どんなお菓子よりも
甘くとろけるモノをあげる





sweet day





吐く息がすっかり白くなったある日のこと。
権兵衛は胸を躍らせて自室を出た。
小走りで向かったのは愛しい恋人が待つ部屋の前。
高鳴る胸の鼓動を感じながら、軽く扉をノックして声をかける。


「ハオ、入ってもいい?」


普段なら彼の返事と共にすぐに扉が開かれるのだが、今は返事どころか物音ひとつしない。
室内にはいないのだろうか。
不審に思っていると、少し遠くに特徴的なアフロヘアーを揺らしながら小さな子どもが歩いているのを見つけた。
ハオと同室で寝泊まりしているオパチョだ。
もしかしたら彼の居場所を知っているかもしれないと思い、駆け寄って声をかけた。


「オパチョ!」

「ごんべえ、どうした?」

「あのね、ハオ見てない?
 部屋にいないみたいなの」


権兵衛がそう尋ねると、オパチョは一瞬考えるような表情をしたあとこう答えた。


「ハオさま、はやおきしてでかけた」

「出かけたってどこに?」

「オパチョ、わからねえ」

「じゃあどれくらいで帰ってくるかわかる?」

「ようじ すんだら もどる。
 ハオさまいってた」

「そっか……ありがと」


ハオがどこにいるかはわからなかったが、これ以上聞いても情報は得られそうになかったため、オパチョに礼を言って別れた。
しかし、ハオが帰ってくるのを部屋の前で待っているのも退屈だ。
そこで権兵衛は、手当たり次第に心辺りのある場所を探してみることにした。




「……ここにもいない」


張り切ってハオを探し始めてから、あっという間に半日が過ぎようとしていた。
既に太陽は西の空へ傾き始めている。
彼が立ち寄りそうな場所を順に巡ってみたものの、その姿を見つけることは叶わなかった。
半日休みなく歩き回ったため、残る体力は限界に近い。
ため息をついてその場にへたり込んだ。


「疲れたあ……」

「そうだね、僕も疲れたよ」

「……え」


不意に背後から聞き慣れた声が耳に入り、反射的に振り返った。

その先には――


「ハ、ハオ!?」

「やあ、権兵衛」


片手を軽く挙げ、にこやかに微笑んでいる彼がいた。
ようやく会えた喜びを押さえ切れない権兵衛は、疲れていることも忘れてありったけの勢いでハオに抱きつく。
不測の事態にハオは咄嗟に身構えたが、権兵衛の体をしっかり抱き止めてぽんぽんと頭をなでた。


「もしかして、僕のこと探してくれていたのかい?」

「そうよ、いっぱいいっぱい探したんだから」


ハオの腕にすっぽり収まりながら、権兵衛はむうっと頬を膨らませる。
そんな権兵衛を見て、ハオは申し訳なさそうに苦笑した。


「それはすまなかったね。
 でも、部屋で待っていてくれてもよかったんだよ。
 疲れただろ?」


すると権兵衛がハオの言葉を遮るように首を横に振った。


「そんなことはいいの。
 それよりも、これを早く渡したかったから」


そう言って権兵衛が差し出したのはピンク色の包装紙で小綺麗にラッピングされた小さな贈り物。
一緒に添えられたカードには“Happy Valetine”と書かれている。


「バレンタインチョコ。
 もちろん本命だからね」


はい、とハオの手を取ってチョコレートを受け取らせる。
ハオはきょとんと目を丸くしたが、すぐにいつもの笑みに戻って権兵衛をぎゅっと抱きしめた。


「ありがとう、嬉しいよ」

「ふふ、よかった」

「1つ食べてもいいかい?」

「うん!」


ハオは早速包みを広げると、小さなチョコレートをぱくんと口に入れた。
口内にじわじわと広がる甘味と共に、チョコレートはゆっくりと溶けていく。
権兵衛は心配そうにその様子をじっと見つめた。


「どう?
 おいしい?」

「うん、おいしいよ。
 確かめてみる?」

「え? ……っ!!」


重なった唇の中でとろけたチョコレートは、今まで食べたどんなスイーツよりも甘かった。





バレンタインネタです。
裏話になりますが、実はハオ様はヒロインにプレゼントする花を探しに出かけていたのです。
外国のバレンタインデーは男性が女性に花を贈る日なんだそうですよ。
このくだりを書くと長くなるので省略しましたが。。

それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました*゜


2012/02/01 ちろこ