今日から私も彼の“仲間”





アンハピネス
 -仲間という名の鎖-





ハオが部屋を出て行ったあと、私は震える肩を押さえて深呼吸をした。
何度か繰り返すと次第に震えも収まり、だんだんと落ち着きを取り戻していく。
そうして改めて今の状況を見つめ直してみるが、余計に混乱を増すだけだった。

家族を失い、見知らぬ少年に拐われたかと思えば、その少年から強引なプロポーズを受け――


「昨日まで普通の女子中学生だったのに……」


はあ、と深くため息をついた。
これっぽっちも現実味のない状況に頭を抱える。


「ごめんなさい、権兵衛。
 守れなくて……」


歌音が申し訳なさそうにうつむいた。
私は慌ててその言葉を否定する。


「わわ、謝らないで!
 歌音がいてくれなかったら、私もうこの世にはいなかったもん。
 守ってくれてありがとう」

「でも……」

「いちいち気にしないの!
 まずはここから出る方法を考えなくちゃ」


歌音を励ましながら、部屋の中をぐるっと見回してみる。
部屋といっても家具はベッドといくつかのライトのみ。
壁には出入り口である扉と、空っぽのクローゼット、そして小さな窓がひとつ。
この窓もせめてもう少し大きければ、ここから外に出ることも可能だが、わずかに外の光が漏れているだけで人一人が通れるほどの大きさではない。


「一旦廊下に出なきゃ何ともならないか……」


しかしこの建物の構造がわからない以上、むやみに脱出を図るのは危険すぎる。
迂闊に部屋から出て、ハオに見つかってしまうことだけは避けたかった。
歌音に見てきてもらうことも考えたが、ハオは歌音の姿も見ることができる故、意味のない策だった。


「ここ、どこなんだろ……」


現在地のヒントが少しでも得られればと思い、窓から外を覗いてみる。
しかし、残念ながら大した手がかりはつかめなかった。
それどころか、見知らぬ景色にますます不安が募る。

自分が今どこにいるのかもわからない。
頼れる人もいない。


「あ……」


ふいに、ハオが言い残していった言葉を思い出した。


“廊下の階段を降りた下の階に僕の仲間を集めておくよ。
落ち着いたら顔を見せに来てくれ”


どんな人なのかまったく想像がつかない。
彼と行動を共にする仲間など、まともな人間であるはずがないと思った。
しかしここでハオの言葉を無視し、顔を合わせることを拒否すればどんなことになるのか、そっちを考える方が恐ろしい。
それに今の状況下ではハオ以外で頼れる人を見つけたかった。
もしかすると一人くらいまともな人間かいるかもしれない。

とは言え、なかなか部屋を出るまでに至らない。
部屋の中をあちこち行ったり来たりしていると、コンコンとノックの音がして返事をするより早く部屋の扉が開かれた。
そして扉の向こうから現れた彼が、待ちくたびれて退屈していたと言わんばかりに首を回しながらこう言った。


「もう降りて来られるだろ?」


なかなか降りてこない私に苛立っていることは感じられた。
しかし表情は変わらない。
この笑顔はやっぱり好きになれない――
そう思ったことも読まれているのだろうと思いながら小さくうなずくと、ハオに連れられて部屋を出た。階段を降りると、ある扉の奥から話し声が聞こえた。
一人や二人ではないようだ。
無意識のうちに体を強張らせ、ぎゅっと拳を握っている自分に気がつく。
今までに味わったことのない緊張感の中、そんな私の姿など気に止める様子のないハオが“仲間”のいる部屋の扉に手をかけた。


「みんな、待たせたね」


案内された大部屋には大柄で体格のいい男性や私と同い年くらいの女の子、よくわからないブロックを被った小さな人に、幼い男の子まで、実にバラエティーに富んだ人々が立っていた。
とにかく人数が多い。
予想していた数の倍以上だ。
ほとんどが日本人ではないようだったが、皆日本語を話している。
リーダーであるハオに合わせているのだろうか。
そんなことを考えながらポカンとあっけにとられている私の横で、ハオが口を開いた。


「さっき言っていた名無しの権兵衛。
 彼女も今日から僕らの仲間だ」


……そうなのだ。

彼らは皆、仲間という言葉の鎖で繋がれた人間たち。
そして今日から私もそのうちの一人になる。

半ば諦めにも似た感情がこのときの私を支配していた――



To be continued ...




2013/05/27 ちろこ