絶望の中の小さな光





アンハピネス
 -融解メランコリー-





頭が回らない。
私はこれから一体どうしたらよいのだろう。

けれど考えたところで状況が変わる見込みはないのだ。
それならば、とりあえずこの場の空気に流されて現状を切り抜けるしかない。


「名無しの……権兵衛、です」


ハオの仲間たちを前にして、小さな声で自己紹介をした。
一斉に向けられる視線。
沈黙が痛い。
彼らの目に私はどんな風に映っているのだろう。


「……というわけだから、みんなよろしくしてやってくれよ」


ハオが酷く整った笑顔で言うと、仲間と呼ばれる人々はそれぞれに小声ざわざわと話し始める。
すると、これから私の同胞になるであろう彼らのうちの一人が私の前に出て、すっと手のひらを差し出した。
他人を見下すような目付きと煙草の臭いが印象的な女性だ。
彼女の手を取るべきか迷っていると、奥の方から「カナちゃんダメダメー!」と大きな声がして、人の間を縫うようにして声の主がひょこっと顔を出した。
明るいオレンジ色の髪と、くりっとした大きな瞳が可愛らしい女の子だ。
年は私と同じくらいか、少し年上だろうか。


「それじゃ怖がられちゃうよ!
 あ、アタシはマチルダ・マティス。
 マッチって呼んでね!」


私の手を両手でぎゅっと握りながら、マッチはニカッと笑った。
口角が耳まで上がりそうなまぶしい笑顔に、少し不安が和らぐ。
この子は悪い子じゃない――直感でそう思った。


「別に怖がらせようなんて思ってないっつーの。
 アタシはカンナ・ビスマルク。
 カナでいいよ」


そう言って再度、カナは私に手を差し出した。
気まずそうに目は反らしていたが、先ほどまでの威圧感はもう感じられなかった。


「あれ、そう言えばマリちゃんは?」


マッチが回りをきょろきょろと見回す。
どうやらハオの仲間にはもう一人女性がいるらしい。
そのときマッチの後ろにゆらりと黒い人影が見えた。


「……マリ、ここにいる」

「ワッチ!?
 もー、びっくりするじゃん!
 マリちゃん、いきなり後ろに立たないでよ!」

「……マッチが、気づかないだけ……」


マッチの後ろに亡霊のように立ち“マリちゃん”と呼ばれた彼女は、金髪のツインテールに裾の広がった黒いワンピースを身に纏っていた。
ブルーの瞳と整った顔立ちがアンティークの人形を思わせるような美少女だ。


「ハハ、マッチは本当におもしろい子だね。」


ふいに、しばらく様子を見ていたハオが口を開いた。


「僕の仲間で女性なのはこの三人だけだからね、女性同士で何かと世話になる部分も多いと思うよ。
 それじゃあみんなにも順番に自己紹介をしてもらおうか」


マッチのおかげで場の空気が少し柔らかくなり、それからは一人ずつ名前を教えてもらったり、雑談をしたりして時間を過ごした。
初めは警戒せずにはいられなかったが、みんな初対面の私に気さくに話しかけてくれた。
もちろん性格は様々だが、同じ主に集う者として一種の絆のようなものはあるように感じられた。
これだけ人数がいれば、こうやって新しい仲間が増えることに慣れているのかもしれない。

そして心なしか、こうやって談笑しているときのハオはただの少年であるように思えた。
仲間に囲まれた彼の笑顔は、私に向けられるあの冷たい笑顔ではなく柔らかく温かさを感じるものだった。


「そういう顔、できるんじゃん……」

「え、権兵衛何か言った?」

「あ、ううん、何でもない」


マッチに話しかけられ、ハッと我に返る。

うっかりボーッとしてしまっていた。
たとえ仲間がどんな人間でも、ハオ自身にはまだ油断は禁物なのだ。
そう、油断はできない。
彼の持つ炎の精霊にいつ魂まで焼き殺されるかわからないのだから。


「……」


それでもなぜか気になってしまい、マッチに気づかれないように再度ハオの方を盗み見る。

――やはり違う。
私に向けられるのは常に感情の読み取れない冷たい笑顔ばかりだというのに、今の彼は心から安心した笑顔を見せている。


「――っ!!」


ふいにハオと目が合いそうになり、パッと視線を反らす。
その瞬間、ほんの少しの戸惑いとわずかに刺さる胸の痛みを覚えた。

しかしこのときの私はまだ、このちくりとした痛みが何なのかわからずにいた。



To be continued ...




2013/08/12 ちろこ