「桜良くんにもらったんだ、これ」
菖蒲が笑った。彼の腕の中には、目にも鮮やかな薄桜色の反物。こういうと女物かと思われるだろうが、れっきとした男物だ。生地もいいものを使っていると、一目でわかった。
「菖ちゃん、それ着ていくんですかィ」
「当たり前だろ! いままで僕、着物なんか1人で着たことないから、ちゃんと着れるか心配だけどさ」
「俺が着せてやりましょう」
にこ、と微笑む。俺ァまともなことを言ってりゃあ、まともな美丈夫に見えるだろうということは百も承知の上。
予想通り、菖蒲の頬が色づく。
「……着せるだけだよ?」
「着せる以外に何しろってんですかィ、菖ちゃんのえっち」
「う、うるさいなぁ! お前の日頃の行いが悪いからだろっ」
「ひでぇや」
口ではそういうけれど、着付けなんて俺以外に頼める輩もいないだろう。うちは雅のかけらもない不良集団だ。
やっぱり菖蒲は俺の顔をうかがって、お願い、と頭を下げた。かわいいかわいい恋人の頼みを、断っちゃ男が廃る。
俺の部屋に入れて、反物を受け取った。
「おいおい、マジで高い店のですぜィこれ……」
着物の裏に、第二区でも有名な老舗反物屋の印が刻まれていた。あの後輩クンが一体どういうつもりで着物――というか服を菖蒲に送り付けてきたのか、ドスを片手に問い詰めたくてしょうがねェ。
「そ、そうなんだ」
対して菖蒲は、発言通り着物に明るくないのか、漠然と「後輩がいいものを送ってくれた」としか思っていないようで、目をきらきらと輝かせていた。
「桜良くんは、本当にすごいなぁ……。僕みたいなただの先輩に、ここまでしてくれるなんて、出来すぎだよ」
「俺だって、着物くれェ見繕いやすぜ」
「ムツキが? ……それはいいです」
「どういうことでィ」
俺のセンスを疑ってやがる。失礼な。
とりあえず、着物を返してタンスを漁る。生地は良いのだが、着物は基本的に熱が篭る。扇の一つでもと思ったわけだ。
「えーと、腕はここかな……」
「菖ちゃん、そこは身八つ口でさァ……って、はあ? なんでんなモンが」
男物の着物に、身八つ口はないはずだ。まさか子供用なのか?
「身八つ口?」
おろおろと袖を出し入れしている姿は子供っぽくて、思わず口元が緩む。
「袖は、ここですぜィ」
「あ、ありがと」
こりゃ本当に一から十まで付きっ切りで着せてやらなきゃなんねぇようだ。ワザと抱き締めるような格好で帯を巻いてやったり、着付けのフリして着物の中に手ェ突っ込んでも、菖蒲は全く怒らない。
「……楽しいもんだねィ」
「え?」
何も分かっていない子に悪戯すんのは、なかなか。
……って、あの後輩クン、まさかコレが目的で送ってきた訳じゃねぇだろうな。
「菖ちゃん、いままで1人で着たことないって言ってやしたね」
「うん。着物くれるなんて桜良くん以外居ないから」
「まさかあのヤロウが着せてたんですかィ!?」
がし、と肩を掴んでゆさぶれば、菖蒲は目をぐるぐる回して、
「い、いや、桜良くん家の使用人さんが」
と答えた。
使用人って……あの後輩クン、何者なんですかィ。
***
第二区の花火大会。
花火が打ち上げられるのは八時からで、九時までずっと打ち上げられる。結構大規模な祭りだ。
だから、第三区の警察官も駆り出されることは往々にしてある。が、俺と菖蒲は非番を取っていたので、なんとか警備の仕事は回避できた。もっとも、チャイナ野郎はぴーぴー騒いでいたもんだから、菖蒲は「花火が終わったら、ユーリューくんに何か買って帰ろうね」と言っていた。
……気分はまるで子持ちの旦那様でさァ。あーあ、俺としちゃ、このまま第二区のホテル街に連れ込んでやりたかったのに。
「……ムツキ? どうしたの、ぼーっとして」
「え」
邪なことを考えていたら、袖を引っ張られた。
