それは、穏やかなある日の出来事





ある日の事件簿





「晋作さーん」


権兵衛は長州藩邸内をあちこち歩き回りながら、愛しい人を探していた。
先ほどから姿が見えないのだ。


「いつもは呼べばすぐ来るのに……」


変ですよね、と隣の男性に同意を求める。
話しかけられた彼は困り果てた様子で、ため息混じりにこう答えた。


「権兵衛さんでもだめですか……まったく、どこに消えたんでしょうね」

「お役に立てなくてごめんなさい、桂さん」


事の経緯はこうだ。
いつものように小五郎のお小言を聞く羽目になった晋作は、捕まってなるものかと逃亡。
そこで小五郎は権兵衛に協力を依頼し、晋作を誘き寄せることにしたのだ。


「晋作さんもお説教が嫌なら、ちゃんと自分の仕事すればいいのに」

「君が気に病むことではないよ。
 それに……彼がいないときだけだからね、こうやって権兵衛さんに触れられるのは」

「え?」


小五郎の手が優しく頬に添えられる。
そのまま軽く顎を持ち上げられ、自然とお互いの視線がかち合った。


「桂さん?」


小五郎は幼い子どもを諭すように柔らかく微笑むと、人差し指を立てて権兵衛の口元に当てた。
そうして権兵衛との距離を少しずつ詰める。


「え、あ、あのっ……」


真剣な表情の小五郎に、ようやく権兵衛は自分の置かれた状況を理解した。
気づけば権兵衛の体は小五郎の腕の中にすっぽりと抱えられていた。
少しでも動けば肌が触れそうな至近距離に体が硬直する。
体を押し返そうにも、少女の腕が男性の力に敵うはずもなかった。


「かっ、桂さ――」


思わずぎゅっと目を瞑った。



――その瞬間。


「そこまでだ小五郎ッ!!」


どこからか声が降ってきたかと思えば、突然強い力で体を引き寄せられた。
視界が派手な着物の柄で埋め尽くされる。


「お前、権兵衛に何をした!?」


この声は――


「晋作さん!」


晋作は優しくも力を込めて、権兵衛を自分の胸へと抱き寄せた。
権兵衛も彼の腕に身を任せる。


「大丈夫か、権兵衛!?」

「う、うん……」


権兵衛が頷くと、晋作はそうか!と安心したように笑って権兵衛をぎゅっと抱き締めた。
それが至極心地よくて、権兵衛は晋作の胸に頬を寄せる。
晋作が満更でもない笑みを浮かべると、そんな二人の間に割って入るように声がかかった。


「晋作、邪魔して悪いが」


声をかけられて振り返る。
恐ろしいほどに美しい小五郎の笑顔がそこにあった。
瞬間、晋作の顔から一気に血の気が引いていく。


「僕が何を言いたいかはわかるね?
 ちなみに、さっきは権兵衛さんの髪についた着物の糸屑を取ろうとしていただけだよ」

「あ、ああ……ならば俺はこれから権兵衛と出かけるから、あとは頼むぞ!
 来い、権兵衛!」

「きゃっ!?」


ふわりと体が宙に浮いたかと思うと、そのまま晋作に抱き抱えられる。
それを見た小五郎は、今度こそ逃がしてなるものかと慌てて二人を追いかけた。

今日も長州藩邸は平和だ。
権兵衛は晋作の腕に抱かれながらそう思っていた。





高杉さんだいすきなくせに、全然かっこよく書けない自分が憎い!!!
なんだか桂さんがでしゃばりすぎた気が。。
表向きは保護者だけど内心実は小娘ラブな桂さん。
こんな関係が理想です←

それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました*゜


2012/01/09 ちろこ