お願いだから、姉さん
もう少し自覚を持ってください





無意識の誘惑





「姉さん、その格好は……」

「あ、慎ちゃんも見て見て!
 久しぶりのセーラー服、どう?」


そう言ってくるっと一回転する姉さんに、俺は愕然とする。
久しく見ていなかったその珍妙な格好は、よくよく見れば随分と足を露出した大胆なもので。
一体どういうつもりなのか。


「高杉さんがね、久しぶりにセーラー服が見たいって言ってるみたいなの。
 おつかいのついでに見せてこようかと思って」


高杉さんは俺と姉さんが恋仲であることを知っている。
とてもそうとは思えないその要求に高杉さんらしさを感じると共に、もう少し配慮出来ないものかと言い様のない苛立ちを覚えた。
こんなに肌を露出した格好で会いに来い、などと。
只でさえ他の男と姉さんが二人きりになるなんて考えられないのに、相手があの高杉さんだとすればさらに不安は増すばかり。
きっとまたいつもの調子で、彼女の肩を抱き寄せたり頭を撫でたりするに違いない。
しかもそれだけではない。
長州藩邸に行くまでの道でも、おそらく多くの人がこの珍妙な格好に注目するだろう。
そこで厄介なことに巻き込まれでもしたらと考えると、いてもたってもいられなくなる。
こんなことで妬いている自分はなんて器の小さい男なんだろう。
けれど、それくらい俺の頭の中は権兵衛でいっぱいなんだ。

そんな俺の心配を他所に、姉さんは楽しそうに鼻歌まで歌っている。
何にせよ、このまま姉さんを行かせるわけにはいかない。


「あの、姉さん」

「うん?」


振り返った姉さんはきょとんと首を傾げる。
その仕草がまるで小動物のようで、今すぐ抱き寄せたくなるほどに可愛い。
けれど、今はそんな彼女に見惚れている場合ではない。


「そんな格好で出かけるなんて、俺は許しません」

「えっ……」


姉さんは一瞬驚いたように目を見開き、その後すぐにしゅんと肩を落とした。
そんな風に落ち込まれると、行くなと言い切る自信がなくなってくる。


「どうしてダメなの?」

「そ、それは――」


思わず言葉に詰まる。
妬いてるから、なんて格好悪くて言えるわけがなかった。
なかなか答えようとしない俺の様子に、姉さんはぷくっと頬を膨らませて反論した。


「ここに来たばかりの頃はセーラー服で出歩くことも多かったのに」


……確かに。
何故そのときに止めなかったのか。
過去の自分が恨めしい。

俺が後悔の念に苛まれていると、姉さんは機嫌を悪くしたのかぷいっとそっぽを向いてこう言った。


「……もういいよ。
 慎ちゃんがそう言うなら行かない」

「あ、姉さんっ――」


踵を返して立ち去ろうとする姉さんを引き留めようと、そのか細い腕に手を伸ばした。
その瞬間、俺に腕を引かれた姉さんは体勢を崩し――


「きゃっ!?」

「わっ……」


俺は尻餅をつき、その上に姉さんが倒れ込む形になった。


「す、すんません!
 姉さん、大丈夫――」


慌てて体を起こした俺の視界に飛び込んできたのは、なめらかな脚線美。
それまでその美しさを隠していたひらひらした布地は、転んだ拍子に太股まで捲れ上がっていた。
露になった女子の白い肌に思わず目を奪われる。


「いたた……ごめんね、慎ちゃん」

「あっ、いや、あのっ」

「何、どうしたの?」


姉さんはゆっくり体を起こしながら、不思議そうに俺を見つめている。
今の状況で、この上目遣いは本当の本当にまずい。
俺は必死に理性を保ちながら、たどたどしく言葉を発した。


「姉さん、あ、足……」

「え?」


ここで初めて、姉さんは自分の足に視線を落とす。
露出した足に気づくと、途端に林檎のように真っ赤になった。
でもそれ以上に、俺の顔も真っ赤になっているんだろう。
姉さんは露になった部分を慌てて手で押さえると、ちらりと俺の顔を横目で盗み見た。


「俺が行くなって言いたい理由、わかってもらえましたよね」

「はい……」


頬を紅潮させたまま、彼女はそう呟いて小さく頷く。
姉さんは無自覚すぎるんだ。
どれだけの男を惑わせているか、どれだけ俺がやきもきしているか、まったく気づいていない。

そこが彼女の魅力でもあるけれど。


「し、慎ちゃん?」


そばにいることを確かめるようにして、華奢な体をぎゅっと抱き寄せる。
俺の腕にその身を任せる愛しい人。


「権兵衛は、俺のだから」


無意識の誘惑には、負けない。





慎ちゃんかわいいですよね。
ショタな見た目と男らしい中身のギャップが最高!
高杉さんから浮気してしまいそうです←

それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました*゜


2012/01/21 ちろこ