夜目でもよくわかる薄桜の着物を纏う菖蒲が、心配そうにこちらを見上げていた。夜も深まってきたがそれでも暑いのだろうか、彼の額にはじんわりと汗がにじんでいる。
「具合悪いのかい?」
「いや、平気でさァ」
「そう? ……でも暑いし、熱中症かもしれないよ。ちょっと待ってて、飲み物買ってくるから」
菖蒲はそこまで言うと、はっと思い出したように、
「そうだ! あそこの十字路をまっすぐ突っ切った先に、古い寺があるからさ。そこは涼しいし誰もいないから、そこで寝てて」
「え、菖ちゃんが一人歩きなんてあぶねえよ」
「何言ってるのお前。僕は男じゃないか」
「こういう男もいること、忘れてやせんか?」
自分の方を指さすと、菖蒲は頬を染めた。
「ばかだな、僕をどうこうするのはお前くらいだよ」
「いーや、違いまさァ」
「もー! そういう冗談はいいから! じゃ、水買ってくるね! さっき言った場所で待っててよ」
そういうと、菖蒲は慣れない下駄でぱたぱたと走って行ってしまった。
仕方ないので、言われた通りに十字路の奥へとだらだら歩いていく。さっきまで人だらけだった道は、菖ちゃんの言った通り、十字路の先に進むにつれて疎らになっていった。
河川敷の近く、うっそうと生い茂る草の根をかき分けるように進むと、確かにそこには古びた寺があった。
「こりゃ、廃寺ですかねェ」
「あれれ、ムツゴロウさんじゃないですか」
「はぁ?」
聞きたくもねえ声が聞こえたんで、生霊ってことにしておきたいが、そうもいかねェ。
境内の中、白い制服がぼんやりと浮かび上がっていた。薄桜の鉢金は、青年が動くのに合わせてひらひらと揺れる。
「こんばんは。お祭りの帰りですか」
「どーも、おまわりさん。お勤めご苦労さまでさァ」
「いえいえ。これもすべて、兄様の楽しいお祭りのためと思えば、どうということは」
兄様、と、えらく仰々しい物言いで彼を呼ぶ男。
ふつう兄様に服は送らねぇよ、と心の中だけで愚痴った。
「ところでおまわりさんはサボりですかィ。こんなボロ寺でひとりって」
「ちょっと、兄様の顔が見たくて。あなたが来たってことは、兄様も来るんですよね。読みが当たってよかった」
にこり、さわやかの押し売りもいいところの胡散臭い笑顔を浮かべて、青年は更に続ける。
「おいおい、薄桜色の、しかも身八つ口のある着物を送り付けた相手を待ち伏せかィ? 第三区警察がしょっぴきますぜィ」
「ウヅキさんこそ、こんなところに何の用なのかな? 言っておくけど、町中での破廉恥行為は処罰しちゃいますよ?」
「そんときゃあ、菖ちゃんと仲良く留置所でさァ」
懐の短刀に、いつでも手が伸びそうでいけねェ。相手もかなり苛立っているようで、飾りもんの警刀を指で撫でていた。
「あれ、さくちゃん!」
一触即発、とでも言いたい状況のなか、気の抜けた声が響く。
全く間のいいことで、菖蒲がペットボトルを二つ手にして駆けてきた。
さくちゃん、なんて可愛らしい呼び方をされた男はというと、彼の姿を目視するやいなや、美しく微笑んでみせた。
「兄様、こんばんは。着物、着てくださったんですね。ありがとうございます」
「え、ありがとうございますって! 僕の方が言うべきなのに……さくちゃんったら」
「兄様、人前では……」
名前と同じ桜色の瞳が、ちらりと俺を刺した。
「桜良くん、だね。ごめんね、恥ずかしいよね」
「はい、兄様。でも二人のときは気兼ねなくお呼びください」
いらいらする。
ガキの可愛い牽制と思えばいいが、とんだエロガキの牽制は腹が立つもんでしかねェ。早く帰れ馬鹿野郎、と小さくつぶやいた。
もちろん、俺ァガキじゃねぇんで、境内の方に腰かけて会話の終わりを待つことを選んだ。
菖蒲はひとしきり後輩クンと話したら気が済んだのか、二つあったペットボトルの一本をアイツに手渡して、ようやくこちらへとやってきた。後輩クンも気が済んだらしく、特に何も言わずに姿を消した。
