桜フェス
「桜フェス?」
「うん、【DDD】でTrickstarが優勝したから、桜フェスの舞台でパフォーマンスが出来るんだって」
「へぇ、そんなものがあるんですねぇ」
【DDD】から数日、気象庁の予報通り、遅咲きの桜は満開になり、夢ノ咲学園もピンク色の花びらに埋め尽くされている。並木道なんてそれは賑やかで、ここ数日は演劇科や外部からのドラマのロケでしばしば使われているらしく、有名な女優や俳優が校内に入ろうとして警備トラブルが起きたことも。名前は自分のお弁当に目を向けて、なるほど、と頷く。オープンいなり寿司に、たこさんウィンナー、野菜のピクルスと唐揚げ、ブロッコリーに卵焼き、かぼちゃサラダときんぴらごぼう。そしていちごにぶどう。いつもの自分のご飯の量にはそぐわない大きさと量に、朝は自分に仕えてくれている執事の高岡に辛辣な言葉もなげかけたけれど、もしかして学友とと花見してくださいの意味だったのではと気付く。
「あんずのお姉様」
「ん?」
「たしか午後は自習でしたよね」
「そー、だね。アイドル科は自主練の日で、私達も椚先生が出張だから実質休みだし」
「明星先輩たちを呼んで、お花見しませんか?」
「お花見?」
「高岡が持たせたお昼の量が異様に多いので何をトチ狂ったのかと思ったんですけど、多分お花見して欲しかったんです」
あの人、肝心なところで言葉が足りないので。そういえば、あんずは広げられた三つの重箱にやっと気づいたらしい。うわぁ、と目を輝かせながら、しよう!と言ってスマホを取り出して連絡をとった。間を待たずに、四人は直ぐに来た。それぞれの手にはビニール袋が下げられている。
「やほやほー!お花見って聞いて直ぐに飛んで来ちゃった!はいこれ、レジャーシート〜!」
「先に走るな明星。宝生、お誘いありがとう。これは俺からお茶だ。何故か購買部で大きなペットボトルで売ってたから買ってきた」
「生徒のニーズを調べるために定期的に品物を入れ替えて調査してるって、この間会長が言ってたなぁ。たまに面白いものも入荷されるから、定期的に覗いて見るのも面白いかもな。はい、俺からはジュース」
「わぁ、美味しそうなお花見弁当!これってこの間生徒会長を運んで行ったあの人が作ったものなの?なんでも出来る!って感じの人間で、ザ・執事って感じがしてて凄いなぁ……あっ、僕からは紙皿とかコップとか箸とか諸々!」
「わぁ、ありがとうございます、先輩方」
広げられた弁当を仕舞い、桜並木へと向かう。メインストリートで広げられては通行の邪魔になるからと、並木道の横にある小さな道にスバルがレジャーシートをひいてみんなで腰を下ろす。それぞれに飲み物を配り、スバルの音頭で乾杯した。みんなの箸が伸びて、思い思いに食べ物を取っていく。
「!!!なにこれおいしーい!」
「でしょ!名前ちゃんとお弁当の唐揚げ美味しいんだよ……いつも貰っちゃう」
「なんでそこであんずが胸を張るんだよ」
私しか知らないからなんか誇らしくて、あははと笑うあんずが、今度はピクルスをつまんで美味しそうに悶えた。
「というか今更だけど、名前が会長の妹だったなんて!俺びっくりしたよ〜」
「あはは、なんかごめんなさい?」
「いや、謝らなくてもいい。衣更に聞いたが、兄妹喧嘩をしたんだってな」
「まぁその兄妹喧嘩のおかげで俺たちは『SS』に出られることになったんだけどな」
「さすが天祥院財閥。兄妹喧嘩の規模が違うよね…」
思い思いにコメントしていくみんなに、名前は苦笑する。なんか誤解してませんか?そう名前が言えば、えっ、と五つの顔がこちらを向く。
「確かに私は兄さんと喧嘩したし、結果としては学園に持ち込むことになったんですけど、でも、先輩の皆さんが革命をなしとげ、生徒会を倒し、見事に年末の『SS』に出場出来るようになったのは先輩達の努力のおかげです」
学院の方針に疑問を抱き、それが間違っていると大きな声で叫び、それに対抗するために立ち上がる。ユニットの始まりはどうであれ、みんなで力を合わせてここまで来たのだ。
「むしろ私こそ、個人的な問題で皆さんを巻き込んで、押し付けて、勝って、一人で優越感を抱いていたのですから、私の方が謝るべきなんです。先輩、ごめんなさい」
「顔をあげてくれ。俺たちは謝られるようなことをされていない」
「でも」
「終わりよければすべてよし。だろ?俺らはこうやって夢ノ咲で伸び伸びと活動できるようになったし、お前も会長と喧嘩したがこうやって仲直り出来たんだ。もう終わったことだろ?今更気にしても謝っても、俺らは首を縦にも横にも降らないぞ」
「………はい」
「分かってくれりゃーいいんだよ。ほら、お弁当持ってきた張本人が食べないでどうする。もっと食え」
差し出された紙皿には詰めて持ってきたものが一通り置いてあった。食べ終わったらまたおかわりしようね、取り分けてくれた真かお箸をカチカチさせながら名前に笑いかけてくれた。くるりとみんなを見回して、名前は自分の手にある紙皿を見る。卵焼きは、名前の好みで少し甘めに味付けされていた。それをひとくちかじる。
「先輩」
「なんだ、宝生」
「『SS』も、勝ちましょうね」
名前の言葉に、北斗はサラダをつまむ箸を止めて名前を見た。そしてふっと目元をやわらげて、言う。
「何を言っている。当たり前だろう」
と。