「あたしのジューン! よく来たわね!」
「ムツキって呼んでくだせェ、母ちゃん……」
「うふふ! ええそうねムツキ。あなたの名前はジューン、六月。ヒノモトの古い言葉でムツキ。愛しい子! でもどうしてサツキも連れてきてくれなかったの? マミーは寂しいわ」
 快活な女の人の声、と思った次の瞬間、ムツキは女性に抱き着かれていた。ちょっとふくよか……ううん、グラマラスな人だけれど、顔つきは愛嬌が滴るようで、若いころの愛らしさを想像させてくれる。
 セットした髪をもみくちゃにされて、ムツキは苦笑いしていた。でもちゃんと抱き返すあたり、仲良しなんだろう。ちょっと羨ましいな。
「サツキとおれが一時間も同じ電車に乗れるわけねェだろ。それより母ちゃん、紹介してェ奴が……」
 ムツキが僕とユーリューくんの方に目配せした。慌ててユーリューくんの手を取って、彼女の傍に駆け寄る。
「は、はじまして。僕は菖蒲といいます。ムツキくんには、職場に来たときからお世話になって」
「おれ、ユーリューね。おばちゃん、一週間よろしく」
 菖蒲の緊張したような声をさえぎって、ユーリューがあっさりと女性に向けていってはいけない言葉ランキング3位くらいに入りそうな禁句を発してしまった。
「こ、こら! ユーリューくん、初対面の人には敬語って言ったでしょ」
 ほんとはおばちゃんって言うなって叱りたかったが、言えなかった。
 機嫌を損ねてしまったと思い、おそるおそる彼女の表情を盗み見る。……とくに変化はない。どころか、きらきらと少女のように目を輝かせて二人を見ていた。
「いらっしゃい、レディたち! 話はよく聞いているわ! ムツキったら数年前からショーブちゃんにデレデレでね、あのムツキがこんなに懐くなんてどんな子かしらと思ってたの! ええ、でも分かるわ、あなた想像以上に可愛いもの。まるでテディベアみたい!」
「えっ!? 熊ですか!?」
「いや驚くところそこじゃねェし! ふっざけんなよ母ちゃん、なに根も葉もないこと言ってんでィ!」
「もちろんユーリューくんのことも聞いてるわよ。レディ・ショーブの可愛い弟なんですってね」
「ううん、お兄さんはおれのおよめさ……」
「テメェは話がややこしくなるから黙ってろィ!」
 来客用スリッパで思いっきりユーリューくんの頭をはたくと、ムツキはゴホンとワザとらしく咳ばらいをした。
「母ちゃん。訂正するんで、ちゃんと聞いてくだせェ。一、菖蒲は男。二、ユーリューは俺と菖蒲の同僚。三、俺はデレてねェ! 以上だ!」
「まぁ、そうなの」
 さして驚いた様子もなくそういった。
「じゃあミスター・ショーブと言うべきかしら?」
「えと、菖蒲で結構ですよ」
「わかったわ……ああ、でもこんなに小さくて愛らしい20歳が居ていいのかしら? あなたのダディもあなた自身も、こんなにデカいのに」
「この区の連中が特別でけぇだけですぜィ。あと父ちゃんはごつかっただけでしょう」
 第十区は、男女ともに平均身長が世界都市一位の記録を持ってたりする。目の前のバイタリティあふれるお母さんも、菖蒲より背が高い。170p前半程度だろうか。
「まぁ、とりあえずは部屋で休ませてくだせェ。どうせ後でヴァレリアンも来るんでしょう」
「ええ、さっき電報を打ったわ。すぐ帰還します、Mrs.マリーってお返事も来たし」
「うわっ、あいつこんなババアにも丁寧に接すんのかよ……」
「あらジューン? 何か言ったかしら?」
「痛ぇぇえ! 急に腹殴ってくる奴がありやすかィ!?」