますよ。もしかしたらゴシップ誌であることないこと書かれて不祥事扱いされることだって十分有り得るんです」
面白おかしく騒ぎ立てられるのはハロウィンの時に痛感したと思っていたんですが、覚えてなかったんですね。淡々と言葉を重ねる名前に、四人は気まずそうに顔を見合せた。兄さんが黙っててくれているので事なきを得ていますが、これが外に漏れていたら先輩方、今頃こうやって呑気にレッスンしてる時間なんてないですからね?分かりますか?問いかけた名前に、よく分かりました、と真緒が返した。
「もう決まったものなので今更変更することも出来ないでしょう。先輩達は必ずスタフェスで優勝してくださいね」
「それはもちろん勝つに決まっている」
「もともとTricksterのことを目の上のたんこぶだと思っていた兄さんですし、今度こそ本気で潰しに来るかもしれませんね」
「えぇ、それは怖いなぁ」
「自業自得です」
ピシャリとそう言い放った名前に、だよねぇ、とスバルが苦笑した。
名前?名前を呼ばれながら肩を揺すられて、名前はハッとする。どうやら一週間前に意識が飛んでいたらしい。具合でも悪いのですか?心配そうな顔を見せる司に、大丈夫だよ、と名前は首を横に振る。ちょっと考え事してて、他のみんなは休憩とか終わったのかな。奥にいる先輩たちを見ようと体をかたむけた名前に、ちょっと事件が発生してまして。と司が眉を下げた。
「Valkyrieの斎宮先輩が行方不明との事でして」
「えっ」
「今手分けして探しているところです。どうやら風邪をひいたまま家を抜け出したらしく」
「抜け出したって……外今猛吹雪だけど?」
ライブが行われている室内は暖房がかかっており、司もKnightsのユニット衣装である七分丈のジャケットを着ていても寒いとは感じない。しかし外となると話は別だ。昨晩から怪しかった天気が朝にはさらに悪化し、さっき渡り廊下を通ってきた名前が見た外は猛吹雪で、少し目の前の先ですら見えづらい状況となっていた。それでもこの悪天候の中でスタフェスを開こうと決断した夢ノ咲の上層部には呆れたし、猛吹雪の中でもライブを見に来ようとしているファンの人達にも関心していた。
「その間ライブは出来ないけど、いいの?」
「えぇ、Valkyrieの援軍としてステージに立って時間稼ぎすることになりました」
「んー、限りなくグレーゾーン」
司ちゃん、出るわよ。嵐の声にはい!と返事し、司はステージ向かって歩き出した。がんばってね。後ろ姿にそう声をかけた名前に、司は振り返って頑張ってきます、と笑った。
♪
大きなパーティーホールはザワザワと騒がしい。手前で財界での重鎮が政界の重鎮とにこやかに会話を交わしている一方で、奥では芸能界の著名人たちが場に華を添えて多くの人に囲まれていた。歩いていたボーイから飲み物を受け取った名前は、それがアルコールではないことを確認してグラスを傾ける。
「やぁ名前」
「あら、お兄様。いついらしたの?」
「今だよ。何を飲んでいるのかな?」
「シャンメリー」
飲む?グラスを差し出した名前に、じゃあ一口もらおうかな、と英智はそれを受け取った。
「良かったわね、今年は参加出来て」
「去年は一人寂しく病室だったからね」
寂しすぎて虚しすぎて死のうかと思ったよ。肩を竦めた英智に、私がお見舞いに行ったじゃないの、と名前が唇をとがらせる。パーティドレスでお見舞いにこられても、虚しいだけだったよ。苦笑した英智に、それは気付かなくてごめんなさい?と名前が謝った。
「それに」
「うん?」
「来年になれば僕はこの家を継ぐからね、休んでる暇なんてないよ」
「……それも、そうね」
多くの来客は名前であったり、はたまた英智に挨拶をして言葉を交わしたい人が多かったが、二人でいるところに入り込むのは少し悪いと感じているらしく、二人から少し離れていた所に集まっては二人をチラチラとみている。臆せずにこればいいのに、そう言った名前に、そうだね、と英智が頷く。
「そう言えば私、お兄様にクリスマスプレゼントを用意したのよ」
「本当?実は僕もなんだ」
「あら。じゃあ後でプレゼント交換なんてしてみない?」
「おもしろそうだね、いいよ」
頷いた英智に、名前が笑顔を見せた。人混みの奥でピョンピョンと跳ねるピンク色の頭を見つけ、名前は歩き出す。
「桃くんと話してくるから、また後でねお兄様」
「うん。名前」
「なぁに?」
「メリークリスマス」
そんな言葉をかけてきた英智に、名前は少し目を丸くして笑った。
「お兄様も。メリークリスマス」