Record:01 再演
くるくるくるくる、踊って舞って目が回って。
歌が聴こえる。音が聴こえる。雑音を消していくように聴き惚れてその場に座り込んでしまいそうなクラシックが、ロックンロールが、ジャズが、ダンスホールを満たしていく。
満杯になれば窓から出て行ってしまうのは寂しいけど、際限なく湧いて出てくるのだから問題ないだろう。
私は中心で踊り続けている。
綺麗なドレスを纏って、ガラスの靴を履いて――まるでお姫様みたいに。
終わらない歌を口にしながら、骨が擦り切れるまで回っている。
***
ばん、と無理矢理叩き起こされたような目覚め方。
見慣れた校舎にごろんと落とされた私は、埃を払って起き上がる。いつかこんなことがあったような気もするけど――なんだったんだっけ。
私、なにを、してたんだっけ。いまいち、思い出せない。
廊下は無人だ。夜の校舎なのだから当然ではある。けれど、暗がりの中から足音が段々と近づいてきて──聞き慣れた声が異なる音を紡いだ。
「こんな時間に何してんだよ。とんだ不良学生だな、……鹿矢ちゃん?」
窓から差し込む月光に晒された彼は、廊下を我が物顔で歩いてくる。まるで映画の登場シーンだ。だって字幕が見えるもの、とふわふわした思考の中で姿を捉える。
字幕が流れてるってことは邦画じゃなくて洋画かな。イギリス映画とかどうだろう。
「……不良学生は朔間さんのほうでしょ。ピアス付いてるし」
「いや、偏見だろそれは……。まぁ“まじめ”な鹿矢ちゃんからすればそう映るのも分かるけどさ」
一年前の朔間さんの姿をしたそのひとは静かに私を見下ろす。
本物だ、という確信があった。髪型も口調も懐かしくて少し狼狽えてしまうけれど。
つまるところ私は過去にタイムスリップでもしたのだろう。流行りの小説や漫画のように。それが一番腑に落ちる答えだ。
「……ふぅん。つうか、“零”って呼んでくれなくなっちまったのか」
「……。ええと、もう一回言ってくれる?」
「約束したろ。呼び捨てにするって……忘れたとは言わせね〜よ?」
耳を疑うような台詞に瞬きする私を、じろりと眺めて五秒位。
廊下に這いつくばっていた私を引き上げた朔間さんの手は冷たい。というか、そんな呼び方を約束した覚えはないですが。
脳が状況を解析し終わらない間にも距離を詰められて、反射的に後退りをすれば壁にぶち当たる。
どうしよう、ひとまず場を凌ぐためにと最小音量で。羞恥もふわふわしているうちに。一生口にすることが無いと思っていたそれを向けた。
「…………………………れ、零」
真っ赤な瞳が私を覗き込む。
なにその表情、ちょっと驚いたみたいな反応はなに。自分から言い出したことのくせに。
どこか悲しそうに目を伏せて、一言。すぐにいつもの調子を取り戻した朔間さんは離れていく。
「うん、やっぱり俺の知ってる鹿矢ちゃんじゃね〜な」
「えっ」
「呼び捨てにするとか、そんな約束してね〜んだよ。まんまと引っかかりやがって」
「は、はぁ!?なにそれ!」
悲痛な私の叫び声が廊下に響き渡る。
それを面白そうに笑う朔間さんは、少しだけ幼くも感じるけれど――いやいやいやそうじゃない。この男、カマかけてたな。
「誤魔化すつもりだったのかもしれね〜けどさ、俺様ちゃんの目を誤魔化すなんて百年早いんだよ。……まず、あいつは“朔間さん”じゃなくて“先輩”って呼ぶし基本敬語」
「ぐ……それはそうだった……」
「それと。ネクタイ」
「ネクタイ」
はっと胸元を見れば緑色のネクタイが視界に映る。
流れるように朔間さんを見上げれば今気付いたのかよ、と呆れた表情を浮かべていた。
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