#24



太陽に焼かれ続ける地面と、爆音の音楽。
立ち位置の確認、楽器の調整、音響や照明の調節。オールオッケー。出演者の紹介と、リハの様子もSNSにアップしておいてね。裏の電源も好きに使って構わないから。
プロデューサーから指示があったらしいスタッフさんは、汗を拭いながら早口で用件を伝えたと思えばすぐにステージの方へと駆けていく。
はい、と返答した先の背中はじっとりと汗が滲んでいる。

――何をしてるんだろう、私。
今日は『Knights』のステージがあるのに。暑さにぐらぐらと視界が揺れている。気を抜くと倒れてしまいそうだ。

支給されたミネラルウォーターを飲み干して、機材を背に日陰を探す。
凛月が居てくれたら絶好のお昼寝ポイントもとい日の当たらない涼しい避難場所を見つけてくれたんだろうけど、仮にこんな灼熱地獄に召喚しようものなら可哀想だ。本当に灰になってしまうかもしれない。

「急に呼び出してごめんね、妻瀬さん。ウチのスタッフが午前中どうしても来れなくなっちゃって。夕方から別件があるんだよね?午後には解放してあげれると思うから」

夕方からというか――演目確認と通しの予定があったから午前集合で、現地へ向かっていたところに呼び出しをくらったんだけど。

「(…………きっと良い経験になる。それに仕事のカバーをすることで私個人の印象も良くなる)」

そう言い聞かせて、急ぎ足。
『午後』がいつなのかはさておき、任された仕事に取り掛からなければ。モタモタしていると本番にすら間に合わない可能性も出てきてしまうし。

午前中に不在となってしまったのは『インターン』先の広報担当で、数日の間仕事に同行させてもらったり教鞭を取ってくれた人物だ。
ベテランの代打なんて烏滸がましいが知識が皆無というわけではない。辛うじて、勤め上げることはできるだろう。

――来賓リストにざっと目を通したけれど。どうやらこのライブには業界の重鎮も来るっぽいから、コネを作るには絶好の機会だ。
実際、『現場を駆け回る夢ノ咲学院の制服を着た女子高生』は目につきやすいのか、リハの視察に訪れた数名に声をかけられて連絡先も交換済みだし。
野外のライブ会場という、若干浮ついた空気感なので“そういう”接触も比較的容易で。セクハラ紛いの言動やらが無かったとは言い切れないが。

それすらも私にとっては価値を失いかけた期間限定の武器のひとつだから消費していくことが賢明にも思う。
可能な限り『後輩』はそういうものから守ってあげたいところだけど、コンプラとか色々厳しい世の中でも現場ってそんなものだ。
幸か不幸か開演前の来賓受付も押し付けられてしまったことだし、存分に励むとしよう。得られるものはどこからでも得なければ。

今回の野外ライブは『インターン』先に所属するバンドやシンガーソングライターの出場がメインだ。
でも。今に見てろ、『Knights』だって絶対に巻き返してドームを埋め尽くしてやるんだから。

「(……はぁ。瀬名、大丈夫かなぁ)」

ようやく辿り着いた木陰に腰を下ろす。
汗を拭って、葉っぱの隙間から見える青をぼんやりと眺めながら、ど正論を突きつけて私を送り出した友を想う。

私が付いていたところで何にもならないのは分かってるけど。……だから『ここに居て』とか求められることもないとも思うけど。
大切なひとが苦しんでいる時に何も出来ず離れているのは、寂しいものだ。




BACK
HOME