「ごめんね、ムツキ。待たせてしまって」
「おー、まってやしたぜ、水」
「あ……! そうだよね、ごめん! はやく飲んで」
まだ俺を熱中症と思っていたのか、菖蒲が眉を下げて謝ってきた。ご丁寧に蓋を開けたペットボトルが手渡される。
ちなみに、熱中症なんかにかかるほど、体は弱っちゃいない。ま、好意は頂いときやしょう。
一口だけ水をあおる。菖蒲がものほしそうな顔をしていたので、そのままアイツの口にボトルを突っ込んでやった。
「うぶっ! ……な、なにするの!」
「えー。菖ちゃんが口さみしそうな顔してるんで、慰めてやっただけでさァ」
「お前が飲まないとだめだろっ。僕もそりゃ、喉かわいたけど」
「じゃあなんで、後輩クンにあげちまったんですかィ」
「え? だってさくちゃんも熱中症になったら困るし……」
「……お世話焼きさんですねェ、菖ちゃんは」
扇を開いて、風まで当ててくれる菖蒲。いつになく好待遇だったんで、調子に乗って膝枕を要求してみる。彼は年下だとか弱っている人だとかにめっぽう弱いのは承知済みなので、思った通り、要望をかなえてくれた。
「しっかり休めたら、ユーリューくんのお土産買いにいこうか」
額に張り付いた前髪を、柔らかい指が優しくどけてくれる。
人のいない境内は、思った以上に夜風の通る好物件で、静かで落ち着いた時間が流れていた。この中なら、何を言ったって菖蒲は困らないだろう、と思って口を開く。
「菖ちゃん」
「なぁに」
「もう、後輩クンから着物貰うのはやめてくだせェ」
「え、どうして?」
きょとん、とした瞳がのぞき込んでくる。
ちょっとからかってやろうと思って、にやりと口の端をあげた。
「どうしてって、菖ちゃんねェ。言っておきますが、着物を着つけてたあの時点で、俺が『ほかの男から服を受け取ってきた? 許しませんぜ』って言ってたら、もうお仕置きセックス始まってましたぜィ?」
「は、はぁ!?」
ぶわ、と一気に耳まで赤くなる。
「よく言うじゃないですかィ。男が服を送るのは、自分が脱がせるためって」
「そ、それはそうだけど! でも、さくちゃんは男だろ! あんなかっこいい子が、よりによって年上の男への着物に、そんな意味を込めてる訳ないじゃないか!」
さくちゃんに失礼だよ、って言って頬を膨らませる菖蒲。たぶんアイツの妄想の中じゃ、あんたのほうがよっぽど失礼な目に合ってると思うんですがねェ。
……ま、さすがにそこまでは言わねえけど。
「かっこいいって。妬けまさァ」
「……かっこいいよ。お前と同じ部類の人間じゃないか」
「イケメンってことですかねィ?」
「ムカつくなぁ」
唇をとがらせて、菖蒲は優しい声で悪態づいてみせた。
「いいじゃねェですか。菖ちゃんはかわいいんだから」
「かわいくない。お前だけだよ、そんなこと思ってるのは」
「そーでもないと思いますぜィ」
体を起こし、向き合う形で座った。
もう大丈夫なのか? と見当違いなことを言っている菖蒲に、すこし笑って話を続ける。
「そういや菖ちゃん、さっき身八ツ口に手を通してましたねェ」
「……? あ、ムツキが違うよって言ってた穴?」
「そうそう。そこでちょっと見てほしいのが、俺の着物なんですが」
菖蒲の手を取り、彼の着物にあった穴のところまで手を導く。
「あれ? ないじゃないか」
「そうそう。俺のには……というか、男物には普通、身八ツ口はないんでさァ。これがあると、熱や湿気が着物の中から出ていくんで、便利なんですがねェ」
「へぇ……じゃあ、桜良くんは態々あるのを選んでくれたのかな?」
「そういうことかねィ?」
「え、なんで疑問形……わぁっ!?」
俺の方へ傾いていた彼の上体を、左腕だけで引き寄せる。開いている右手の方は、
