金星
真は無事に取り返せたし、真緒も戻ってきた。あんずや杏の弟、その他諸々のサポートのおかげで無事に一回戦を勝ち抜いたTrickstarはこの後も順調に決勝へとコマを進めていた。
「真先輩、パソコンとスマホ、持ってきましたよ」
「わぁ、ありがとう!こっちこそ、パソコン貸してくれてありがとう」
「どういたしましてです」
薄いラップトップを交換して、開く。それにしても、北斗先輩来ませんねぇ。ぽつりと呟いた一言に、静まり返る。お祭り騒ぎの【DDD】は文字通り、お祭りの形態を取っており、普段は広々とした校庭は様々な屋台立ち並んでは在校生や外部からの客で賑わっていた。その喧騒が、こちらに届く。空気が悪くなった気がして、名前は顔を上げる。思いのほか沈んだ4つの顔に、自分の顔も青くなるのを感じた。
「えっ、あっ?なんか地雷でした?」
「いや、大丈夫だよ。うん」
「大丈夫じゃなさそうですけど…もうこの話出さないようにしますね」
「うーん…」
「なんだかハッキリしませんね?」
じゃあ話題変えますね、と名前は手を叩く。真先輩は食べ過ぎです!びしり指をさせば、ふぇっ、なんて可愛らしい声を上げて真が驚く。大口で焼きそばパンを食べていたらしく、噛まずに飲み込んではむせている。全くお前は、なんて言いながら真緒が水を渡し、真は勢いよく半分飲み込んだ。
「だ、だってお腹すいてるんだもん。ここ数日飲まず食わずだったし。お腹すいてるって言えば泉さんがあーんしてくるし」
「………えっ、なにそのファンなら喜んで吐血するようなシチュエーション」
「ファンならね!でも僕は違うんだよ!」
「それでも食べすぎです。というか固形物を胃に入れる点に関しては全く同意できませんからね?」
「えぇー!」
「胃がビックリしちゃいますよ。まずは私が渡したゼリーとかの流動食から少しずつお粥とか柔らかいものにして、それから固形物です」
「詳しいな。絶食してたのか?」
「いえ、家族が」
あ、と思い当たる節があったらしく、真緒がよっこいせと掛け声をして隣に座ってくる。なんだかジジくさいですねぇ、と名前がのんびりと感想を言えば、うるせ、と頭を小突かれる。そして少し身を寄せてくる。
「おまえ、いいのか?」
「と、言いますと?」
「だってお前、」
「あれ、喧嘩してるって言ってませんでしたっけ」
「聞いてねーよ、つか、喧嘩なんかするのか」
すげぇな、遠い目をする真緒に、あれ、兄妹喧嘩しませんか?と名前は首を傾げる。いやするけど、と真緒は言葉を濁す。
「ちなみにこれも喧嘩の成果ですよ?」
「いや喧嘩の規模が一般人と違うんだよ」
校庭を指さしながら言う名前に、真緒が項垂れる。えっ、と名前が驚いた声を出す。
「喧嘩ってほら、仕事の邪魔して打ち込んだ数値をランダム配置にしたりとか、校正済みの書類を誤字みれにしたりとか、投資株いじって損失を…」
「せいぜい口喧嘩して物投げて酷い時に殴り合いになるだけだよ」
「なぐ……っ!?野蛮です!信じられません!」
「まぁ、そうだよな、あの人だもんな」
「殴り合いですか…………」
「早まるなよ?」
「………」
「こえーよその沈黙」
殴り合いですかぁ、ブツブツと呟いた名前は、考えておきますと言って屋台で買ったらしいフランクフルトを一口かじった。真緒はと言うと気が気でない。最近ただでさえ胃薬が手放せなくなったのに、これは新しい強い胃薬を処方してもらうべきかと悩んだ。
♪
北斗はまだ戻ってこないが、Trickstarとしては順調に勝ち進んで行っている。善戦し、時には拮抗したが、無事に準決勝までたどり着けた。最後の三戦は講堂で行うことになっており、業者が撤去するステージを横目に、四人で講堂へと走る。真の時みたいにそんなに急がなくてもいいこともあって、前に進むスピードは遅い。
「皆さん疲れてませんか?」
「大丈夫!って言いたいところだけど、割とクタクタ」
「レモンのはちみつ漬けあるから、食べる人言って」
「はいはいはい!俺貰うー!」
「僕も!」
「じゃあ貰おうかな」
一旦道の途中で立ち止まり、あんずはカバンからタッパーを取り出す。名前が再び登校するようになってからあんずと二人で作って漬けておいたのだ。あんずがその蓋を開けば、すぐさま手が伸びてくる。名前がウェットティッシュを取り出して、一人ずつに渡す。
「まだしばらく続くけど、みんなお疲れ様」
「いやいや、あんずや名前がサポートしてくれたからだろ?」
「そうそう!」
「それもありますけど、特に真緒先輩。戻ってきてくれてありがとうございます」
「お、おー…」
「真先輩は、助けに行きましたが、脱出おめでとうございます」
「へへっ、僕はもう自分で考えて動くことが出来るからね!こちらこそ、助けに来てくれてありがとう」
「スバル先輩、」
「ん?なになにー?俺にも何かあるー?」
「諦めずにTrickstarを守っててくれて、ありがとうございます」
「それは俺も言うべきだな、ありがとうスバル」
「ぼくも!ありがとうスバルくん!」
「わたしも。スバルくん、ありがとう」
「え、えぇー」
なんだか照れるなぁ、頬をほんのりと赤くしたスバルは、俺もお礼言うよ!と大声で叫んで、ビックリする。
「あんず!」
「はい?」
「名前!」
「はい!」
「俺を、Trickstarを信じて、着いてきてくれてありがとう!」
にっこりと笑う笑顔はキラキラしていて、少し眩しい。名前があんずを見れば、あんずもそうだったみたいで少し目を細めていた。
「わたしたちこそ、ありがとうだよ。」
「水を差すようで悪いのですが先輩、その、このまましんみりしてもいいんですけど、」
感謝のハグをしようとしたスバルの耳に、名前の申し訳なさそうな声が聞こえる。
「はちみつレモンでだいぶ時間潰しちゃって……急がないと、その、不戦敗に」
「い、急げー!!」
講堂に駆け込むと、観客の熱気と歓声がぶわりと身を包む。がんばれ、負けるな、応援してるよ。観客や生徒から飛んでくる応援に応えながら、スバル達は舞台へ乗る。準決勝の相手はRa*bitsだ。なずながTrickstarの前に立つ。
「おそいぞ!」
「ごめんごめん、というか、相手はRa*bitsなんだね」
「まぁな!すごいだろ!と、言いたいところだけど」
名前ちん!なずなの呼び掛けに、なんですかぁ?とニコニコしながら後ろから名前が出てくる。えっと驚くスバルに、なずなは名前の肩に手をのせる。
「残念ながら準決勝、名前ちんはこっちだぞ!」
「負けませんよ、明星先輩!」
「しののん!」
「宝生は俺たちRa*bitsも見てくれてたからな」
「オレたちも負けないぜ!」
「どっちも応援するね〜がんばれ〜」
ぱちぱちと拍手する名前に、スバルの力が抜ける。リラックス、リラックスですよ。そうしてお互いが位置について、戦いの火蓋が切り落とされた。結果は僅差でだが、Trickstarの勝ちで。Ra*bitsは悔しそうにしながらも、顔は晴れやかとしていた