「どう……かな? おいしい?」
「ん……すごく美味しいよ。やっぱり、本場のお団子は格別だ」
「よかった! ここのお団子、僕も好きなんだ」

ピンク色の可愛い串団子を一本持って微笑む菖蒲に、思わず自分も微笑んでしまった。笑顔の人間を見ると、自然と顔が緩んでしまうものだろう。……特に、好意を持ってる人間だと尚更。

二区の空は広い。一区の所狭し、かつ天高くとでも言いたげに立ち並ぶビル群に空を圧迫されることはなく……低い平屋が並ぶこの街には、広々とした青空が広がっている。それだけでもう、何だか平和な気分になれるし、なんだか時間の流れも遅く感じるのだ。

「そうそう……ここのお店、お餅も美味しいんだよ! ジーンはきっと、黄な粉餅好きだろうなぁ」
「へぇ……甘いの?」
「うん! 店長さん、黄な粉餅も一つ下さい」

ジーンが話に食いついてきたのが嬉しかったのか、菖蒲が自分で黄な粉餅を頼んだ。普段甘いモノ食べ過ぎだとか何とか言ってくるくせに、今日はずいぶん俺に甘い。彼の表情すら終始甘ったるい気がする辺り、俺はずいぶん有頂天になっているようだ。

なんて、少し照れくさいと思った時……どうしても俺は逃げの一手で煙草に手を伸ばしてしまう。煙草を吸うと口元を手で覆うので、相手から表情が読めなくなるのだ。だから今もこうして煙草に火をつける。菖蒲は煙草ではなくお団子を食べるのに一生懸命だった。

「……ねぇ、そういえばさ」
「なに?」
「二区には、『煙草の煙』に関する話ってある?」
「煙草の煙に……?」
「相手に煙を吹きかけると……ってさ」
「吹きかけると……どうなるんだい」

菖蒲が不思議そうに此方を見ている気配がした。意味は分かってなさそうだけど、まぁいいか……と思いつつ、吸い込んだ煙を菖蒲の子供っぽい顔に向かって吹きかけ、

……と思ったら、ものすごい能面ヅラの男が目の前に居た。えっ、意味わかんない。と、煙草を吸っていなかったら俺も能面ヅラでお返し出来たんだけど、さすがに今はそうもいかなかった。

「ぶっ!? げほっ、ごほっ……え、誰!?」
「うわっ、外の人って会ってすぐお誘いかけるの? もうちょっと慎みってもんが欲しいよなー」

マスク付けてるから煙なんて対して影響無いだろうに、厭味ったらしく男がそう言ってきた。

というか、それは君が急に俺と菖蒲の間に現れたからだろ。事故だ。俺には能面ヅラの男をナンパする趣味はない。手早く通報してやろうとポケットのスマホを探していると、男の背後から菖蒲の驚いた声が聞こえた。

「わっ、睡蓮!? 急に現れるからビックリしたよ」
「お庭番は常に神出鬼没ですよ、菖蒲様」
「はは、君いま仕事してないだろ。忍び装束じゃない君を見るのは珍しいね」

忍び……忍者か。

「今日は午後からの出勤でしてね。でも菖蒲様のお姿をお見掛けして、つい」
「ふふ……嬉しいことを言ってくれるね。でも君なら、僕が戻ってくることくらい調べてたんじゃないのかな」
「桜良様のご命令ですけどね」

そして多分、この忍者は菖蒲の知り合い。そこまでは何となく理解した。まあ、理解しただけで存在そのものを許容した訳じゃないけれど。

「ふぅん……君は忍者なんだ。忍者の格好で見れなくて残念だよ、ぜひ『今度』忍者の格好で出てきてもらいたいね」

今度、を笑顔で強調しておく。つまり今はお呼びでないという訳だ。思慮深い二区民なら分かれよ、と軽く視線で訴えつつ。

「そうだね! ジーンにも、本物の忍者を見て貰いたいな。草の者もお庭番も、皆かっこいいよ」

忍者に興味津々の観光客の体を装えば、菖蒲はまめに俺の言葉を拾って反応してくれた。彼もこう言ってる訳だし、さっさと撤退してくれるだろう。

「かっこいい……ですか。へぇ、菖蒲様は俺がかっこいいと思ってるんですね」
「え、うん。普段はダメだけど……仕事するぞって時の君は、薊にも負けないくらいかっこいいよ」
「薊と同等じゃ嫌ですね。俺は御庭番筆頭ですし、やっぱ一番が欲し……」
「へぇー御庭番筆頭って偉い人なの? じゃあ仕事の邪魔しちゃだめだねごめん。さ、行こうか菖蒲」
「わっ、ジーン!? 黄な粉餅は!?」
「あー……忍者さんへのプレゼントでいいや」

というか、これ以上貴重な二人旅の時間を割かれたくない。

どうもあの忍者、さっきから菖蒲を口説きにかかっている気がしてならないし、不安要素からはさっさと離れるのが一番だ。

「観光は常に時間との闘いだからね。俺、早く城に行ってみたいな」
「そっか……旅行好きの君が言うなら、きっとそうだね」

ふんふん、と素直に頷いてくる菖蒲。こういう所が可愛いし御しやすいから有難い。まあ裏を返せば、他の奴に転がされる危険性をはらんでいるのだが……さっきみたいな奴とかに。

ともかく、気を取り直していこう。幸いにして奴は追いかけてこなかったし、これで問題なく旅行は計画通りに進んでいくはずなのだから。……さっきの、煙に隠した『誘い』も含めて。




このあとめちゃくちゃ睡蓮に邪魔されて煙草の本数がめちゃくちゃ増えるジーンさんだった