「ひゃっ!?」
身八ツ口から滑り込ませ、菖蒲の肌へ触れた。ちょうど胸のあたりだ。
目を白黒させて、完全にフリーズした菖蒲。かわいくて、そのまま何度か口づけしてみると、彼は三度目のあたりでようやく衝撃から回復したらしく、ぽこぽこと俺の胸板をたたいた。
「な、なななんで、むね、」
「そりゃ、身八ツ口ってのがあるのは、男が女に簡単に触れるようにするためでもあるから……ですかねェ」
「え、……えっ?」
そこでやっと、彼は身八ツ口ってのが、女の着物にしかないってことをわかったようで、ぱちぱちと目を瞬かせた。そして、そんなとこに手を突っ込まれている自分の状況に気付いたらしく、じわじわと白い肌を赤く染め上げていった。
「やーっと分かりましたかィ、『兄様』?」
「あ、」
とん、と体を押してやると、彼の体はあっけなくぼろぼろの境内の床へと横たわった。
「で、また後輩クンからの着物を受け取る気で?」
「……も、申し訳ゴザイマセン……」
「いやいや、俺ァ構いませんぜ。俺ァ説教垂れるのが嫌いでねェ。だから、いいことしてくれたら許してやりまさァ」
「…………む、むり、できない、よ」
「えー。廃寺に連れ込んどいてそりゃないでしょうよ、菖ちゃん」
「なっ!」
びくぅ、と跳ねる肩。なるほど、多少はそういう意図もあったらしい。かわいいことするねェ。ホテル街に連れ込まなくてよかった。
「わ、わかった……僕も悪かったし……」
「やった。じゃ、いいですよねェ」
「あ、……待って。ぬがせて」
「え」
「だ、だって汚れちゃうよ、いくらなんでも彼に申し訳ない」
「そういわれると、脱がしたくなくなるんですがねェ」
この後におよんでまだ後輩クンの心配か、と面白くないような顔をすると、菖蒲にもそれが伝わったのか、すこし気まずそうな顔をする。
「むちゃをいうけど、怒らないで」
「いやでさァ」
「う……。ムツキ、ねぇ、」
菖蒲のひどく赤くなった顔を凝視すると、彼は消え入りそうなほど小さな声で、
「……ひとりじゃ脱げないんだから、おねがい」
俺の右手をとって、つたない口づけを落とした。
ぞくぞくと何かが背を這う。この鈍い恋人をいますぐ甘やかしてしまおうとする悪い癖が出たけれど、ぐっと抑えた。
「……いいですぜィ」
そういうと、菖蒲はほぅ、と息をついた。
悪いが今日は、ちょっと痛い目をみてもらおう。
「ま、お仕置きセックスは確定ですがねェ」
「……え?」
「俺だって、怒るときはありまさァ」
彼曰く、無表情な俺を崩す犯人は、間違いなく彼のみだ。だから、たまには責任を取ってもらうことにした。
***
「はっ、いやぁ、ムツキっ」
ばたばたと細い足が宙を蹴るが、邪魔にすらならない。抑え込んで思いっきり広げてやってもよかったけれど、これ以上ぼろぼろ泣かせるのも気が引けた。俺ァこれでも、恋人は大事にする性質なんで。
けれど、かわいい菖ちゃんを辱めてやりたいくらいには、怒っている。
「菖ちゃん、いやじゃないでしょう」
「いや、いやだ……おねがい、これどけてぇ!」
「俺だってやでさァ。言うこと聞いてやんねェ」
「ど、してっ? だって、さくらくん、の、きものが」
薄桜色の布地を、気遣うように身をよじる菖蒲。
何も言わずにいきなり挿入を深めれば、勝手な動きはできなくなる。
(……あぁ、目障りだ)
組み敷いている愛しいひとの後ろに、男のいろが纏わりつくのは。
「目障りでさァ」
「ふっ、あぁ、んっ」
「聞いてるんですかィ、菖ちゃん。後輩クンの色、すげぇムカつく」
「じゃ、じゃあどけて、どけてよ、汚れちゃうからっ」
「菖蒲」
「え、あ、あ、あぁ、――――っ!」
