これはいったい、どうしたものか お子様王子と眠り姫 時折吹く風が爽やかな初夏の午後。 愛しい少女の姿が見当たらないことに気づいた僕は、思い当たる場所を隈無く探していた。 「いったいどこへ――」 そう言いかけたとき、まだ探していない場所があったことに気がついた。 彼女のお気に入りの場所。 「権兵衛」 ここいらで一番の大樹の木陰。 そこにもたれかかって、彼女はすやすやと規則正しく寝息を立てていた。 声をかけても起きる気配はない。 「……よく寝てるな」 すとん、と権兵衛の前に腰を下ろし、眠っている彼女の顔を見つめる。 長くて繊細な睫毛に、絹糸のようになめらかな髪、柔らかくほんのり赤みのある頬。 そのすべてがまるでお伽噺の眠り姫のように美しい。 ――さわりたい。 むらむらと沸き上がる衝動。 たまらず、薄紅色の頬にかかっている髪の毛にそっと触れた。 「んっ……」 その瞬間、権兵衛はぴくりと身動ぎしてゆっくりと瞳を開いた。 反射的に頬に触れていた手を引く。 「……ハ、オ?」 「目が覚めたかい?」 胸中を悟られないよう慌てていつもの笑顔を繕った。 しかし心臓は鳴り止まない。 「あれ……私、寝てた?」 「こんなところで寝たら風邪引くよ。 さあ、一緒に宿舎へ戻ろうか」 そう言って権兵衛に手を差し伸べる。 しかし権兵衛は首を傾げて不思議そうな表情を浮かべ、こう答えた。 「……ハオ、どうしたの? なんだかすごく顔が赤いけど」 「――っ!?」 うわ、これはまずい。 そう思い咄嗟に視線を逸らした。 「えっ、ちょっと大丈夫? 今日のハオ、変だよ」 権兵衛は心配そうに上目遣いで僕の顔を覗き込んでくる。 心配してもらえるなんてこの上なく喜ばしいことだが、この状況ではむしろ逆効果だった。 「大丈夫だよ」 「具合悪いんじゃないの?」 「僕のことは気にしなくていい」 「でも……」 「いいから帰るよ!」 火照った顔を権兵衛に見られないよう、わざと背を向けるようにして彼女の前を歩いた。 権兵衛は僕より数歩後ろから、置いていかれまいと小走りでついてくる。 額にじんわりと汗が滲む。 追い付かれてしまっても困るので、自然と早足になっていた。 帰るよ、と彼女に声をかけたのは僕の方だけれども。 「待ってよ、ハオー!」 彼女の声が遠い。 僕は我に返って足を止めた。 「あの……私、何かした?」 権兵衛は乱れた息を整えてから、恐る恐る僕に声をかけた。 僕はと言えば、振り返ることはせずに彼女に背を向けたまま口を開く。 「権兵衛」 「な、何?」 「…………」 「ハオ?」 こんなことを言ったら君は驚くだろうか、それとも笑うだろうか。 「――さわっても、いいかな」 突然の問いかけに頭が真っ白になったのだろう、権兵衛は僕の言葉をそっくりそのまま返してきた。 「さ、さわるって?」 「正確に言うと、さわるだけじゃなくて抱きしめたい」 「え、ええっ!?」 やっぱり妙なお願いだったかな。 僕の後ろにいるため権兵衛の顔は見えないが、どんな表情をしているかはおおよそ想像できる。 「ごめん、今のは――」 聞かなかったことにしてくれ――そう言うつもりだった。 しかしそれは叶わなかった。 なぜなら今度は僕の方が頭が真っ白になってしまったから。 「……満足しましたか、ハオ様?」 後ろからぎゅっと優しく締め付けられるこの感覚。 背中に柔らかいものが当たっているということは言わないでおこう。 「うん、ありがとう」 そう言うと僕の胸に回された腕を軽く掴み、背後にいた権兵衛をぐっと前に引き寄せた。 華奢な体は下手をすると折れてしまいそうだから、丁寧に包み込むように、それでいて逃げられないようにしっかりと抱きしめる。 「ちょ、ハオ……っ」 それ以上は言わせない。 権兵衛が悪いんだよ。 こんな可愛いことをされたら、触れるだけで終われるわけない。 君のその柔らかな肌も、甘い吐息も、すべて僕のモノさ。 好きだよ、権兵衛。 何よりも大切な僕のお姫様。 「お子様」=「純粋・独占欲が強い」のイメージで書きました。 ぐだぐだになりました。 ごめんなさい← それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました*゜ 2012/01/09 ちろこ |