恋せよ乙女





アンハピネス
 -男子禁制作戦会議-






カナに連れられて向かった先は基地の中で花組が普段寝泊まりしている小さな部屋。
カナが簡単に事情を説明すると、マッチは「それめっちゃいいーーっっ!!権兵衛、可愛くなってハオ様のことメロメロにしちゃお!」とピョンピョン飛び跳ねながら喜び、マリは無言で私をベッドへ座らせるといつの間に取り出したのか櫛とヘアゴム、ヘアピンを使って器用に私の髪を編み始めた。
飛び跳ねていたマッチも自分の荷物から何やら薬草をいくつか選び、「権兵衛にぴったりな香水調合してあげる!」と張り切っている。


「あ、あの、二人とも……?」

「いいのいいの、権兵衛はおとなしくプリンセスにされちゃって!」

「権兵衛……マリが、可愛くしてあげる……」

「えっ、いやいやマッチもマリちゃんも何言って……
カ、カナさんどうしようっ……!」


なんだかこれまでにないキラキラした瞳で私を見るマッチとマリに困惑しつつ、助けを求めるようにカナへ視線を送る。
私と目が合ったカナはゆるく口角を上げて至極楽しそうにこう答えた。


「それじゃアタシは権兵衛に似合いそうな服でも見繕ってくるわ」


じゃあね、と手を振ってどこかへ行ってしまうカナ。


「えっ、ちょっ、カナさんまで……!?」


急な展開に頭が追いつかないまま、私はただ花組にされるがままになるしかなかった。

そして、2時間後。


「かっわいいーーー!!
 カナちゃんの見立てバッチリだしマリちゃんもヘアアレンジ器用すぎーっ!
 権兵衛、めちゃめちゃ可愛くなったよ!」

「マリ……がんばった……」

「マッチの香水もいい感じじゃん?
 なんていうかこう……権兵衛らしさを引き立たせてるっつーか……」


あまりにも花組が絶賛するので恥ずかしさが込み上げたが、ゆるく崩した編み込みとふわりと巻いた毛先はまるでお伽噺のお姫様のようで誰が見ても“可愛い”と漏らしてしまいそうだ。
袖口に控えめなフリルをあしらったシフォン素材のワンピースが風に揺れ、明るいベージュは私の肌にもよく似合っている。
マッチが配合してくれた香水は華やかなフローラルの香りにほんの少しだけウッド系の穏やかな香りが混ざり、落ち着きのある柔らかな甘さが漂っていた。


「私じゃないみたい……」


そう思わずぽつりとつぶやく。
私の反応を見て満足そうにマッチが頷いた。


「うんうん、これならハオ様も驚いて権兵衛のこと抱きしめちゃうかもね?」


ハオの名前が出るだけで心臓が跳ねる。
一度自覚してしまったら落ちていくのは早い。


「で、でも私っ……ハオのことまだよく知らないし……」


――そうなのだ。
ハオの婚約者宣言により立場上はそうなっているとしても、実際まだ彼のことはよくわからない。
知っているのは時折見せる寂しそうな横顔と、戦いのときの感情のない冷たい瞳、それから一派のみんなと過ごすときに見せるほんの少しだけ肩の力を抜いたような笑顔。
そして、星空の下で私に見せてくれた優しい笑顔。
あのときハオは確かに私を見てくれていた。
それでもどこか不安になるのはなぜだろう。
私を見て笑ってくれたのに――


「そんなのはこれから知っていけばいいんだよ。
 権兵衛はハオ様のこと、知りたいんだろ?」

「うん……でもハオにはどうせ私の気持ちもうバレてるし……」


なぜなら彼には霊視能力があるから。
今思えばS.O.F.で私が考えていたこともすべてハオに知られていたのだろう。
恋心を自覚したとして、今さらどんな顔で会えばいいというのか。

そう考えていると、マッチがきょとんとした顔で尋ねた。


「えーっ、なんでバレてるって思うの?
 だって権兵衛、ハオ様のこと好きって言ってないじゃん!
 それにむしろ 今までの権兵衛の態度からだとどっちかというと好きよりも避けてるみたいに見えるし……ハオ様がどう思ってるかなんてわかんないじゃん?」

「え?だってハオは――」


心が読めるじゃない。
そう言いかけて、口を噤んだ。

……花組は、知らない?
ハオが心を読めること。


「権兵衛?ハオ様が何?」

「えっ、あ、ううん……だって、ハオは……心、読めてるでしょ、あの人……」


一瞬の、間。


「っ……あっははははは!!
 何それ権兵衛!!」

「……権兵衛、おもしろい」

「っははは、まあ確かに心読んでるんじゃないかってくらいアタシたちのこと理解してくれてるなって思うことはあるけどさ……」


花組が“さすがにそれはないって”と腹を抱えて笑う様子を見て、私は彼女たちがハオの霊視能力について知らされていないことを確信した。
じゃあ、彼が会ってすぐの私にそれを話したのはどうして?
すぐに殺すつもりだったから?
でも私は生かされている。
口封じの必要がない程度の者だと思われている?
それならなぜ婚約者という立場を与えたの?

胸にもやもやと靄がかかる。
ハオと……話さなければならない。
私の気持ちも含めて、今夜、きちんと話そう。


「ああもうほんと、権兵衛っておもしろい――……って権兵衛?大丈夫?」

「あっ、ううん、ちょっとボーッとしてた!
 そうだよね、ハオは私の気持ち知らないかもしれないし……これからどうするか考えないとね」


マッチの大きな瞳にのぞき込まれ、咄嗟に笑顔を作って話を合わせた。
幸い私の心のざわつきには気づいていないようだ。


「そうだよー!せっかく可愛くなったし、今夜二人で話せるように時間作るね?」

「そうそう、あとのことはアタシらに任せな」

「マリ……がんばる」

「みんな……うん、ありがとう。
 今夜、ハオと話してみるね」


そう言って花組の部屋を後にした。
ハオが好き。
彼のことを知りたい。

けれど……ほんの少し、聞くのが怖くなった。



To be continued ...




2025/05/27 ちろこ