いつもは肘を使って緩和している自分の重みを、全部菖蒲の方へとかけてやった。そこそこの体格差があるため、俺が力を抜くだけで奥のほうまで刺激されてしまうらしい。ぎりぎりと食いちぎりそうなほど締め付けてくるそこと、見開かれた目から零れる涙が、彼の受けた快楽の大きさを教えてくれた。
「って、あーあー。菖ちゃんったら粗相しちゃって」
とろり、彼の零した白濁が、腿を伝って着物へと零れ落ちていく。びくびくと震えのとまらないからだは、菖蒲はそうとうこの行為に参ってしまっているのだと訴えてきた。
「むつき、もう、ゆるして」
「……いやでィ」
「ひぅっ」
まだ出したばかりの芯を乱暴に握り、手荒くしごいてやる。口の端からも目じりからも、彼の体液が零れ落ちる。その様子があまりにもクるもんだから、彼を責め立てる手の動きは早まっていく。そのまま腰を動かすのを再開すれば、もう我慢ならないとばかりに菖蒲が悲鳴のような声をあげた。
「だめ、だめだって、むつきぃっ」
「出せばいいじゃないですかィ。後輩クンのくれた一等良い着物に、一等好きな俺の手でよがった証拠、ぶちまけちまえ」
「ふ、ふざけないでっ、ばか、ばかばか、むつき、」
すっかり蕩けた顔をして、罵られたって怖くはない。
むつき、むつき、と舌ったらずな口調で俺の名を呼びはじめた菖蒲。彼が快楽に飲まれた証である。やっと後輩のことが頭から抜け落ちた、と、子供じみた喜びが俺の胸を支配する。
……あー、くそ。あんたが妬かせるのがいけないんでさァ。
「ばか菖蒲」
さっき言われた仕返しに呟いてみる。
「すげームカつくから、菖ちゃんにぶっかけてやる。ほら、菖ちゃんのでぐちゃぐちゃになったやつ、俺のでも汚して……」
「――っ、やだ、むつき、抜いちゃやだ」
「――は?」
ぎゅ、と腰のあたりに重みが。菖蒲の足だ。
「だして、だしてよぉ。僕のなかに」
「――――!」
「いつもみたいに、して……」
こんどは首元に、ゆるやかな力がこめられる。すがるように腕を回した菖蒲が、一生懸命に口づけをねだっていた。
ぐらぐらと脳みそが煮えたつような錯覚。
ああ、こいつ、よりによってこんな時まで、俺の宥め方を引き当てなくったっていいだろうに。
擦りつけられた唇に、ほとんど噛みつくように口づけた。腰を打ち付ける速度を速めると、細っこい体はかわいそうなくらいに俺の思うがままで、どうしようもなく興奮して。
「あ、あっ、くるっ、や、」
「――っぐ……は、菖蒲」
「だめ、あ、あ、あぁぁあっ――!」
何も芽吹きゃしないのは分かっているが、奥の方で熱を放つ。いつの間にか俺は彼を抱きしめていて、あんまり普段と変わんなかったかも、なんて少し馬鹿なことを考えた。
しかし菖蒲の方はそうでもないようで、子供のように泣きじゃくって俺のことを離さない。ちゅ、ちゅ、と幼げな口づけがくすぐったくも頬に何度も送られていた。
……あー、これ結構いい、かも。菖ちゃんがすげぇかわいい。かわいい。泣かせることに罪悪感はあるが。
「よしよし、もう泣くなって」
「っ、ふ、だって、むつきがぁ……」
「悪かったよ、ほら、最後は菖ちゃんの言う通りにしただろ?」
……いや、確かに、お望み通り彼の中に出したはいいのだが、思った以上に量が多かったせいか、溢れた精液がしたたり落ちていた。俺個人としてはかなり愉悦でいっぱいなのだが、これ、菖ちゃんが着て帰れるのか……?
「……うん、ありがと……」
にへら、と力なく笑う菖蒲。どうせ汚れたなら、もう一回汚したって……と欲が出てきたのをなんとか抑え、彼から体を離した。
「ムツキ、ムツキ」
「なんでィ、菖ちゃん」
ふらふらと起き上がった彼が、俺の胴へ抱き着いた。もしかして、菖ちゃんの方が熱中症になっちまったんじゃ、
「……やっぱり、今度お前から着物をちょうだい?」
「…………」
「だめ?」
「……いや、いいけど、……」
……やっぱり、ホテル街に連れ込んでもいいかな。