空は秋晴れ
私の心は雨模様





夏の終わりに





今年も終わってしまいました。

「何が?」

「何が?、じゃないよ!
 夏だよ夏、常夏サマー!!」

「……ああ、もう秋だからね」


ありったけの気合いで熱弁する私。
そしてそれをしれっとかわす我が主、兼恋人のハオ。


「権兵衛、季節は巡るものだよ」

「そういう意味じゃなああああいっ!!」


そう叫んで怒りを込めて机を拳で叩く。
反動で肩までびりびりしたけど今はそんなこと気にしてなんかいられない。
先ほどから絶対的な微笑みを崩さない愛しい恋人――ハオをなんとか説得しなければ、私の夏は……私の夏は……


「来る日も来る日も魂狩りで今年の夏終了なんてあってたまるかあああっ!!!!!」


――そうなのだ。
しかも今年はハオと想いが通じ合って初めての夏。
花火大会にプールに山に海、二人でやりたいことがたくさんあった。
あわよくばあんなことやこんなことなんかしちゃったりなんかしてウフフのフ、なんて思っていた。
それなのに、この夏したことと言えば魂狩りと魂狩りと魂狩り、魂狩りに魂狩り、って魂狩りしかしてないよ、私!!
私の夏、このまま終わらせるなんてたまったもんじゃない!!!

とは言え、本当はわかってる。
最優先するべき事項は彼の理想の世界を作ること。
私は彼の夢を叶えたくて彼のそばにいることを選んだ。
彼の気持ちの強さに比べたら私のやりたいことなんてちっぽけで、気にする価値もないことなんだと思う。

だけど。

だけど!!!!!


「夏が終わるのはいやああああ!!!」


そう言ってハオにとりすがる。


「ということで何かひとつでいいからさ、ハオと夏の思い出作りたいなーなんて思うわけよ。
 ほら、ハオだってあんまり根詰めると疲れちゃうでしょ?
 だからね、たまには可愛い彼女と二人で海に行ってアハハウフフな追いかけっことかさ、浴衣着て花火見ながら“花火きれいだね”“君の方がきれいさ”なんてこと期待しちゃったりとかね!!
 ともかくこのまま夏が終わるとなんだかすごく勿体ないような気がしない?
 絶対後悔すると思うの。
 だから二人でさ……ってハオ聞いてる?
 ちょっとこっち向いてよ。
 ねえ聞いてるの?
 聞いてないよね?
 ハオー、ハオってばー!!
 ねえねえハオ、ねえってば!!
 ねえねえねえねえ!!
 ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえってば!!」


飛ぶ鳥も落とす勢いでノンストップなマシンガントークをぶちまかす。
すべて言い終わって肩で息をしながら呼吸を整えようとすると、ふいにハオが私の方を見やっておもむろに口を開いた。


「……権兵衛」

「はいっ!」

「うるさいから出ていってもらえないかな」



ぷつん、と何かが切れる音がした。



「出ていってやるわよバカアアアアア!!!!!!」


捨て台詞を吐いて私は勢いよく走り出した。

走りながら考えた。
ハオの思いを受け止めきれない子どもな私。
自分の思いを聞いてほしいわがままな私。
そんな私は彼のそばにいない方がいいんじゃないだろうか。
そう思ったら涙があふれてきた。


「――きゃっ!?」


一瞬ふわっとした妙な浮遊感の直後、バランスを崩し前方に倒れ込む。
べちゃっと嫌な感触を覚え、自分が転んだことを知った。
数秒の間ショックで動けなかったが、我に返ってすぐ立ち上がる。
全身泥だらけで酷い有り様だ。
そう言えば昨夜は雨が降っていた。
つまずいた泥濘(ぬかるみ)に無性に腹が立ち、雨を降らせた空を睨んだ。
朝方まで雨が降っていたのに、見上げた空は爽やかな秋晴れ。
まるで私のことを嘲笑っているかのようだった。


「くっそおおおっ!!!」


言葉にならない感情が込み上げ私はまた走り出す。

涙も鼻水もぐしゃぐしゃな顔でたどり着いた先は、どこかの浜辺。
気づけば私を見下ろしていた太陽は、私の目線の高さまで傾き海の向こうへ沈みかけていた。


「海だ……」


日中は青く澄んでいる海が、今は暖かな夕日に照らされ真っ赤に燃えていた。
それはまるで――

唇を噛み締めながら俯き、その場に背中を丸めて腰を下ろした。
ゆらゆら波打つ赤い海はまるで風に揺れる炎のよう。
そんなことを考えていたらたまらなく会いたくなる。


「権兵衛」


ああ、幻聴が聞こえる。


「権兵衛!」


今度はぽん、と肩を叩かれた。
思わず振り向く。


「権兵衛」


この人はいつもこうだ。
何があってもこうやって迎えにきてくれる。
何があってもこうやって微笑んでくれる。
何があってもこうやって許してくれる。

大好きで、優しすぎるひと。


「……ハオ、ごめんなさい」


彼の腕に抱かれながら呟くと、彼は泣いている子どもをあやすようにそっと頭を撫でてくれた。
そして優しい声でささやく。


「辛い思いをさせたね。
 僕の方こそごめん」


ふるふる、と首を横に振る。
彼は何も悪くない。
ごめんなさい、もう一度そう伝えようとしたそのとき――


「権兵衛、これ」


ハオから差し出されたそれは、私の小さなわがままを叶えるもの。
決して大きくはないけれど、暖かくて優しい光を放つ炎の花だった。


「今からやろう。
 ここで、二人で」


ぱちぱちと弾ける音と寄せては返す波の音。
ふたつの音が混ざり合う、夏の終わりの静かな夜。
大好きな彼と二人、最高の夏になったことは言うまでもない。





元ネタはちろこの実話です。笑
魂狩りを仕事に置き換えてください。。
ただし、私の場合はハオ様のような気の利く相方じゃないのでラストは妄想です←

それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました*゜


2013/09/14 ちろこ