#01




悪魔的な妖艶さを醸し出す、類稀なる才能の持ち主である彼は、ひょんなことから生徒会長の座に着いたらしい。
生徒会を設立するため奔走していた蓮巳は、そんな彼にお小言を並べている。
私は生徒会室の隅で、それが終わるのを静かに待っていた。

朔間零。海外を駆けまわる一つ上の先輩。
夢ノ咲学院が誇るスーパースター。
噂でしか知らなかったが、実際目にするとその存在感に圧倒される。この学院には何人ものアイドルがいるけれど、群を抜いた実力者であることはひと目で分かった。

「妻瀬鹿矢、だっけか?坊主の彼女の」
「……彼女とは違いますけど、どうも……?」

お小言がひと段落ついたのか、朔間零――朔間先輩は視線を私に移して見定めるように言葉を投げかけてくる。
自分の存在を知られていたことに多少の驚きはしたものの、付属してきた情報は耳を疑うものだったので即座に否定しておく。

「ふ〜ん?よく話に出てくるからてっきり」
「違いますけど!」
「あはは、悪い悪い。からかい過ぎたな?……いや。ただでさえ特殊な立ち位置で大変っぽいのに、生徒会みて〜なつまんねえ雑務まで押し付けられてお前も苦労するな〜?って」

蓮巳の話や私が持っていた書類の束を見てそう判断したのか、朔間先輩は薄い笑みを浮かべて腕を組んでいる。

どうもこのひとは留学していたらしいけど。
生まれて一年も経っていない広報準備室や私のフルネームを知っていたりと夢ノ咲学院の事情をそれなりに把握しているということは──恐らくは情報通。
交友関係も広そうだし、そういう面も含めて一流なのだろう。

「私、正式には生徒会じゃないですよ。提出物とかで訪ねてたら、時々見ていられなくなって……なんやかんや手伝ってるくらいです」
「へえ?」
「俺としては生徒会に入って欲しいくらいだがな。……どのみち、役員が揃うまで事務仕事に関しては手を借りることになる。何が変わるわけでもない、肩書きの有無の問題で──」
「嫌だよ。誘ってもらえるのは嬉しいけど、生徒会とか向いてないもん」

問題児がまた一人増えた、みたいな顔をして蓮巳はため息をつく。

ともあれ、これが朔間先輩とのファーストコンタクトである。
まだ波乱のひと波も立っていなくて、……まあある意味では学院は混沌としている、なんてことない春の日のことだった。




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