「おいてめェ……菖ちゃんにエロいことしてみろよ? ぶった切るからな……」
「だからって拙者にケツを出せとか言ってくるのは横暴でござる! 普段から菖ちゃん(はあと)とかやってるんだから腹くくってラブラブエッチでもしてろ!!」
「テメェござる口調とれてんじゃねぇか! ふざけんな!」
とてもセックスなんかできそうにない雰囲気。今にも殴り合いそうな二人には見向きもせず、菖蒲はうんうんと打開策を練っていた。
「セックスしないと出られない部屋……かぁ。一体どんな魔法で、そんな仕掛けを作ったんだろう。魔法で作った以上は、絶対に術式をハッキングして、強制解除(エラー)できるはずなんだけど……」
一人、魔術師らしく原理を探る。張り紙のある扉からは、微弱な電子魔力が感じられた。間違いなくこの仕掛けは魔術だが、いまいちハックする隙間が見つからない。
「だいたいなんだ? てめェがケツを出さねェって言うなら、自分が菖ちゃんとしけこもうってか? 良い度胸してるなァ、エセ忍者がよォ」
「だーかーらー、拙者は女の子としかする予定はないでござる! だいたい何? 処女厨な訳? 菖蒲殿は処女じゃないと許せないって? マジ親友の皮をかぶった変態ストーカーでござるwww」
「菖ちゃんは永遠の童貞処女でさァ」
「うわっ引くわ……」
二人ともお互いを煽ることに夢中だ。
「だめだ……扉のハッキングは、最低でも半日はかかる……。早く帰らないとユーリュー君が寂しがっちゃうし……」
菖蒲は諦めて扉から離れた。きょろきょろと天井を見回すと、部屋の四隅に監視カメラが設置されている。どうやらこれで、セックスしているかどうかを確認するらしい。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人の声をBGMに、ぼんやりとカメラを眺めていると。
「……そうだ!」
突然、菖蒲が何かひらめいたように叫んだ。
ぱっと振り返ったムツキと忍をよそに、彼は呪文を吐いた。
「CODE:attack [32]」
バチッ! と、監視カメラが嫌な音を立てた。
*
「ふむ。つまり菖蒲殿があのカメラの映像機能だけを破壊して、音声だけは聞こえるようにしたと。で、セックスしているかどうかを音声だけで判定させれば、本当にセックスしなくても済む……」
「天才ですかィ!? すげぇや!」
「ふふ。もっと褒めてほしいなぁ」
「菖ちゃん!」
きゃんきゃんと飼い犬がごとく尻尾を振っているムツキ。もしくは兄心をくすぐられて心がぴょんぴょんしているのかもしれない。ああ見えて菖蒲殿は弟属性……と忍は心の中でメモをした。と、そんなことはどうでもよくて。
「確かに名案でござる。ここには女性をやり捨てることに定評にあるセックスのスペシャリスト(クズ)のムツキ殿と、年下にも犯罪者にも性的に狙われているホモ製造機の菖蒲殿が居る。そして何より拙者は、女性誌の確認作業で右に出る者はいない(自負)男……! まさに完璧な布陣と言えよう」
「褒められてる気がしねェ」
「それ誰のこと!?」
警察二人から避難ごうごうだったが、忍は知らん顔だ。
「まぁまぁ、同僚系ラブコメは幾百と読みこなしてきた拙者でござる。台本や演技には少々見識があるでござるよ? 心配せずとも、立派にベッドシーンを魅せてやろうではないか」
「……もしかして僕たちが演技側?」
「体よく逃げてんじゃねェか」
「何を言うか。大体二人とも、チュパ音とか出来るのでござるか? SEの作り方知ってる?」
「……チュパオン? チュパカブラの新種ですかィ?」
「SE……新しい魔術ハッキング方法とか?」
「はぁぁぁ。話にならんでござるよ」
まったくぅ、と何処からともなくサングラスをかけ、上着を腰に巻いた忍が肩をすくめる。もしかしてそれは、○千年前のディレクタースタイルなのだろうか……! 形から入るタイプなのか……!
「音響は拙者に任せてほしいでござる。押し倒す音、衣服を脱ぐ音……SEは侮れぬ。そも、結合音なくして管理人を誤魔化せようはずもない。素人はそこで、この台本の練習でもしてな!」
ふっとニヒルに笑い、いつの間にか大学ノートに書きあげた台本を二人に押し付けた。何の素材を集めにいくつもりなのか、アダルトグッズの山へ颯爽と歩んでいく忍の背中を、菖蒲とムツキはぽかんと眺めるばかりだった。
「な、なぜだろう……忍さんがかっこよく見えてきた……」
「仕事人の目をしてやすねェ……まぁグラサンでほとんど見えないけど」