雨粒を見ながらきみとふたり
さて、何を話そうか





虹色キャンディー





天気は雨。
軒下から雨雲に覆われた空を見上げてみるが、しばらく止む気配はなさそうだ。
食材の買い出しに出かけた悟空と権兵衛は、やむを得ず店の前で立ち往生する羽目になってしまった。


「……どうすんだ?」


金色に輝く瞳を数回瞬かせ、悟空はそう尋ねた。
言いながら、両手いっぱいに抱えた大きな買い物袋を担ぎ直す。
中に入っている食材が袋の内側でごろりと動いた。
そんな悟空の様子を見た権兵衛は、降りしきる雨粒を一瞥して彼の質問に答える。


「傘は宿だし……ここで雨宿りするしかないでしょ」


肩を落としてため息をついた。
対する悟空は特に気にする様子もなく、あっけらからんとした様子だ。


「っていうかさ、これだけ食いモン持ってたら傘持てねえよなっ」

「うん、そのほとんどは悟空のお腹の中に入っちゃうけどね。
 ――もちろん、私の分も含めて」


見事に的を射た発言だった。
食べ物の恨みは恐ろしいとよく言うが、あながち嘘ではないらしい。
痛いほど身に覚えのある言葉と冷めた視線が矢のようにぐさりと刺さる。
実際、悟空が彼女の食事にまで手を出しているのは紛れもない事実なのだ。


「……でも、そういう権兵衛だってけっこう食ってると思う」

「むっ、そうかもしれないけど悟空ほどじゃないもん。
 おかげで食材買ってもすぐなくなっちゃうんだから」

「でも三蔵のカードあるし」

「そういう問題じゃないの。
 この前だって私のお菓子全部食べちゃったでしょ。
 ゆっくり食べようと思って残しといたのに」

「……ごめん」


とうとう言い負かされて、悟空はしゅんと頭を垂れた。
するとその様子を見た権兵衛が、くすりと小さく笑みをこぼした。


「でも、いっぱい食べるからこそ悟空なんだけどね」


そう言い添えて、権兵衛はにっこりと微笑んだ。
どうやら彼女の方が悟空よりも一枚上手だったようだ。
対抗する気が失せてしまった。


「なんか……腹減った」


いつもの口癖が漏れる。
悟空はその場にクタッとしゃがみこんで腹部をさすった。

――腹、減るよな。やっぱり。

悟空はうんうんと頷いて自分を励ました。
最後の一言に救われはしたが、思いのほか権兵衛の言葉に酷く落ち込んだらしい。
はあっと深くため息をつき、がっくり肩を落とした。

そのとき頭の上にそっと何かが乗せられた感覚に気がついた。
悟空が思わず顔を上げると、傾きに合わせて頭上からぽろっと転がり落ちそうになる。
権兵衛が「あっ」と呟いて慌てて手を添えると、間一髪、それは権兵衛の手のひらの上に落ちた。
悟空はその物体に視線を移す。

それは、ピンク色の包装紙に包まれた小さなキャンディーだった。


「はい」


権兵衛は悟空の手のひらを取ると、そう言ってキャンディーをそこに握らせた。


「お腹減ったんでしょ?」

「……ん」

「1個だけね」


右手の人差し指を立て、三蔵たちには内緒だよ、と微笑む権兵衛。
悟空はそんな権兵衛の表情と、手のひらでころんと転がるキャンディーを交互に見やった。
数回それを繰り返した後、キャンディーの包み紙を外して中身を口に入れる。
甘酸っぱい香りと味がふわりと口内に広がった。


「……さんきゅ」

「どういたしまして」


二人は顔を見合わせて笑った。
と言うよりも、自然と笑顔になっていた、と言う方が正しいだろう。
そこでふと、権兵衛がふとあることに気がついた。


「あ、止んでる」

「え?」


権兵衛が目をやった先に視線を移すと、いつの間にか雨が止んで爽やかな青空が広がっていた。
これで宿に帰ることができる。
そしてそこには、さらに二人を喜ばせるものがあった。


「虹!」


叫んだのは悟空だった。
店の軒下から出てみると、七色の虹が空に大きく美しい弧を描いて彼らを出迎えた。


「ほんとだ、きれい!」


権兵衛もその存在に気づき、ぱあっと明るい表情を浮かべる。


「雨宿りして良かったね」

「そーだなっ」


権兵衛の言葉に悟空は大きく頷き、ニカッと白い歯を見せた。
その表情に釣られて、権兵衛も思わず頬が緩む。
そして、おもむろに悟空の前に自らの手を差し出した。


「荷物、半分こして帰ろ」

「おうっ!」


二人は荷物を持って、仲間の待つ宿へと歩き出した。
所々にできた水溜まりには、小さな空が映し出されている。
そこには青い空と同じように、虹が輝いていた。





前作の短編に続き、また雨が降っていますね←
でも特に意味はなかったりします\(^o^)/

親心としては、この2人にはこの関係のまま続いていってほしいなと思います(^^*)笑
旅が終わってからくっつく方が彼らにとっては幸せなのかなあ、なんて。。
いつかそのときのお話も書いてみたいですね◎

それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました*゜


2012/04/23 ちろこ